紫陽花
梅雨入り前のある日の朝、運動不足解消のために外を歩いた。湿気を含んだ風が強く吹き、強く結んだはずの髪が乱れた。空は青く高いが、薄くて白い雲が次から次へと行き交い、少し遅れぎみの梅雨前線を運ぶのに忙しくしているように感じた。太陽は、時折薄い雲に遮られるが、強く輝き、眩しい。
駅の近くまで、風を心地よく感じながら歩くと、ちょっとした公園に植えられている紫陽花が満開であることに初めて気が付いた。コロナの猛威によって、リモートワークが2カ月以上続き、私が家にこもる生活を続けているうちに、季節は春をとうに終わらせ、確実に夏を迎えていたのだ。私は、気づかない間に経っていた時間の長さに、はっとした。そして、彼に会えないままでいる時間が長いにもかかわらず、私はそれについて悲しくもなかったことにも気づいた。
恋が終わりを迎えたのだと思うことにした。重たげに青紫のボールを抱えた紫陽花を愛おしく思いながら、軽くなった心を弾ませて、歩く速度を上げた。空の南から、厚い雲が迫ってきていた。
おわり
結ばれることのなかった彼へ 藍原れおん @s_aihara
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