5ー君は多くを尻すぎた

 そのまた翌日のこと。


「おい、ちょっと聞いてくれ」

 奴は性懲りもなく申告な顔をしていた。

「なんだよ、お前のそういうシリアスに見せかけた話は100パーセントろくなことが無いんだよ」


「今回ばかりはちょっと笑えねぇ話だ。橅坂23って知ってっか?」

「何それ?」

 全く聞いたことのない単語だ。


「ヘイSiri、橅坂23って何?」

 とスマホに話しかけた奴は画面を見せてくれた。


「栃木県の地元アイドル」

「へぇ、全然知らねぇや」

 こいつがアイドルグループのことを知っていることが意外だった。

 それに、それよりちゃんと尻以外の話もできるんだ。ということも驚きだった。

「あの23人の中で2人もシリーラを放つお方がいらっしゃるのだ。これは非常に珍しい」

「いや知らねぇよ、結局尻かよ」


「いかにも! 俺は尻とともに生き、尻とともに死す。人は尻より出でて尻に還るのだ」

「んなわけあるか」

「まぁそれはおいといて。今日テレビで偶然見つけちまったんだよ。マネージャーみたいな人の手からシリーラが出てるのを」

「うわぁ……最低だな。まぁ、でも、芸能界ってそういうのよくあんじゃね? テレビとかでもオーラが見えるのなら、他にも沢山いるんじゃないの? 手にオーラつけた人」


「いるぜ、シリーラまみれのやつ」

 奴は辟易した顔で息を吐いた。


「ちなみに、誰?」

「イケメン俳優のM原とか、企業紹介番組で出てくる社長とか上役の人」

「あー……うーん。なんか納得だな」

「このオーラ、なんだか社会の闇みてぇなものも見えちまうんだよな」

「それって見えないようにできないの?」

「そんな機能はないな」

 はた迷惑な話だ。


「まぁもし万が一、俺が尻の魅力を忘れたりしてしまえば消えるかもしれないけれど、あいにく今のところその予定はないな」

「難儀だな」

 何か特別な能力を得るってのは、案外孤独なののなのかもしれない。だって他の人が見えたりできたりしないことができちゃうと、その力の使い方とか経験を誰とも共有できないもんな。……いや例えそれが良い尻のオーラが見えるというものだったとしてもだ。


「にしても橅坂のマネージャーだけは許せねぇぜ」

「もしかしたらほら、付き合ってるのかもよ?」

「そんな尻の軽い女にシリーラは発現しない」

 一も二も無く奴は断言した。どんな判断基準なんだよ、シリーラ。


「まぁでも気になるな。今度握手会にでも行って直接本人に聞いてみるか」

「えっ」

 奴は本気の目をしていた。さすがの僕でも驚いた。


「いやでも、どうしようもないだろそんなの。放っておいてもいいんじゃないか?」

「いや。俺、この力が備わった理由、わかった気がするんだ。きっと神様は良い尻を守れと言っているんだと思う」


 奴は真剣な顔をしたまま続ける。

「そして尻の理解を深めていつかはノーベル生理学賞……いや、シーリ学賞をとって世界を救えと、尻の神は言っておられるのだ」

 ノーベルさんもそんな賞を勝手に作られたら天国で憤慨するだろうな。

 しかしやべぇな、ついに怪しい新興宗教っぽくなってきたぞ。

 全く一体こいつの底知れない原動力は何なんだろう。


「俺のたった一つの望みだからさ。この世を良い尻で溢れさせるという。つまりは人類尻化計画だよ」

 

 僕の頭の中に、くれよんしんちゃんのケツだけ星人たちが街に「ぶりぶりー」と溢れかえる姿が一瞬思い浮かんだ。


 ……こいつの野望だけはなんとしても阻止しなくては。



 おしり(終わり)

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君は多くを尻すぎた 園長 @entyo

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