第60話 兄弟「キョウダイ」


 

「あ……!!! 」


 唯斗と莉奈は衝撃の余り、数秒間目がお互いに離せなかった。



 今でもこの日のことは思い出す。2人にとって、いや兄弟と姉妹にとって忘れられない日になった。忘れてはいけない日だろう。


 衝撃の出会いから2年以上が経ち、色々なことがあったが4人は成長して次のステージへと再び歩き出した。今までとは違う。もう大丈夫と嘘をつくこともない。強がることもない。お互いの弱さ、そして痛みを理解している兄弟と姉妹はかたい絆で結ばれている。そして唯斗と莉奈。快斗と美奈。この2組ともそれぞれの愛の形をこれから作っていくのだろう。



 

 唯斗と莉奈の高校の卒業式から1ヶ月と数週間が経った頃のことだ。



「二階堂唯斗くん、入りますー 」


「お願いしますー! 」


「よろしくお願いします 」



 唯斗は兄が本気で向き合っていたモデル活動に少しの憧れを抱いていた。いつの日か自分もそのモデルになりたいと夢を持つようになり、兄を超えるモデルになるために毎日本気で向き合っている。



「いいねえ〜! 」

「いいよ〜、その表情!」


「はいオッケー!! 」


「ありがとうございます 」


「唯斗くん、今日もいいね〜 」


「ありがとうございます! これからももっともっと努力しますので今後ともよろしくお願いします 」


「快斗くんみたいにすぐなれそうだよ〜 」


「兄さんみたいにはなりませんよ。僕は兄さんになりたいわけじゃないです。兄さんを超える。そしてトップモデルを目指します 」


「おお〜、すごいねー! 唯斗くんのこれからが本当に楽しみだよ 」


「はい、これからも是非よろしくお願いします 」





 そして一方莉奈は……



「莉奈ちゃーん、今日は何限ー? 」


「今日はね、3限と4限だよー 」


「そうなんだ〜、じゃ今日の放課後どこかに遊びに行かない〜? 」


「ごめーん、今日は家の用事があるんだよね〜 」


「あらー、じゃまた今度ね! 」



 そして大学が終わると、莉奈はスーパーに寄って夕方頃に家に帰ってきた。


 すぐにエプロンをつけて料理を始める。この日の夕飯はビーフシチューだ。美奈にはまだ少し届かないがそれなりに莉奈の料理の腕も良いものになっていた。


 快斗と美奈は父親の仕事を継ぐことが正式に決まり、忙しい毎日をすごしている。そんな美奈に変わって莉奈が家事をするようになった。休日は姉妹の2人でこなしている。


 そんなこんなで時間が経つと、唯斗が撮影から帰宅した。



「ただいまー 」


「おかえり唯斗ー! 」


「おーいい匂いするね 」


「でしょー、上手にできてるよー 」


「美味しそうだな 」


「お姉ちゃんと快斗くんもう少しで帰れるって言ってたから、お風呂入ってきちゃいなー 」


「うん、ありがとう 」



 そして数分が経つと、仕事の会話をしながら快斗と美奈が帰宅した。



「これはどうするの〜? 」


「うーん、微妙だよな 」


「う〜ん 」


「とりあえず明日、また母さんと役員の人たちと確認して決めなきゃだな 」


「そうだね〜! 」


「ただいま〜 」

「ただいま 」


「おかえりなさいー 」


「莉奈、今日はビーフシチューか? 」


「うんそうだよー 」


「すっごい良い匂いするよ〜、莉奈は本当に料理が上手になったね〜 」


「やったー、味も多分、いや絶対に美味しいから楽しみにしてね 」


「うん、じゃ食べようか 」


「うん!! 」



 唯斗が風呂から出てきて、4人は夕食を済ませた。莉奈の料理も本当に美味しくて満足のいく食事だった。それからリビングで楽しい会話をしながら時間を過ごしていた。


 数時間経って、24時を回る頃になると唯斗は明日も撮影があるため、快斗と美奈と莉奈におやすみなさいと挨拶を告げると2階の寝室に向かった。



「じゃ、俺たちも寝るか 」


「そうだね〜、明日も大変だしね 」


「お姉ちゃんも快斗くんもおやすみなさいー 」


「うん、おやすみ 」

「莉奈もはやく寝なよ〜 」


「うん、おやすみお姉ちゃん 」


「おやすみ〜 」



 莉奈は洗面所にむかって、洗濯機の中から洗濯物を出す。そしてそれを浴室乾燥の効く浴室に干し始めた。



 快斗と美奈は同じ部屋のベットで寝る体勢になっていた。


「ねー快斗ー 」


「うーん? 」


「ねーねー 」


「なんだよー 」


「わかってるでしょ〜 」


「わからないなぁー 」


「も〜う! 」



 快斗は布団の中で美奈を優しく抱きしめた。美奈は嬉しそうな顔を全面に出して、快斗の唇にキスをした。2人のアツイ夜が待っているのだろう。



 莉奈は洗濯物を干し終わると戸締りを確認して、2階へ上がっていった。




 ガチャ……



「ん……? 」


 

 莉奈は唯斗のベットに入った。



「唯斗、今日は一緒に寝よー 」


「今日はってか、今日もだろ 」


「あら、そうだったー? 」


「そうだよ、まあいいけどな 」


「なにその上から目線ー 」


「いつもありがとうな莉奈 」


「え、急になによー 」


「家のこと大変だろうけどやってくれて 」


「ううん、全然大丈夫ー 」


「おれやっぱり莉奈のことが心の底から好きだよ 」


「なによー、こわいこわいー 」


「たまには伝えないとな 」


「私も唯斗が大好き 」


「ずっと一緒にいような 」


「うん!! 」



 2人の世界は、そう簡単に壊れることはない。慣れない言葉もたまにはいい。そんな2人の当たり前がずっと当たり前であるように2人はこれからもお互いを想って自分と相手と向き合っていくのだろう。もちろん快斗と美奈もそうだ。


 

 そして静かな夜。灯の消えた蛍光灯の代わりを果たすように月と星が光を放つ。カーテン越しに月明かりが分かるほど今夜は明るい。


 唯斗はうまく寝付けずに起きてしまった。2階のベランダに出て外の風にあたろうと向かった。

 

 するとそこには1人、月を眺める快斗がいた。



「兄さん何してるの? 」


「お前も寝れないのか 」


「うん、うまく寝付けなくて 」


「一緒だな 」


「うん 」


「おれらも変わったよな 」


「そうだね、この2年で大きく変わったよね 」


「そうだな、生活も環境も仕事も 」


「うん、そうだね 」


「それでもおれは当たり前だと思わずに、感謝を忘れずに生きていくよ 」


「おれも自分のやりたいこと、そして目標に向かってこれからも努力するよ 」


「うん、お前ならできるよ 」


「兄さんを超えるよおれは 」


「お前ならできる、そう信じてるよ 」


「うん! 」



 綺麗な月を2人は眺める。大きく唯斗たちを照らす月は何か悩みを消し飛ばしてくれるような力を感じるほどに綺麗だ。



「なぁ唯斗 」


「ん? どうしたの? 」


「お前が弟で本当に良かった 」


「うん、おれも兄さんがおれの兄さんで良かった 」


「ありがとうな、これからもおれたちはお互いにとってたった1人の兄弟としてよろしくな 」


「うん、よろしくね兄さん 」



 特にこの兄弟は、弟は幼き頃から何事もこなす兄に嫉妬心や羨ましさを抱いていた。それがいつからかその兄よりも成長し、周りをも変えられるほどに成長していった。そして兄のようになりたいと思っていた弟は、兄のようになるのではなく、兄を超える。そう考えるまでに成長したのだ。


 兄もそんな弟を誇りに思うようになり、お互いにとってかけがえのない存在へ、そして大事な兄弟として変わっていったのだ。


 


「兄弟って本当に良いもんだな 」


「ん、兄さんなんか言った? 」


「いーや、何も言ってないよ 」


「そっか! 」






 2人の視線は闇を照らす月にあった……







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兄弟×姉妹「キョウダイカケルシマイ」 萌乃 @moemoe_itukimi00

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