第23話 騒動の後、そして留学生

 ダンジョンでの騒動は魔法陣の劣化によるものとして処理され、臨時休校は予定通りに終わった。

 私はいつもと変わらずラウラと共に教室へと向かっている、のだが。

 しかし同じ通路を歩く貴族の子女はまるで何事もなかったかのように談笑している。こういう事に慣れているのか、もしくは。


「難しい顔してる。何か気になることでも?」


「うーん。あるにはある、ってところだけど。まあ後で調べたらいいことかも」


「ならいいけど。そういえば今日は交換学習の日だったわね」


 言われて思い出す。そう言えば最初の2週間は外国の留学生と一緒に勉強することになっていたっけ。

 代わりにこちらからも公爵家の人間が外国に向かう――、ってことはフィーナは今この国にはいないのか。

 思い返すと昨日一緒に夕飯を食べた時もどこか慌ただしそうだった。

 帰ってきたら労っておくか。



「やあ、アルマ君! ラウラ君!」


 やたらデカく暑苦しい声、振り返るとブレーナーがやたら良い笑顔で手を振っていた。


「ごきげんよう。朝からトレーニングですか?」


「うむ。あの日の反省も込めてな。今度はレディーを守れるようにと、こうして日頃から特訓しておかねばなと」


 そう言って彼は高笑いをしながら走り去っていく。本当に濃ゆいなあ。


「あ、お礼言えなかった……」


「またどっかで会えるんじゃないか? その時に言えばいいよ」


 いつもべったりとブレーナーにくっ付いてたのに、今日はサラとは別なのか。

 流石に朝からずっと一緒というわけではないのかも。


 さて、新しい研究テーマを考えることに集中するか。



 セルジュはあの場で腕をつなぎ合わせ麻痺魔術をかけた上で、事件に関わった証拠と共に衛兵詰め所の前に転がしておいた。

 その後どうなったかは知らないが、まあこれまで通りとはならないだろう。


 あの老害共も私が幼女になっているなんて感知できないだろうし、当面の課題は何もない――いや、一つだけあった。


 あの呪いの首輪、そして《聖威》への対策法。これらを開発しておく必要がある。

 しかしマナの動きを阻害する能力への対抗手段を開発するにしても実験の材料がごく限られているのがなあ。


 転移魔術はその発動範囲が限られている。

 あの荒野も元はダンジョンの大フロアを書き換えた近くに移動しただけだと周囲の魔力でわかったから良かったけど、もし本当に距離無制限の転移によるものだったらどうしようもなかった。


 しかしどうしたものか。

 こういう時はいつも資源採掘ダンジョンにゴーレムと一緒に潜って足りない物をかき集めてたけれど、今いるのは実験補佐インテリのマル一体だけだし、何より学園を抜け出してダンジョンに行く手段が……。


 そう考えていると授業の開始を告げる鐘の音が聞こえてくる。

 とりあえず留学生とやらの挨拶が終わってから《リーディング》を発動させて方法を考えるとするか。


 ガラガラと扉が開き教授が入ってくる。


「ええー、事前のお伝えした通り今日から交換留学生の方々と一緒に授業を受けて頂きます。彼らはまだこの国に慣れていません。貴族たる者として……」


 この教授はとにかく前置きが長い。いつもは《リーディング》で聞き流してるけど素面で聞くと結構辛いな。


 と、そこで戸が2回たたかれる。留学生からしてもこんなまどろっこしい話に付き合って廊下で待たされるのは耐えられないだろうな。


「おっと話が脱線してしまったようです。それでは皆さん入ってきてください」


 そして教室に行儀よく入ってきた5人の少年少女。貴族の学校である魔法学園の生徒ということだけはあり身なりはいい。


「初めまして、聖ドラガン騎士学園から来ました……」


 留学生は礼儀正しく挨拶をしている中で私はあることに気づく。


 ちょうど真ん中に立っているその少女に自分は見覚えがあった。いやそれどころ2日前にも会ったばかりだし、最初の対面時に同じ学園の生徒として紹介されたはずだ。


「……まためんどくさい問題が発生したのかもな……」


 誰にも聞こえないよう小さく愚痴をこぼしながら、彼女の自己紹介を聞く。


「聖ドラガン騎士学園から来ました。サラ・フォン・ランテンプルです。少しの間ではありますが、仲良くしていただけると嬉しいです」

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