1.6 腹を割って話してみないかい?
「ヴィヴィはキャロル先輩の就任式典、見に行ったのかい?」
話の口火を切るのは大抵の場合、ラルフだ。
話題のタネはもちろん、話題の導師様。
「もちろん。友達の晴れ舞台だからね」
「いいなぁ。僕、仕事で行けなかったんだよねぇ。ちょっと前まで学舎で一緒に過ごしてた女の子が、今や特級持ちの導師様だもんなぁ」
「教会のお偉方がその才能に目をつけた、って噂はあったけど、まさかあそこまでとはね……。おまけに優秀な
「優秀な、ってのはもっと大人しい飛び方をする人のことをいうと思うんだよね。互いが互いを骨の髄まで信頼してないと、怖くてあんな飛び方できないよ」
同じ
「あのオスカーってのはとんでもない
「それじゃよくわからない」
「要するに、オスカーには不得手がないんだよ。大前提として、速度に長けた
「それって、
「どっちもどっち。
よくわかりました、と静かに頷いたヴィヴィは、目の前の両名が杯を空にするのに合わせて如才なく次の杯を
「天は何物を彼女に与え給うのか、ね。才能のある人はたしかにうらやましいけれど、人には理解できない苦労もあるかもしれないわね」
「でも、優秀で、可愛くて、おまけに誰にでも優しいんだから驚きだよなぁ。学舎の男どものぶっちぎりの一番人気だったもん。ちなみに、女子からの一番人気はヴィヴィ」
「え、そうなの?」
「特に後輩の女子から大人気でな。歌劇に出てくる男役っぽくてかっこいいって、みんな言ってたぜ」
なるほど、とバーニィも納得する。この酒場にはヴィヴィを目当てにやってくる客も多いのだが、その男女比は概ね一対一。この街ではただ一人といっていい、女性人気の高い看板娘である。
もっとも、それを聞かされた当の本人は困ったように微笑むだけだ。好意を寄せられることは嬉しくとも、どこか複雑な思いは隠しきれない、といったところか。
「それはそれとして、我らが可愛い導師様の話に戻りたいんだけど……」
ラルフとヴィヴィの会話を
「……なんだよ、俺の顔になんか付いてるか?」
「知らぬは本人ばかりなり、とはよく言ったもんだね。バーニィ、気付いてないのかい?」
「君がその
バーニィが一瞬、手元のグラスに目線を落とすのを、ラルフもヴィヴィも見逃さなかった。目は――この場合は視線だが――口ほどに物を言う、という文句をこれほどしっかり体現した例もない。
面白そうな空気を感じ取った女バーテンの口角がわずかに上がる。その変化はごくわずかだが、彼女と親しいものからすれば、心情を読み取るに十分事足りるものだ。
「今夜は気分がいいから、ちょっとサービスしちゃおうかな」
半分ほど残ったグラスをバーニィから取り上げたヴィヴィは、即座に代わりの一杯を差し出す。ただし、中身は先ほどに比べていささか濃い。
「なあ、バーニィ。僕らは親友だ。ことと次第によっては、君の助けになれるかもしれないよ? 今までもそうだっただろ? ここに
穏やかに最らしいことをいうラルフではあるが、彼もすでに
「そうだねぇ……」
だが、だいぶ酒が回ってきたバーニィに、親友の表情の変化を看破するだけの思考能力までは残っていなかった。ぐっ、と新しいグラスの中身を半分ほど胃に納め、
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