3
「それは__」
彼は徐に口を開いた。
顔を上げると、そこで寝ていたはずの彼の姿が無くなっていた。
「え、」と間抜けな声を出して振り返ると
「___こういう夢かい?」
目に飛び込んできたのはいつも夢で見る光景だった。病室の窓枠に座り、こちらを見て微笑んでいる彼の姿。
「僕が死ぬところを見ていてくれないか?」
蝉時雨に紛れる彼の声まで、夢と全く同じだった。
足はやはり根が張ったように動かない。
声が出ない。
何か言わなければ。
止めに行かなければ。
夢と同じ結果を辿ってしまう。
ずっと見ていたあの不吉な夢が、現実になってしまう。
にこりと笑った彼は窓枠から手を離し、後ろへと体重を任せる。
動け!
動け!
動け!
「待って!」
窓枠から必死に身を乗り出し、彼に手を伸ばす。
そして彼の手をしっかりと掴んだ。
____しかし、いくら彼が病気で虚弱で、体重が軽いといえど自分の体重や力では支えきれるものでは無い。
バランスを崩し彼と一緒に頭から地面に向かって落ちてゆく。
結局、助けられなかった。
きっと夢でこうなることを予期していたというのに。今日までのこの夢は、彼を助けるためのものだったのに。
こうなる前に彼の心を理解してあげればよかったのに。
「……ごめん」
そう呟いた。一緒に逝くから許してくれ、と。
しかし彼の口から聞こえたのは許しの言葉でも罵倒でもなく、その表情は、驚きでも、憤りでも、悲しみでもなかった。
「
地面に到達する直前、最期に見たその顔は酔いしれるような恍惚とした表情をしていた。
彼に引き寄せられ、文字通り脳まで混ざり合うような、濃厚なキスを交し、意識は暗転した。
グシャァと、聞き飽きた音がしたけれど、いつものように、その音で目を覚ますことは無かった。
「死ぬのを見ていてくれないか?」 ぬ @Charlltear_1218
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