2.7 少し、お時間をいただけますか?
ボールとバーニィ、二人の見通しは甘かったのか、それとも妥当だったのか。
いずれにしても、キャロルが杖の
今、二本の杖だったものが並ぶ作業台を囲むのは、難しい顔をした杖職人の親子と、申し訳なさそうな顔で肩を落とす杖の使い手だ。
「思った以上に、派手にやったもんだな……」
「ごめんなさい……」
「いや、嬢ちゃんは何も悪くねぇよ。謝んなきゃいけねぇのは期待に答えらんなかった俺たちだ」
ポールの詫びの言葉に頷いて同意を示したバーニィは、さっそく白手袋をはめた手で杖の残骸を取り上げ、時に
損傷の様子は、二本ともほぼ同じ。どちらも
「どうにかなりそうですか?」
「設計どうのこうのより、
「相性ならまだいいが、質の話になっちまうと厄介だな」
設計、材料の選定、製作、仕上げに至る一連の工程に問題がないとすると、とにかく良質の
「これ以上のブツを仕入れるアテも、ないわけじゃねぇんだが」
「お金はどうにか用立てます」
「金だけで解決するかってぇと、結構微妙な話なんだよ」
使われるのは
だが、金の問題だけならば、親方も奥歯に物が挟まったような言い方にはならない。
「最近はどうも、魔法生物の取れ高が思わしくないみてぇでな。価格が釣り上げられちまって、いい材料を入手しにくくなってる」
根本的に流通量が少ないうえに、そもそもの生産量が減っている。
そんな状況で質の高い材料を手に入れようとすると、金や時間だけでなく、巡り合わせの運まで必要になってしまうのだ。不確定要素が増えてしまうと、工房が示す提案も消極的にならざるを得ない。
「その間は、ウチの在庫にある一番いい材料を使って、何本か
「なんとかやってみますけど……どれくらいかかるか、見込みも立たないんですか?」
「それがわかりゃとっくに教えてるよ」
そうですよね、とキャロルが漏らす落胆のため息は、期待に答えられていない現実の現れ。鋭い刃となって、バーニィの心に重く
「なるべく早く、私が本気で使える杖をください。杖がないことにはどうにもできない」
「努力はするが、確約はできねぇぞ、キャロル? 君の魔力に耐えられる核なんて、そんな簡単に見つかるとも思えねぇ」
「無理は承知だよ、バーニィ。でも、今の私にはあなた達しか頼れる人がいないの」
「……嬢ちゃん、なにか、退っ引きならねぇ事情でもあんのかい?」
切羽詰まったキャロルを前にして、ポールは少し表情を緩める。幼い頃、バーニィとともに工房を遊び場にしていた時分から知っている相手だ。ポールからすれば、彼女は半分娘みたいなもの。困りごとを隠しているかどうかは、振る舞いを見ればなんとなく想像がつく。
しばらく俯いて
「……少し、お時間をいただけますか?」
「構わねぇよ。話くらい聞いてやるさ」
「ありがとうございます。バーニィも、一緒にいて」
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