8話 魔法について

 疲れた体、ってか精神にムチを打って、ようやく村の北門に帰ってきた。

 途中でボロボロになった服を捨てて、予備で数着買ってあった服に着替えた。

 今までは魔法袋に入れてたのだが、今は魔法袋の中身を全部アイテムボックスに移動した。

 やはりというか、アイテムボックスの中は時間が止まるようだ。

 これがどういう原理か一切わからないが、そういう物なんだと思う事にする。


 そしてこれも実験したのだが、帰りに見かけた鹿だろうか、これを捕らえてアイテムボックスに入れようとしたが、やっぱり入らなかった。

 時間が止まるという事は、やはり生きてる物を入れるのに障害があるようだ。


「ん~、時間が止まらない、人が住めるような空間もほしいなぁ、そしたら宿いらず! ってね」


 まぁその辺も色々調べてみようと思う。

 けど、とにかく今はさっさと帰ってゆっくり休みたいわ~……





「ふぅ……ようやく門に到着したな」


 北門に到着して、最初の門番とは違う人になってたが、少し挨拶をして街カードを、カード確認機に挿入して、無事村に帰る事ができた。


「はぁ~、まだ図書館開いてるけど、今日はいっかぁ、宿に帰って横になりたい」


 宿は確か今日が最終日だったな、明日は違う宿にでも行ってみるか。


「宿にとうちゃ~くっと……ふぅ、ちょっと横なろう」


ゴロンっと横になると、そのまま朝まで寝てしまったようだ。


「んぅ……んん? ……なんだ寝ちまったのか、もう朝だ」


 10時間以上寝ただろうか、そんだけ寝れば疲れも取れるもんだ、なんて思ってたが、まだちょっと疲れてるな、精神が。


「まぁ、昨日よりは大分マシになったから、今日はちょっとゆっくりしますか」


 そう言って1階の宿のカウンターに向かう。


「帰ってきたと思ったらそのまま寝ちまったのかい? 夕飯食べなかっただろ?」


 女将のエリーさんが出迎えてくれた。


「ええ、ちょっと疲れてまして、もう大丈夫です」

「そうかい、何かあったら言っておくれよ」


 エリーさんが、あ、そうだ! っと手を叩く。


「今日でもう宿泊最後だけど、どうする? 延長するかい?」


 宿は昨日決めていた事を話す。


「いえ、別の宿があるなら別の宿に行ってみようかと思います」

「そうかい、うちの宿でなんか駄目なとこあったら言っとくれよ、改善してもっと喜んでもらいたいからね」

「いえ、とてもよかったですよ、お世辞でもなんでもなく、ただ宿に止まったのがここの宿が初めてなので、違う宿があるなら、そっちも経験したいなと思いまして」

「そういや旅してたんだっけね、そうだね、せっかく旅するなら色々経験しといたほうがいいね、でもまた何かあったらいつでも来なよ、歓迎するからさ」

「はい、ありがとうございます、また世話になる時はお願いします」


「若いのにしっかりしてるもんだねぇ、あ、そうだ……もし、よかったら冒険者ギルドの近くにある宿にでも行ってみな、私からの紹介だって言えばわかると思うから」

「ギルドの近くの宿ですね、良さそうだったら入ってみますね」

「ああ、きっと気に入ると思うよ、それじゃ元気でね」

「はい、ではまた」


 こうして異世界で初めての宿に別れを告げ、昨日の復習をしようと新たに踏み出した。


「まずは、館長に鑑定とかの事聞かないとな」


 そう思って歩き出したが、ご飯を食べてない事に気づいた。


「あ、飯くってないや……宿戻って食うってのもかっこ悪いよなぁ……」


 仕方ないので、露天でまたホットドッグみたいなの食べるか!

 また2つほど買い込んで歩きながら食べ始めた。


 まだ図書館は開いてないみたいだ、ならちょっと村の中を見て回るか。


「お、ここがエリーさんに紹介された宿か、外観は悪くないな、他の宿よりはマシそうだな」


 最初の宿のエリーさんのとこに似てるな、いい宿ってのはこういう感じなのだろうか。

 とりあえず入ってみるか。


「すいませーん」

「はい、いらっしゃいませ、お客さんかな?」

「はい、エリーさんの紹介でここが良いって言われて来てみました」

「あらあら、エリーの、そうだったの」


 対応してくれたのは、少しおっとり美人とでもいうような女性だった。


「エリーの所は気に入らなかったの? 今度あったら言っとかないと……」

「いえ、すごく良かったですよ、ただ宿取ったのがあそこが初めてだったので、他の宿も経験したいと思いまして」


 一瞬黒い影が見えた気がしたが気のせいだよな……?


「あらあら、そうだったの、じゃああの宿がダメということではないのね?安心したわ」


そう言ってまた元の顔に戻っていく。

この人は怒らせたらダメだ……本能が訴えかけてきた。


「えっと……エリーさんとどういった関係ですか?」

「あら? 聞いてなかったの? わたしはエリーの姉のマリーというのよ、よろしくね」


 そう言って可愛らしい顔で自己紹介をしてくれる。

 姉妹だったのか、どうりで少し似てると思った。


「エリーさんのお姉さんでしたか、姉妹揃って宿を経営してるんですね」

「この宿とエリーの宿は私達の親が経営してたのよ、それで引退するからおまえ達が後を継いでみろって言われてね」


 ふふふっと笑うマリーさん、

 なるほど、親が2軒の宿をやってたから、姉妹に1軒づつあげたのかな。


「そうだったんですか、なんか宿の外観が似てるなと思いました」

「そうね、親の趣味で始めたような宿だから、似ちゃったのかもね」

「なるほど、趣味で始めたんですか」


 趣味で始めたのが、村とはいえ2軒の宿を経営するんだから、才能があったのかもしれないな。


「それで泊まっていく?」

「はい、お願いします、おいくらですか?」

「エリーのとこと一緒で、1泊銀貨3枚よ、でも1週間の7泊にすると大銀貨2枚でいいわよ」


 せっかくエリーの紹介ですもの、少しサービスね、とマリーさんが可愛らしくおまけしてくれた。

 銀貨1枚のサービスだ、何気に異世界での初サービスじゃないか?


「じゃあ1週間お願いします」

「はい、お願いされたわ、これからよろしくね、所でお名前いいかしら?」

「あ、まだでしたね、俺はハルトって言います」

「ハルト君ね、短い期間だけどよろしくね」


 この世界で2軒目の宿は、どうやら姉妹の宿に決まったようだ。

 色々経験するつもりが、いきなり珍しい物を経験したな、村でありながら、姉妹で宿経営、たいしたもんだ。


「はい、これが部屋のカードよ、203号室ね、食事はもう食べたかしら?」

「ええ、さきほどホットドッグ2つ食べてきました」

「ホットドッグ? って何かしら?」

「えーっと、パンにウインナー挟んであるやつですけど」

「あ~、パンサンドの事ね、ハルト君の所ではホットドッグって言うのかしら?」


 この世界ではパンサンドって言うのか、なんかまんまだな。


「ここではパンサンドって言うんですね」

「そうね、パンに挟んである食べ物は大体パンサンドって言うのよ、だから総称みたいな物かしらね」

「へーそうなんですか、わかりづらくないですか?」

「そうねぇ、まぁ慣れてるからあまり気にならないわね、どこどこのパンサンドは美味しかったとかって言うから、そこまで難しくないわよ」

「あー確かに、店の名前で言ったら大抵わかりますもんね」


 なるほどねぇ、ホットドッグ美味かったよって言っても、何処の?って思うしな、

 どこどこのホットドッグが美味かったよって言おうが、パンサンド美味かったよって言おうが一緒か。

 それに後で聞いたが、パンサンドの種類は大抵店で1種類か2種類みたいだ。

 それならパンサンドっていう、パンに挟んだ食べ物の総称でも問題ないか。


 こう思うと、地球の食べ物ってかなり種類があるんだなぁ。

 食べ物が豊富って事はいい事だね、ひもじいと寂しくなるもんな。


「じゃあこれから出掛けてきます」

「はい、いってらっしゃい、気をつけてね」


 部屋に行ったが特にする事もなく、置く荷物もないので、そのまま出かけることにした。


「さて、図書館はもう開いてるかな」


 まだ9時の鐘は鳴ってないが、そろそろだろうと図書館に足を運ぶ。


「お、開いてるな、館長~」

「おや、ハルト君、お早いですね」

「はい、おはようございます、ちょっと聞きたい事がありまして」

「おはようございます、聞きたい事ってなんですか?」

「ちょっと昨日、初めて動物と戦ったんですけど、ちょっと魔法で気になることができまして」


 そう言って、昨日使う事ができた、鑑定、回復、そしてアイテムボックスの事を聞くことにした。

 もちろん、俺が使えるとは言わないで。


「そうですねぇ、まず鑑定ですが、使える者は中々いないようですよ」

「そうなんですか?結構いそうなイメージだったんですけど」

「それが少ないんですよ、鑑定を持ってるだけで店を立ててもやっていけるほど、少ないみたいですね」


 館長の話だと、鑑定の店を持ってもやっていけるほど、鑑定使いはいないらしく、王都でも10人もいないらしい。


「へぇー結構貴重な魔法?なんですね、魔法でいいんですよね?」

「ええ、そうですね、鑑定は属性がないらしく、生まれながらに才能が乏しい人が、比較的持ちやすいみたいですね」

「へー、なるほどねぇ」


 多分、鑑定は無属性みたいな物だと思う、なら俺が使えたのも納得だな、無属性で魔力操作が上手いみたいだし。


「次は、回復ですか、自己治癒魔法の事ですか?」

「自己治癒魔法?」

「ええ、ハルト君は無属性ですよね?なら光魔法の回復魔法ではないと思ったんですが」

「ええ、多分それであってます」


 やっぱり光魔法が回復魔法を使えるみたいだな、なら俺は自己治癒魔法だろう。


「自己治癒魔法は誰でも使えますよ、ただこれはほとんど気休めに近い物って言われてますね」

「え!? 気休め程度ですか?」


 これはびっくりした、俺は昨日、足首がかなり抉られてたけど、瞬時に治ったから、すごい便利な魔法だなぁ、なんて思ってたのだ。


「ええ、自己治癒魔法は、出血をなんとか止める程度の効果しかないようです、とりあえず、何もしないよりは延命できるって程度ですね」

「そうなんですか・・・じゃあ自己治癒魔法で傷が治るなんてないんですかね」

「それは回復魔法になりますね、自己治癒魔法で傷が治るのは、ほんとにかすり傷程度ですね、これは私も試しましたので、間違いないでしょう」


 何やら俺の自己治癒は異常らしい・・・


「魔力操作が上手い人でも傷が治る事はないんですか?」

「ん~、そこまでわかりませんが、魔力操作上手くても、そこまで治るとは思えませんね、私もそこそこ魔力操作は上手いほうなので」

「そうですか……じゃあ俺は回復魔法も使えないので、ポーションで我慢ですかね」


 そう言ってちょっと誤魔化してみる、

 異常な物って言うのは、得てしていらん厄介事が舞い込んで来やすい、

 俺は面倒な事が大嫌いだ、この事は秘密にせんと……


「後はアイテムボックスですか、これは鑑定と同じく持ってる人はかなり少ないですね」

「やっぱり少ないんですか」

「ええ、あと持っててもほとんど容量がないらしいですね」

「え? あまり物が入らないんですか?」

「はい、精々が安い魔法袋程度みたいですよ、なので持っててもそこまで役に立たないみたいです」


安い魔法袋って言うと、1m四方くらいだろうか、そんなにちっちゃいのか……

俺のアイテムボックスはそれ以上入るよな? 確実に……なんせ狼が20匹近く入ってんだから1mどころか3倍4倍は容量あるし、まだまだ入る気がする、それこそ無限に……


「ただ、魔法袋と違うのが、なぜか時間が止まるようで、暖かい物を入れとくと、時間が経っても暖かいとか、でもその程度みたいですね」

「へぇ~、時間が止まると」


 これは俺のアイテムボックスと同じだな、なぜかって言ってたから原因が解明されてないんだろう。

 俺もなぜだかわからないしな。


「ただアイテムボックス持ちは、あまり人に言わない事が多いみたいですね」

「そうなんですか? なんでですかね」

「なんでも、アイテムボックスを持ってると、道具チェックや身体検査等でわからないので、危険人物扱いを受ける事もあるとか」


 確かになぁ、王族貴族を暗殺しようと思ったら、アイテムボックス持ちが一番楽だろうしな。

 なんて考えてると、違った答えが返ってきた。


「それにアイテムボックス持ちはですね、王族貴族等に利用されやすいんですよ、それを嫌って誰にも言わないようにする人が多いみたいですね」

「はぁ~、なるほどねぇ、確かに厄介事が多そうですね」


 なるほどね、暗殺してこいと脅される側って事か、こりゃバレたらめんどいなぁ……

 バレてもいいくらい強くならないとダメだなこりゃ、いつかボロが出てバレそうだわ俺……


「しかし珍しい魔法に興味をお持ちですね」

「いやー無属性なので、便利な魔法がないかと探してたんですよ」

「そうだったんですか、無属性魔法でも魔導具を使えばそれなりに魔法使えるので、気にしない人が多いみたいですけど」

「ええ、俺も魔導具ほしいなぁと思ってたんですけど、お金が結構かかりそうだなぁと思いまして」

「そうですね、初期投資という意味では掛かるかもしれませんね、でも無属性でも過去には冒険者ギルドでA+ランクまで行った人がいるみたいですよ」


「へー、A+ランクって結構強いですよね?」

「ええ、ハルトさんは冒険者ギルドに入ってないんですか?」

「そうですね、魔物とかの買取価格も入らなくても変わらないって言われたので、入らなくてもいいかなって思いまして」

「確かにそうですね、入ってもそこまで極端な恩恵ってのはないですから、むしろこういう冒険者が少ない村でギルドに入ってしまうと、何かの魔物討伐とか、緊急の際には強制で参加させられますからね」


「あーやっぱりそういうのあるんですか……ならもう入らなくていいかな」

「そうですね、証明証も街カードがあれば十分なので、そこまで気にせずともいいかも知れませんね」


 じゃあなんで冒険者になる人がいるんだろうと思ったけど、こういう世界は戦うのが好きな人が多いみたいで、せっかく魔法が使えるんだから使わな損って人が結構いるらしい。

 それで、人間に使うのは基本ご法度で、攻撃魔法の使い道がないから、冒険者になって魔物相手にバンバン使うんだとか。

 怖いわーこの世界。


「少し気になったんですけど、冒険者のランクとか教えてもらってもいいですか?」


「ええ、最初がEから始まり、次がE+、そして次がD-と1つづつ上がっていきます、それでA+まで行きますと、次はS、SS、SSSと、Sがつくランクは±が付かないみたいですよ」


なるほど、Eは-がなくて、Sから上は±が付かないと、じゃあ、ランクは計16段階あるって事だな。


「ちなみに、Sランク以上は人外認定受けるようですね」

「人外認定ですか?」

「ええ、一人でS級指定の魔物を討伐できる人がSランク以上になれるようです、

それに今現在、Sランクは3人、SSランクは1人、SSSランクに限っては誰もいない状況ですね」


 へぇー、そんだけしかいないのか、まぁぶっ飛んだ強さが必要って事だろうからなぁ、そんなもんなのかね。


「魔物って、ウルフとどのくらい強さが違うんですか?」

「ウルフと魔物ですか、んー、ウルフ自体は魔物認定されてないので、正確なランクではないのですが、単体はE+程度、群れるとD-からDと言われてますね」

「そうなんですか、なら苦戦するのも頷けるなぁ」

「まさかウルフと戦ったんですか?」

「ええ、10匹以上いましたよ、いやー大変でした」


 ちょっと館長の顔が引き攣ってるな、どうした?


「そ……それは災難でしたね、よくご無事で」

「それが結構傷を負ったんですよ、なんとかなってよかったです」

「それでも、10匹以上となると、Dランク冒険者が数人必要ですよ、ハルトさんはお強かったのですね」

「いやー運が良かっただけだと思いますよ、あ、そうだ、ウルフの皮とか肉ってどこで売れますかね?」

「そうですね、冒険者ギルド横の買取場で売れると思います、後は懇意にしている商人とかでしょうか、それかウルフの肉がほしい露天商とかですかね」

「なるほど、じゃあギルドの方に行ってみようかな、色々ありがとうございました」

「いえいえ、またいつでも来て下さい」


 そう言って別れて、昨日のウルフたちを売りに買取場に向かった。


「ここかな? すいませーん、ウルフを売りに来たんですけど」

「はいはい、何匹くらいいますか?」


 ギルド職員だろうか、ちっこい女性が出てきた、うん、まぁまぁかわいいかもしれない。


「えーと、18匹かな?」

「け……結構いますね、もう解体されてますか?」

「いえ、全くしてません」

「わかりました、解体代がいくらかかかりますが、こちらでやってもいいですか?」

「ええ、お願いします」


 そう言うと、裏に来てくれと言われたので、カウンターのすぐ裏に行き、ウルフを魔法袋から取り出したようにして置いた。

 一応アイテムボックスは秘密の方向で。


「これずいぶん新しいですね? 朝からこんなに狩ってきたんですか?」

「え……えぇ、歩いて20分くらいのとこでいきなり飛び掛られまして、なんとかって感じです」

「そうだったんですか、それは災難でしたね」


 ふぅ……危ない、そうかアイテムボックスは時が進まないから、こういう危険性もあるか……

 次からは自分で解体してから持ってくるようにしないとやばいか。


「これだけ胴が切れてますと、買取の値段が下がりますね、胴を真っ二つってすごいですね」

「あー、武器がいいんだと思いますよ、簡単にできましたから」


 また冷や汗が出た、やっぱり真っ二つに出来るっておかしいよねきっと。


「ウルフのほしい部位とかありますか?」

「いえ、特にないので全部買取でお願いします」

「わかりました、ではすべて買取で大銀貨3枚と銀貨2枚になります、よろしいですか?」


 それが高いか安いかわからんから、それでいいと伝える。


「では、受け取りはカードか現金、どちらがいいですか?」

「ん~、じゃあ現金でお願いします」

「では、少々お待ちを――――はい、こちらになります、また何かありましたらいつでもお越しください」

「はい、またよろしくお願いします」


 そう言って買取場を後にする。

 大銀貨3枚っていうと3万ゴルドか、多分いい値段になったんじゃないのかな、ウルフ18匹もいたもんな、それくらいか。


 後は、ラギラビットが2匹と、鹿が1匹か、これどうするかね、まぁ後でいいか。

 この後は昨日覚えた魔法を使って色々実験してみるかな、てことで、魔物があまりいない西側に行ってみるか。

 門に付いた所で、ふと思い出した。


「あ、そういやカードにお金入れた事なかったな、入れてみるか」


 さっき買取場でカードに入れりゃよかったな、まだ大金貨が1枚と金貨数枚、大銀貨と銀貨も数枚残ってたから、大金貨を1枚入れてみるか。

 門番に近づき声を掛ける。


「すいません、カードにお金入れたいんですけど、いいですか?」

「はい、それでしたら、こちらにどうぞ」


 そう言って門番の詰め所みたいな所に連れて行かれた。


「これにカードを入れて頂いて、お金をこの上から入れてください」


 大きさは高さ1mほど、幅は40cmだろうか、奥行きも40cmほどの機械みたいだ。

 カード挿入口と上に硬貨を入れる所がある、それ以外は何もないな。


「ここにカードを入れてっと」


 次に大金貨1枚入れた、……ん?音もなんもしないな。

 終わったのかこれ?


「はい、いいですよ、これでカードに記録されました」

「これはどういう原理なんですか?」

「これですか?これはこの機械の中に小さな転移魔方陣があるんですよ、そこにお金が接触すると王都にお金が転移するんです、硬貨の選別には入れた所ですぐにわかるようになってます、それがカードに記録されるんです」


 何やらすごい機械の様な気がするが気のせいだろうか?

 て……転移魔方陣だと?


「転移魔方陣ですか? この中にそれがあると?」

「ええそうですよ、最初はみなさんびっくりするんですよ、おれも最初聞いたとき驚きましたからね」


 そりゃ驚くわな、こんなちっこい機械に転移魔方陣があり、それが王都に続いてるなんて。

 これ危なくないのかね?


「これ王都に転移するんですよね? 危なくないんですか?」

「やっぱそう思いますよね、それが大丈夫みたいですね、なんか、これも門にあるカード確認機と一緒で、王都からの貸与物なんですよ、それで中に硬貨以外を入れると使えなくなるんです、その場合は大金貨5枚も払ってまた使えるようにしてもらうんです」


 ちょっと門番さんがげっそりした顔でそう答えた。

 過去に大金貨5枚、500万ゴルドを払った事があるんだろう。


「なので、これを利用する際には門にいる兵士が全員厳しく監視するんです」


 そう言って周りを見渡す門番の後に続いて、周りを見渡してみる。

 すると、


 めっちゃ見てるよ!? 兵士6人全員がこっちを睨んでるよ!!


「まぁそういう理由もありまして、変な物を入れないか、もしくは壊さないか、それを厳しくチェックしてるんです」

「厳しくチェックしてる割に、身体検査とか受けませんでしたけど?」

「ええ、毎回検査してるとそれを嫌う人がいるので、お金以外を入れないか見てるんです、なので今回は俺が、お金以外を入れる前に取り押さえる為に近くにいるんですよ」


 通りでぴったりくっ付いて来る訳だ、完全にそっち系かと思ってたら違ったか。

 お尻をぎゅ~~って力入れてたの意味なかったな。


「あと、壊したり変な物入れた場合は、うちでは半分を負担してもらってます、なので大金貨2枚に金貨5枚ですね」

「それは……気をつけないとだめですね」

「ええ、昔は全額こっちで払ってたんですが、兵士達から不満が続出しましてね……給料やメシが減らされたもんですから、そりゃ不満が出ないわけないですよね」


 なるほどねぇ、兵士自身が壊したりしたなら別だが、一般人がそんなことしたら完全にとばっちりだもんな。

 兵士達も大変だわ。


「わかりました、気をつけます、ていうか初めて使うんで最初に説明ほしかったくらいですけど」

「あー、初めてだったんですか? その割りになにやら慣れてる感じでしたけど?」


 あ~、地球だとカードとか硬貨を入れるとか日常茶飯事だもんな、

 こっちの人間はカードとか入れるのは門くらいなんだろうかね。


「ここを利用する人って結構いそうですけど、そうでもないんですか?」

「今はもう、硬貨を使う人はあまりいなくなりましたね、給料もみんなカード受け取りですよ」

「へぇーそうなんですか、ならあんまりこういうのには慣れてないかもしれないですね」


 どうやらこの世界はカードがすごく広まってるカード社会のようだな、こんな田舎でもカード払いが普通なんだもんな。

 日本はどっちかっていうと現金社会だ、カードがなくても普通に生活できる。

 でもアメリカやフランスとかはカード社会って聞いた事あるな(違うかもしれんけど)。

 海外なんて入った事ないからなんとも言えないが、どうやらお金の取引は、地球よりカード使用率が高いかもしれん。

 これはちょっと勉強になったな。


「では有難うございました」


 そう言って門を後にした。


「さ~てと、今日は昨日の魔法のおさらいをしますか!昨日は疲れて寝ちまったからなぁ」


 今日は魔物がほとんど出ない西側だから、ゆっくり検証できるだろう。

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