第22話 幕間 老人の怯え
今から500年前に起きた"狂気の研究者反逆事件"。
この事件によりアストラの研究成果を見よう見まねで剽窃し、アカデミーの魔法研究者たちはその功績から国に貢献したとして《元老》の地位を手に入れ、同時に聖女協会との結び付きを強めていく。
こうして膨大な富と名誉を手に入れ、アカデミーを宗教組織として先鋭化させ、元老は世襲制事実上の貴族となり王国にてその権力を思う存分振るっていた。
たった一つの不安材料、それから目を背き続けて……。
反逆者とされたアストラは生前数多くの発明や発見をしており、世に公表されたものは数少ないがそれでも世界に衝撃を与えるものばかりだった。
アストラの死後、元老は彼の研究室に入ったことで実際にはそれ以上に衝撃的な研究成果を数多く残していたことを知る。
――そしてその中には死後に自らの魂を蘇らせる魔法の研究記録までも残されていたのだ。
「奴ならやりかねない」
仮にもし復活したとなればアストラは元老の不正を糾弾し、彼と同じ末路を辿らさせるかもしれない。
アストラを恐れた元老は蘇った時に備え、ある決断をする。
それが今日に至るまでの魔法忘却政策だ。
『今ある魔法の大半は悪魔の介入の下に作られたものだ。奴らの復活を阻止するためにこれからは聖女教会が安全と認めた魔法のみを使うように』
この政策は反抗の芽をつむという期待も込められ積極的に推し進められた。
その結果、元老は王国の魔法技術の発展を完全に管理下に置くことに成功し優れた魔法を独占することにもなる。
彼らとその子孫は「得体の知れない恐怖」に怯えながらも、この生活が終わるとは思ってもいなかった。
きっと蘇ることはない。仮に蘇ったとしても反逆者とされたアストラを助ける者はいないし、そもそも彼が追放されたあの森には数多くの攻撃術式と改造魔獣が放たれている。
だからきっと大丈夫だ、彼らは必死にそう言い聞かせてきた。
しかし、それは一時の夢幻に過ぎなかったのだ。
「禁断の森で膨大な魔力反応が観測された」
数百年が経ったにも関わらず姿を変えない聖女にそのことを告げられた元老たちは恐れ、怯え、狂い、そして《ホンモノのアクマ》へと救いを求めてしまう。
多くの人命を弄び、聖女と共に未だこの世に留まり続ける《追放者》たる元老。
彼らがその報いを受けるのは、そう遠くない未来の出来事だ。
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