第21話 研究と追及、そして追放者
「おお! 無事だったか!?」
「なんとかね。他の皆は?」
「既に騎士団が医務室に連れていった。だが誰一人として怪我は負っていないぞ」
だろうな。ダンジョンに戻った際に治癒魔法と
「キミは怪我とかしていないか? 念のために医務室に行った方がいい」
「自分は大丈夫――だけど一応顔を出しに行くよ。実習はどうなるの?」
「中止、というより今日明日と臨時休校だそうだ。私たちが入った後に魔法陣が破壊されていたことが発覚したらしい」
「なるほどね。ならダンジョンから出ても構わないんだな?」
その問いにグレーナーは首を縦に振る。ならこのまま出ていくとするか。
「……今日は徹夜でコイツの研究でもしようかね……」
懐から取り出した小瓶、その中に閉じ込められた泥状の魔法生物は脱出を試みもがいていた。
♢
「これが新しい研究目的ですか?」
「そうだ。パッと調べた限りスライムに似てはいるんだけど核に当たる器官がなくて、代わりに動物に必要な骨や内臓がこの泥状の体に揃っているんだよ」
学園寮の私室、その一角を改造して作り上げた工房で私は泥に電撃魔法を浴びせる。
するとそのドロドロな体は透け内容物が見えるようになった。
ヒトの物に近い骨格を最大限引き伸ばしたようなそれは。マトモな感性を持つ者が見たら間違いなく吐き気を催す不気味さを放っている。
だがこの程度のことで怖気ていたら賢者などやっていられない。
「貴様……、一体何が目的だ……?」
「見て分からないのか? 研究だよ、研究」
「どこが……だ!? こんなの……ただの拷問……ぴぎゃあ!?!」
ほー、蟲のように這うのではなく浮遊魔法を使って移動しているのか。ということは思っていた通りヒトをベースとしたキメラなのかな。
「この程度のショックで一々悲鳴を上げないでくれよ。集中できないんだ」
「マスター、発声器官を潰しましょうか?」
「満遍なく反応を観察したいからなー。ハサメル草をすり潰したのがあったからそれを持ってきてくれ」
私の指示を聞いてマルは速やかに指定されたブツを持ってくる。
「貴様、それで何をするつもりだ?!」
「発声器官を潰すより麻痺させた方が良い結果を得られると思ってな」
泥はそに肉体を振動させ可能な限り私から遠ざかろう試み出した。別に取って食うつもりはないんだけどなあ。
「話す! 俺の知っていることを全て話す! だからこれ以上は勘弁してくれ!」
「……うん、いい返事だ」
♢
『ハジメマシテ、どーそんサン』
「こんな希少種、君は一体どこで見つけてきたんだ?!」
「偶然見つけて拾っただけだよ。粗方自分でも調べ終わったから貴方にプレゼントしようかなと」
その日の夕方、班分け検査の時の白衣の男――ドーソンの研究所を訪れた私はあの泥状の生物もとい
とはいってもソイツには最早まともに思考する能力も、これまでの記憶もない。
正真正銘珍しい構造の肉塊でしかない。
「そうだ。このレポートについてチェックしてもらえるかい?」
「ああ、いいよ。明日には渡せると思う」
あの班分け試験の後、偶々出くわした私たちは思いのほか意気投合しそれぞれ研究について熱弁し合う仲になっていた。
彼は従者棟に特別な許可を得て造られた工房を専有しているので、スペースを必要とする実験で使わせても貰ったりしている。
無論見返りとして彼の論文やレポート、それに実験の補佐などもやっている互いにWinWinの関係だ。
ほとんど情報を抜かれ物言わぬ生きた屍と化した元悪魔とそれを興味深そうに観察するドーソンを背にして、私は彼の研究レポートとその提出先について思考を巡らせる。
「……
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