第20話 荒野の決闘、そして最強の存在
リリウムの左腕を覆う骨と思わしき物体が突き出した泥、ぱっと見で解析した限りではスライムのような魔法生物っぽいのだが。
さてどうしたものか。
「ラウラ、君は彼女を助けたいかい?」
「……助けられるなら助けてほしい。あんな姿で斃れるなんて残酷過ぎるから」
なら可能な限り本人へのダメージを最小限度に抑えなくてはならない。そうなるとラウラをこの空間に留めて置くのはデメリットしかない。
だから。
「《転移》」
「……なに、これ……。 ! アルマ!?」
ラウラの手は私の肩を掴む前に光の粒子となって消え失せる。これで行動を阻害する要因はなくなった。
「これで邪魔者はいなくなった。存分にやり合おうじゃないか」
「転移魔術まで会得しているとは、つくづく化け物だな」
左腕の泥が蠢くと共にリリウムが話し出す。やはりあれが寄生しているというわけか。
とりあえず今回はベヒモスの出番はないな。この戦いに
こんな姿では前世と同じ速度と力は得られないだろうが、まあやるだけの価値はあるだろう。
「餓鬼だからといって容赦はせぬ。存分に苦しみ、そして絶命せよ」
言い終えると共にリリウムはバネのように泥をしならせ地を蹴り空高く舞い上がり、渾身の一撃をシールダーに叩きつける。
魔力は大概注ぎ込んだが、所詮は低級召喚獣。攻撃に耐えきれず、その巨大な大盾は瞬く間に崩壊していく。
けれどそれ以上の攻撃が私に襲い掛かることはない。
「これは……!?」
泥を縛り上げる無数の影の腕、それがリリウムの行動を完全に阻害し次の攻撃を封じていた。
「影から召喚獣を生成しているのだから、これくらい出来ることは容易に察せたはずだが?」
「……ッ!!」
煽りに怒り攻撃を与えようと泥を動かそうとするが、リリウムは身じろぎすることくらいしかできない。
これで脅威を感じることなく腫瘍を削ぐことが出来る。
《マジックソード》で光の刃を出現させ、丁寧に奥にあるリリウムの腕を傷つけないよう泥を削いでいく。
思っていた通りこの泥はスライム状の寄生生物のようだ。しかしこんななりで感覚器官に内蔵、さらには脳と生物に必要なモノは一式そろっているとは。
研究サンプルに少し頂戴しよう。
「舐めるなァ!!」
何て考えていると泥は自らの体を縮小させて無理矢理拘束から抜け出し宙を舞う。
リリウムお嬢様は……、どうやら気絶しているだけのようだ。ならこのまま《転送》で学園に送り返しておこう。
「セルジュ! さっさと来い!!」
「だから言っただろう? 俺じゃなきゃダメだと」
泥はセルジュを包み込み、その体を肥大化させていく。
しかしわざわざ変化を待つ理由もない。
「《ヒートレーザー》」
魔法陣が出現するとほぼ同時にセルジュの腕は切り落とされ、泥も黒く焼け焦げ硬化させ、彼らの体を内側までも焼き尽くす。
満足に呼吸すら行えなくなったセルジュ+泥は地面へと叩きつけられ、その場で苦痛にもがきながら芋虫のように這う。
「な……んだ、これは……。詠唱、すら……行わずに……魔法……を……行使しただと……!?」
「詠唱は魔法陣の改良で不要になる。あれほど大々的に発表されていたのにな」
何故ここまで魔法が衰退したのかは分からないが、今の惨状を見たらあの老害共も嘆くだろう。それはそれで面白いかも。
「全く気配を隠せていないぞ」
地中から現れた泥の槍を掴み
思っていたよりもしぶとい。
「ああ、安心しろ。お前たちを殺すつもりはない。色々と知りたいことがあるしな」
再び《マジックソード》を発動し、それを使ってセルジュの体から泥を無理矢理剥ぐことで融合を解く。
「きさ……まァ……、ぐ……があ!?」
「安心しろ泥。お前は貴重な研究サンプルだ。殺しはしないと言っただろう?」
これまで解剖してきたどの魔物にも似つかない構造、みすみす捨てるわけがない。
剥ぎ終わり影魔法で拘束した泥を改良型マジックボックスにしまって、と。
「おっと、お前にも聞きたいことがあるから死んでもらっちゃ困るよ」
回復魔法を使って彼岸に旅立とうとしている腹黒執事を叩き起こす。
「なんの……つもり、だ。化け物!?」
「これまで私の周りで起きていた騒動、あれ全部お前が関わってるだろ?」
その言葉を聞いてセルジュの顔は見事なまでに青ざめる。やっぱりか。
「いずれフリードリヒ家に差し出されることにはなるが、お前の協力者について聞いておきたくてね。あの泥も、お前が使っていた魔法もそいつが寄こしたんだろう?」
「それを知って何になる……!」
「何に? そんなの研究のためだよ。言っておくけど簡単に死ねる未来は永遠にないと思っとけ」
泥との融合のせいでまともに立ち上がることすら出来ず、腕を切り落とされたことで武器を取ることも出来ず、舌を噛み切ったところで回復魔法を発動され死ぬことすら出来ない。
私の頼みを断ることが出来ないと悟ったのかセルジュは体を震わせ歯をカチカチと鳴らしながら言う。
「
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