閑話 イケメンウォッチャー・美緒の秘密の計画

 あたし、小池美緒には四才年上のお姉ちゃんがいる。

 色が白くて、唇が赤くて、黒い髪がきれいな、白雪姫みたいなお姉ちゃんの名前は小池舞宝まほという。今ピカピカの高校一年生。


 幼稚園の時に絵本で見た白雪姫そっくりなお姉ちゃんは、体が弱くて、何の病気かわからないのにしょっちゅう高い熱を出してて、よくお母さんが隠れて泣いているのをあたしは知っている。

 お姉ちゃんが壊れちゃうんじゃないかって、お母さんは怖がってるんだと思う。


 そんなお母さんが、変わってた!!

 あたしが移動教室から帰ってきたら、舞宝ちゃんと笑ってお話をしていたのよ!

 お母さんと話してる舞宝ちゃんがとっても嬉しそうだったから、何があったの? って聞いたのに、二人して笑ってるだけで教えてくれないの。ずるいよね。


 でもね、実はあたし知ってるんだ!

 舞宝ちゃんは恋をしてるんだと思うの。

 お母さんはラブストーリーとかっこいいお兄さんが大好きだから、絶対この二つが関係してる。となれば、絶対舞宝ちゃんに彼氏ができたか、恋をしてるかのどっちかだよね?



「えー、それってこの前の人?」

 公園で待ち合わせをしてた紗彩さあやちゃんに言ったら、すっごくびっくりした顔をされてしまった。

「うん。絶対そうだと思うの」


 この前の人っていうのは、あたしの移動教室の前の日に、舞宝ちゃんを家まで送ってくれたお兄さんのこと。

 あたしと紗彩ちゃんが学校から帰ってきたとき、自転車の後ろに載せてもらって帰ってきた舞宝ちゃんを偶然目撃してしまったのだ。


 高校まで、舞宝ちゃんは徒歩で通ってる。

 でもその日は、男の子の自転車の後ろに乗せてもらって帰ってきた。

 熱が高いみたいでほっぺも赤くなった舞宝ちゃんは、とても具合が悪そうなのに、見てるこっちがドキドキするほど綺麗だった。そして、そんな舞宝ちゃんが自転車から降りるのを手伝ってくれたお兄さんが、これまたかっこよかったのだ!

 もうそれは、白馬からお姫様をおろしてあげる王子様に見えて、声をかけるのも忘れてボーッと見とれちゃったんだから。


「かっこよかったかな? 怖くなかった?」

「チチッ。甘いよ、紗彩ちゃん。あたしのイケメンを見る目に間違いはないんだから」

「ああ、たしかに。美緒ちゃんのかっこいい男子レーダー、半端ないよね。」

「でしょ」


 舞宝ちゃんを送ってくれたお兄さんは、眼鏡をかけて前髪が長くて、パッと見ちょっと怖い感じがした。でもあたしは、お兄さんが一瞬髪をかき上げたときにその顔をばっちり見てしまったのだ!


「それがめっっっちゃ、かっこよかったんだよぉ!」

「ええ、見逃した! なんか悔しい!」

 紗彩ちゃんが本気で悔しがってる。


「ああ、でも、顔見て怖いって思ったから忘れてたけど、舞宝ちゃんが自転車から降りるの手伝ってたところは、なんか紳士って感じで、ちょっとドキドキしたよね」

 私がお姉ちゃんを名前で呼ぶので、紗彩ちゃんもつられて舞宝ちゃんと呼んでいる。


「でしょ。って、紳士って何?」

「えっと、ジェントルマン?」

 余計わからん。

「えっと、穏やかで女の子に優しい人、とか?」


 紗彩ちゃんが自信なさそうに教えてくれたけど、優しい人か。優しい人ならいいな。

 舞宝ちゃんは優しい人だから、彼氏も優しい人がいいと思うんだ。


「でも付き合ってるかどうかわからないんでしょ?」

「んー、そうなんだけどお」


 美緒のイケメンレーダーが、二人をお似合いお似合いって言ってるんだよね。

 もう一回、あんな二人を見たいよって。


「高校ってさ、夏休み終わってすぐに文化祭ってのがあるんだって。私たちも遊びに行けるって、お兄ちゃん言ってたよ。私も去年お母さんと行ったし」

 紗彩ちゃんのお兄ちゃんは、舞宝ちゃんの一つ年上の高校二年生だ。

「でも紗彩ちゃんのお兄ちゃん、高校違うじゃん」

「でもほかの高校にも遊びに行ってたって言ってたよ」

「え、そうなんだ」


 そして二人で顔を見合わせてにんまり笑いあう。

 これは絶対、行くしかないよね。

「でもその前に、ちゃんとあのお兄さんのクラスとか名前とか、調べておかないとだめだよ」

「もちろんよ!」


 高校にいる二人を見たい!

 そして、キューピットになろうねと、私と紗彩ちゃんは、しっかり指切りをしたんだ。

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月光の舞姫と白の騎士 ~異なる世界と私と私~ 相内充希 @mituki_aiuchi

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