窓が、窓にっ
闇谷 紅
プロローグと言うか冒頭文
「神様、俺何かしたぁ?」
カレンダーを固定する為につけた画鋲の刺し穴が点々とつく壁に手を組んで語りかけるのは何度目だろうか。
「最近の画鋲って根性ねぇよなぁ。いや、壁がユルユルなのか」
幾つかの穴はカレンダー墜落事件の痕跡であるからか、ポツリと漏らしてしまうも、これはきっと現実逃避でしかないだろう。
「どうして、こんな事になっちゃったんだろう」
ため息が零れた。壁から床へと気づかぬ間に転がっていた視線はゆっくりと持ち上がり――。
「うん」
カレンダーからは少し横にずれた壁に空いた風穴。いや、無駄に四角く切り取られたような形は窓と言った方が正しいか。
「なんだよ、これ……」
もちろん僕が空けたわけではない。そもそもこの位置に窓があっても見えるのは、この家の廊下の筈だ。にもかかわらず、窓の向こうは自然豊かなどこかの森だった。
「人工物一つ見当たらない」
そもそもこの窓自体が酷く奇妙だった。ガラスの様に透明の何かが向こう側とを遮っているように見えるのに、その透明なモノを物品は貫通するのだ。
「とりあえず、一方通行なのは幸いだったけど」
現実逃避に至る前に調べてみたところ、この窓のような謎の存在には一定の性質があることが確認できている。
「突っ込んだ場合、窓の向こうに出ているのがその物品の1/2未満ならこちらに引き戻せるんだっけ」
思考錯誤の結果、あちらに行って戻ってこなくなったのは、ボールペンが一本と丸めたスーパーのチラシ、消しゴムとペットボトルのジュースのおまけで貰ったキャラクター人形付きのストラップ。
「これ、1/2ってことは腕とか突っ込んだりもできるかもしれないけど、さすがに生身を試すのはなぁ」
そのまま窓をくぐってしまうと、ネット小説で前に読んだ異世界トリップとかそういうモノになるのではないだろうか。
「いや、まぁ、異世界とは限らないけどさ」
こう、窓の向こうは戦国時代なんてパターンもあるかもしれない。
「現状、人工物もなければ人はおろか動物も確認できてないからなぁ」
僕にできるのはとりあえず、ぼーっっと何か変化がないか眺めていることだけだった。
窓が、窓にっ 闇谷 紅 @yamitanikou
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