終幕

2021年×月○日


山本さんからコインを渡されてから1年くらい経ってしまった。

ウイルスっていうのは、本当にやっかいだ。味方だとは到底思えないが、敵だと思って接すると良いことがない。うまいことご機嫌をとってやっていくしか無いのだろう。

だが、これでやっと会いに行ける。ワクチンの開発に協力した甲斐があった。

およそ10年ぶりのマラウイだ。


一体どんな女性になっているだろうか?

そもそも、コインを無くしてしまったらMawaだってわかるのだろうか?笑

ま、行ってみればわかる。


とにかく、彼女が日本に来れるくらいに大人になっていたことに大変驚いた。

元気付けたり、勇気付けたりするために、希望を見せる必要があったにせよ、日本に来いって言うのはちょっと無理があったかな、なんて後で反省もしたのだけど。

本当に素晴らしく成長しているのだろう。


そういえば、数日前、明日あすかにマラウイのことをいろいろ質問されたな。なんでマラウイのことに興味を持ったんだろう?授業でやったりするのかな?

リビングにMawaの写真を飾ってはいるけど、あれを見てマラウイだってピンポイントでわかることはないだろうになあ。

もしかしてこれが女の勘ってやつか!恐ろしい…。

そういえば、明日って名前はMawaから取ったんだったな。

何か運命か!?


ま、冗談はさておき、なんでMawaは日本に来て、大事なコインを落としていったんだろう?

大事じゃなかったのかな?でも大事じゃなかったら、わざわざ日本まで持ってこないよな。

やっぱり、日本に来たってことを、なんとか伝えるために、わざと落としたのかな?

たまたま、僕の手に戻って来たからうまいこと繋がったけど、どういうつもりだったんだろうな?

会ったら聞いてみなくちゃな。

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機内で日記を書いていると、通路を挟んだ隣に座っていた日本人男性に声をかけられた。


「マラウイに、何をしにいくんですか?」


「ちょっと、知人に会いにきたんです。あなたは?」

マラウイに行くのに、日本人と同乗するとは思ってもみなかったので驚いたが、逆に興味が湧いたので、三枝木は会話を続けることにした。


「わたしは、子どもに会いに来ました」

男性はそう答えた。


「子ども?あなたの子ども?」

男性はどう見ても日本人の見た目だったので、どういうことなのかと三枝木が驚いた顔をしていると、


「子どもと言っても実はまだ会ったことがないんです。スポンサーシップってご存知ですか?恵まれない国や地域の子供に定期的に資金を援助して、里親みたいになる」


「はい、知ってます」

もちろん知っていた。


「元々は、街で声をかけられて断りづらくてユニセフの募金を始めたんですがね。一歩踏み出してみると、いろいろ興味が湧いてしまって、いつの間にか海外に子どもができていましたよ」


男性は、知らない街に子どもを作ってしまった、みたいな言い方をした。

山本さんに言わせれば、唾をつけておいた僕も似たようなもんか。


「そうなんですか、とても素晴らしいことですね」


「ええ、自分でやっていてなんですが、そう思います。でも、街で声をかけて来たユニセフの方も一生懸命でしたし、きっと現地で働く方も必死でやっているんだと思うんです」


「ええ、きっとそうだと思います」


「だから、僕にできることは何だろうか、何かできないだろうかって考えたんですよね。そしたら、そうだノブレス・オブリージュだって」


機体は降下を始めていた。小さな窓から見える緑色の大地は少し滲んで見えた。

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ノブレス・オブリージュ @ukonno

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