閑話 神様、慌てる


 ~ 神様Side ~


 ハルトが魔法を色々と使えるようになってる頃、一人慌てふためく御仁がいたとかいないとか・・・




「な……なんじゃありゃ~~~~!?」


 いきなり大声を出した神を見て、エリスはまた深いため息をついた。


「どうしたんですか? ラウル様……また何か突拍子もないことでも思いついたんですか?」


 上級神であるエリスは、また創造神であるラウルが厄介事でも思いついたのかと、疲れたような顔を向けた。


「ち、違うんじゃ! こりゃどういうことなんじゃ!?」

「何が違うんですか? 言葉にしないとわかりませんよ?」

「そ、それがじゃな……前に下界の者を異世界へ召喚させたじゃろ?」


 エリスは少し考え、そういえばそういう者が居た事を思い出す。


「はいはい、ラウル様が3日も4日もサボってたあの時ですね?」


 ラウルはエリスの額に怒りマークが浮かんでるのを見て冷や汗を流す。


「そ……そうじゃが今はそんなことは関係ないんじゃ!」

「はぁ……それで? 何があったんです?」

「うむ、その召喚した者、ハルトがじゃな……な、なぜか無属性以外の魔法を使っとるんじゃよ」


 エリスはまた何を言ってるんだと思っていた。


「そりゃ属性魔法の適正があるなら使えるんじゃないんですか?」

「違うんじゃよ、ハルトは無属性以外適正がないんじゃ、なぜならワシが力を授けてないんじゃからの」


 そこでまたもやエリスは呆れた顔をする。


「え? ラウル様……せっかく3万年ぶりの下界の者と話せたのに、力を一切与えずそのまま送り出したんですか……?」

「じゃ……じゃって力いらんて言うから……」

「その言葉通りに力を授けずにそのまま送り出したと……あなたバカですか?」

「バカとはなんじゃバカとは!」

「そのままの意味ですよ! ……それで? なんで属性魔法使えない者が属性魔法使えてるんですか?」


「正確には属性魔法ではないのじゃが、ハルトは身体強化以外使えないのに、鑑定やアイテムボックス等の魔法を使っておるのじゃ」

「え? どういうことですか?」

「うむ、多分じゃが、ハルトがその魔法を自分で作ったようなのじゃ」

「え? そんな事が人間に可能なんですか?」


「できるわけがないのじゃ! しかしハルトは実際に使っておるのじゃ、今さっきもディメンションズホーム? なんつー異空間に住めるようにする魔法を作った所なのじゃ!」


 そこでエリスの顔が少し驚きの表情になった。


「まさか…… 異空間を作ったということですか……?」

「うむ、そのまさかじゃ! しかもあやつ、その空間をこの神界に似せておってな、それでそこを神界と呼ぶのはおこがましいと言う事で、神の庭と書いて、神庭(かんば)と呼ぶ事にしたようじゃ。中々にセンスのある名前じゃのう! ワシに敬意を払っておるのかのう? ふぉっふぉっふぉ!」


なんて意気揚々としているラウルを見て、呆れたエリスの顔がある。


「いや、名前なんてどうでもいいので、なんでそんな事ができるのですか?」

「それがわからんのじゃよ……」


 エリスの呆れた顔が一層深まる。


「はぁ……そもそも力を与えずに異世界にほっぽり出したらどうなるか、まさか分からないほどバカじゃないでしょ? その時点であり得ないのですが?」

「う……うむ、それはそうなんじゃが……」

「じゃあ何で力を与えずに送り出したんですか?」

「いや~それが……あ、あやつがの……神様の食事を食べたいなんて言うからじゃな」

「神様の食事ですか? そんなのあるのですか?」

「いや、あるわけがないのじゃ、じゃからの? あやつが食べたい物を作ってやるといって、ずっと作って食べさせてたんじゃよ」


 エリスはまた、変な事をしやがってと、立派に蓄えた髭(ひげ)を引っこ抜いてやろうかと思った。


「ま……待つのじゃ! 髭(ひげ)だけはやめてほしいのじゃ!」

「またナチュラルに頭を覗いて……それで? 食事を作って与えたってどういう事ですか?」

「う、うむ、じゃから食事なぞあるわけもないのじゃからの、こう、ワシの神力でハルトの頭の中にある料理を作って、あやつにそれを食べさせてたんじゃよ」


 ここでエリスの顔が変わる。


「は? ……え? 神力で料理を作って、それを食べさせたですって?」

「う、うむ、そうなんじゃ……な、なんかまずかったかの……?」


盛大にため息をついて、エリスはなんて馬鹿な事をしたんだと、ラウルの髭(ひげ)を思いっきり引っ張った。


「いだだだだだだ、こ、こりゃ! 抜ける! 抜けるって!!」

「抜く気で引っ張ってますからね」

「あだだだだ、や、やめんか~!!」


 ようやく手を離され、ラウルが涙目でエリスに訴える。


「おぬし! 本気で引っ張ったじゃろ!? 涙が止まらんわ!」

「当たり前です、久々に思いっきり引っ張りましたからね」

「な、なんでじゃ!? 痛いじゃろまったく……」

「はぁ……本気で気づいてないんですか?」

「な、なにがじゃ?」


 事の問題に一切気づいてないラウルを見て、エリスは本気でこのジジイをどうにかしてやろうかと思った。


「そ……それでじゃ、何が問題じゃったのかの?」

「ええ、問題も問題、大問題です、まず、力を一切与えてないのも問題ですが、それよりもさらに、あり得ないほどの問題です」

「な、何が問題なんじゃ? ……はよう言ってくれんかのう……」


 エリスは一息つくと、努めて冷静に、そして淡々と話す。


「まず、食事などはこの神界にはありません、なぜなら私達は魂というか、霊体みたいな物ですからね」

「う、うむ、そうじゃのう」

「そして、ここにそのハルトと言う者を呼んだという事は、実体ではなく、その者の魂を呼んだという事でよろしいですね?」

「うむ、そうじゃ」


 エリスはまだわかってないこのジジイに、ようやく核心を話す事にする。


「そのハルトという者の魂に、ラウル様の神力で作った食事を与えたと、ラウル様の神力で作った食事を」


 大事なので2回言ったが、はたしてこのジジイが気づくだろうか?ちょっと心配なエリスであった。


「うむ、そうじゃ、ワシの神力で作った料理を美味そうに食べておったぞ」


 なんて満足そうな顔で言うこのボンクラジジイ……ほんとに○してやろうかしら……?

 エリスの額に怒りマークがびっしり並んだのを見て、ラウルは背中に滝のような汗を流す。


「ま……待つのじゃ! まだ死にたくないのじゃ!」

「はぁ……○したって死なないでしょあんたは……」

「ま、まぁそうじゃが、気分の問題じゃよ……ってあだだだだだだ! 髭を引っ張るのはやめるのじゃ!!」


 エリスはこの間抜けすぎるジジイに、もう直接あなたは馬鹿な事をしましたと言う事にした。


「もう、はっきり言いますね」

「う、うむ……頼むのじゃ……」

「あなたが、人間であるハルトの魂に、あなた自身の神力を与えたんです、私でも他の誰でもない、創造神であるあなた自身の神力をです、意味がわかりますか?」


 そう言われてラウルは、ようやく思い至る事ができた。


「あ……なるほどのう、そうか、ハルトはこの創造神ラウルの神力を得たということか、なるほどのう……って!? 大事じゃないかそれは!?」

「だからさっきから言ってるじゃないですか……力を与えなかった事よりも大問題だと……」

「なんてこった~~~い! ハルトが創造神になってしまうじゃと~~~!? ってあだだだだだ!」


 またも容赦のないエリスの髭の引っ張り。


「馬鹿な事を言ってないで、まじめに考えてください」

「わ、わかったから髭を離すのじゃ!! あだだだだ!」

「はぁ……まったく。」

「ひぃひぃ……お~痛いのじゃ……」


「それで、創造神にはなりませんが、普通、人の魂に創造神のあなたの神力を与えたら、魂の器が壊れますよ?」

「た……確かに、しかしハルトはいくら食べても壊れる様子などなかったがのう?」

「それは多分ハルトという者が、ラウル様との相性がよかったのではないでしょうか?」

「どういう事じゃ?」


「ラウル様の言葉を受信できると言う事は、一定以上の相性が無いと無理だと思うのです、そこをクリアしたハルトは、ラウル様との相性がいいのでしょう」

「うむ、確かにそうじゃのう、しかしそれだけでは、ワシの神力を貰っても器が壊れない事にはならんじゃろ」

「そこが問題なんです、きっとハルトの魂は、神力の受け皿としての機能が備わっていたのだと思います、それもあり得ないほどの大きさで」


 そこでようやく事の大きさに気づくラウルが、またもや冷や汗を流す。


「ま、まじか……」

「ええ、ま・じ・です。」


 ラウルはさらに、どのくらい神力をあげたか思い出した。


「ま……まずいのじゃ、これは非常にまずいのじゃ……」

「ええ、まずいなんてもんじゃありません、人の身で神力があるなんて、どこの世界でもありえないことです」

「そ、そうじゃないのじゃ……神力を与えた量がまずいのじゃ!」

「え?量? ……一体どれほど与えたのですか……?」


 またもや呆れた顔をするエリス、ほんとにこのボンクラジジイは余計な事しかしないと、もう何兆回思った事だろう。

 ラウルが冷や汗をかいたまま、喋ろうとしない。


「そ・れ・で? どのくらい与えたのですか?」

「あだだだだ! ま、待つのじゃ! 喋るから待つのじゃ~!!」


 中々喋ろうとしないラウルの髭を、今日何度目になるのか思いっきり引っ張って、喋るように促してやる。


「た、たしか……」

「たしか?」

「わ、ワシの……神力尽きるまで?」

「……は??」

「じゃ、じゃから、ワシの神力が尽きるまで料理を作ってたのじゃ……」


「え? それを全部ハルトは食べたのですか?」

「う……うむ、全部というか、最後の3.4品以外はじゃな……ってあだだだだ!」

「そ・れ・は ……全部と言っていいんじゃないんでしょうかね!」

「ま、待つのじゃ! もう髭が無くなるのじゃ~!!」


 実は1本も抜けてないのだが、この期に及んでまだ惚(とぼ)けてるジジイに、エリスは諦めの境地に至ったかもしれないと、一人で思っていた。


「はぁ……そもそもラウル様の神力が尽きるなんて事、今までありましたか?」

「いや、全くないのじゃ、それが不思議なんじゃよ、料理を作るだけでなぜああも神力がなくなるのか……」


 ラウルはあの時を思い出してみる、ただ料理を作った、それもたかだか3日くらいだ、なのに神力が枯渇寸前まで行ったのを思い出す。

 それは数百億年生きるラウルにとって、初めての感覚だったのだ。


「あの時は不思議じゃったのう……ただ料理を作るだけで、気分が高揚して、気づいたら3日も経っており、神力も枯渇寸前じゃったのじゃ」

「う~ん……料理を作る以外で何かしてませんでしたか?」

「いや、何もしとらんのう」

「どういう状態で料理を作ってたんですか?」

「こう、頭の上に手を置いて、頭の中の料理を覗いてじゃな」


 エリスはそこで思い至る事があった。


「その頭に手を置いた状態で、頭の中を覗くのに神力を使いますよね?」

「うむ、そうしないと見れんからのう」

「はぁ……多分それ……神力を吸収されてたんじゃないんですかね?」


 そこでラウルが驚きの声をあげた。


「うぇ!? しょ、しょんな馬鹿な……」

「うろたえてますよ、まったく……多分、料理を作るだけじゃなく、手をずっと置いてた事によって、ハルトの神力が空っぽの器に、ラウル様の神力が延々と注ぎ込まれてたんじゃないでしょうか?」


「そ、そんな事が起こるのかのう……?」

「実際ハルトという者が神力を持っているのならば、ありえない話ではないでしょうね」

「う、うむ、確かにハルトは神力を使っとるのう、本来、無属性魔法の身体強化ぐらいしか魔法は使えんはずじゃからな」

「なら、確実に神力を分け与えてますね。本来なら器が壊れるはずの神力を、適正のあるハルトの器に限界ギリギリまで与えてますね。私でも誰でもない、創造神であるラウル様の神力を」


 今度は冷や汗が引いて行き、青ざめていくのを感じるラウルである。


「そ、それはまずいんじゃないのかのう?」

「ええ、ですから言ってますよねさっきから……大・問・題です!」

「ど……どうするのじゃ~~~~~!?」


 慌てふためくラウル、ここに来て、周りの神々達も何事かと見ている。

 まぁその大半が、またラウル様とエリス様か……と思っているようだ。


「もう送り出したのですから、どうしようもないですよ、いくらラウル様とはいえ、もう下界に手を出す事はできませんよ」

「し、しかしじゃなぁ……そうは言ってもワシの神力を持った人間なぞ、やばいのではないのかの?」

「やばいなんてもんじゃありませんよ……だって創造神でしょあなた?ならハルトがその創造神の神力を使ったらなんでも生み出せるではありませんか……それこそ手のひらサイズの星でさえも……」


「や、やばいのじゃ~~~~!? どうしたらいいのじゃ~~~!?」


 実際には、星を作り出すには世界の理(ことわり)を完全に理解してないと作る事はできない、

 そして他の物を生み出すにも、その理を理解してなければいけない、ただ簡単な物だとある程度の知識があれば、願えばできるようだが。


 とりあえず、ラウルがほんとにまずいと思ってる事にちょっと安心するエリスだった。

 しかし……


「ワシと同じ力を持った人間なんていやじゃ~~~!! ワシが唯一無二の創造神なのじゃ~~~~!!」


 エリスはここに至って、初めて本気でずっこけるという経験した。


「そこじゃないでしょ問題は!!」

「あだだだだ!! わ、わかってるのじゃ! 髭を引っ張るのやめるのじゃ!!」

「はぁ……もう、どうしようもありません……ハルトという人物がまともな人であることを祈るしかありませんね」


「う~~~、まさかこんな事態になろうとは……」

「そもそもなんでラウル様はハルトに食事をあげようなんておもったんですか?」

「いやな……ハルトが力はいらんから、神様の食事を食べてみたいと言うてのう……」

「それはさっき聞きました、それで? 神の食事なんてないのになんで食べさせたのですか?」

「うむ、数百億年も食事を食べてないのは勿体無いとハルトに言われてのう、ワシも料理と言う物に興味があっての、じゃからハルトの頭の中にある料理を出してやろうとワシから提案したのじゃ」


 誇らしげに胸を張るラウル。

 それにまたしても呆れた表情をするエリス、もうお馴染みの光景に他の神々達は興味をなくし、自分達の所へ戻っていった。


「誇らしげに言ってますけど……それ全部自業自得ですよね?」

「はっ!? そ、そのとおりじゃ……」


 まったく……気づいてなかったのかしらこのボンクラジジイは…… と、またため息をつくエリスであった。


「もう送り出して、神力が肉体に馴染んでしまった今となっては、手の施しようがありません、これはもうハルトが神力に気づかないか、神力によって創造できるなんて思わないように祈るしかないですね」

「そ、それがの?……ステータスカードなるものでじゃな……神力が無限にある事が表示されたんじゃ……ハルトの神力によって」


「は? …………ふぅ……もう手遅れです、諦めましょう」

「い、いやじゃ~~! ワシの創造の力はワシだけのもんなんじゃ~~!!」

「そんな駄々っ子みたいにしていても無理ですよ、あなたがご自身でその創造する力を与えたのですから……」

「いやじゃ~~! ワシは唯一無二でありたいのじゃ~~~!」


 はぁ……と何度もため息をつくエリスは、もうなる様にしかならないと考えていた。

 せめて、ハルトが神々を消そうと思わない事を祈るのみだ。


「いやじゃ~~~~! ワシ以外が創造できるなんていやじゃ~~~~!!」

「はいはい、もうどうにもなりません、ハルトが良い人であることを祈りましょうね、さぁ、仕事に戻りますよ」

「い~や~じゃ~~~!!!」


 駄々をこねるラウルの髭を引っ張りながらもエリスは、まぁ、なんとかなるんじゃないのかなと、根拠はないが、そんな秘めたる想いが浮かんでいたのであった。




「創造の力はワシだけのものなんじゃ~~~~~!!! あだだだだだ! ひ、髭を引っ張るのはやめるのじゃ~~~~~!」




                           ~ 神様Side ~ End 

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