たくさんの手

雨世界

1 君は一人じゃないよ。

 たくさんの手


 プロローグ


 君は一人じゃないよ。


 本編


 君は、本当に子供だね。


 たくさんの手


 そこにはたくさんの手があった。


 僕を引き止めるための手。

 あるいは、逆に僕を押しのけるための手もあった。

 そこには悪意があった。

 逆に、そこには人の善意や希望もあった。


 僕はたくさんの声を聞いた。

 希望に満ちた、明るい声をたくさん聞いた。

 でも逆に、絶望に満ちた暗い声も、……少しだけど、確かに聞いた。


 世界は確かに明るかった。

 でも、世界には確かにとても暗い場所があった。


 僕のいる世界は明るかった。

 でも、僕のいる場所だけは、いつもそこだけ夜のままだった。

 とっても、とっても、暗い夜のままだった。  


 だから僕はある日、旅に出ることにした。

 明るい場所に向かって。

 あるいは、僕がいても、夜にならないで済むような、そんな明るい場所を探して、旅に出ることにしたのだ。


 それが僕の決断だった。


 十五歳の(一人ぼっちの)誕生日の日に決めた、僕の、……本当の決断だった。


 僕は一枚の小さな青色の切符を持って、家族の眠っているアパートの部屋をいつものように一人で出て行った。

 それは眩しい太陽が世界の昇ったばかりの気持ちのいい風の吹く、とても晴れた夏の日の、ある早朝の時間のことだった。


 青色の空の中に浮かんでいる白い雲が、すごく綺麗だったことを、僕は今も覚えている。

 そこには、一羽の白い鳥が空を飛んでいた。

 そのとき、僕はその白い鳥がどこに向かって飛んでいるのか、その答えがすごく知りたいと思った。

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