生きている事。ああ、それは、何というやりきれない息もたえだえの大事業であろうか。

まぼろしや

第1話つゆ

 いまここで僕がこれを書いていることは僕にとって不思議以外の何者でもない。

受験勉強にはりつけられていやいやながらも文字を書くことを断念していた僕が急に頭が痛くなって二日間もその勉強をほっぽり出した末にどういうわけかここまで導かれてきたのだから。本当は小説を書きたい。でもきっと一時間後には僕は物理を学ぶ作業に戻らなくてはならないだろうし、僕は小説を書いている途中で僕の思考が無感情な領域との合間を交錯するのをよしとしないからこのなにとも言えないつぶやきで我慢するしかない。とりあえず僕が今の梅雨の時期をどれだけ居心地よく感じているか、それだけは聞いてほしい。もちろんずっとつゆであって欲しいとは思わないし、一年の中でつゆが一番好きかどうかもわからない。一番というものなど決めようがないものだ。ただ僕にはこの雨上がりで涼しげな夜に部屋の窓を開けて夜風に当たっているひと時が物理のどんなに難しい問題を解けた時よりも喜ばしく感じられる。

静かな夜。虫のさざめき。遠くを抜ける電車の

なにもいらない。そこに在るだけ。それだけで、いや、それこそがこんがらがった僕の気持ちをほどいてくれる。

ひとつずつ。ていねいに。無理することなく、焦ることなく、まるで呼吸をするみたいに、澄んだものを取り入れて、無駄なものを出していく。そうすることで僕の心は真に僕の心になって忘れていたものを思い出して重要だったものが重要じゃなくなって、気づけば微笑んでいるんだ。周りの人に流されたり、情報の量に惑わされたり、他人の評価を気にしたり。時々でいいから、溜まったものを吐き出したほうがいいとおもうんだ。

勇気のない僕は大学に行かないという道を選ぶことができない。

でも、それで、いい

夏ほどずっと暑くなく、春ほどずっと涼しくもない、

つゆみたいな日が時々訪れてくれれば、

それだけで、いい

そんな日には、また何か書こうと思う。

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