第19話 ダンジョン実習、そして襲来
あの班分けを兼ねた実力検査から4日が過ぎ、私たちの班は王都郊外にある王宮騎士団が直接管理しているダンジョンに来ていた。
ダンジョンは如何にもな地下迷宮型となっており、周囲には魔術結界が複数張られているというものだ。
既に内部は粗方探索され尽くされていて脅威はほぼないそうだが、それでも念には念をと騎士団がバックアップとしている。
このダンジョン実習の目的は「貴族たる者、有事においては率先して民の前に立つ必要がある」という精神から行われているらしいが、今日ではただの御題目に過ぎない。
実際に行われるのは多少倒すのが面倒くさいだけの
とは言っても戦場と呼ぶことのできる場所ではあるので、一部の学生にとっては
「てああああああ!!」
同じ班となったオイゲン伯爵家次男ヴレーナ―・フォン・オイゲンが大剣でスライムを核ごと叩き潰す。
汗まみれでやたらイイ笑顔をしている彼は見ているだけで暑苦しい。
ラウラはというとダンジョン内の高い湿気に相当不快感を感じているようで一言もしゃべらず淡々と歩いている。
「大丈夫?」
「……早く出たい」
一応声をかけてみたが返す気力もないようだ。暫くそっとしておこう。
「ダーリン、ほら汗を拭かなくちゃ」
「おお、わが愛しのハニー。いつもありがとう」
さて一番の問題は目の前のバカップルだ。
ブレーナー・フォン・オイゲンの許嫁らしいランテンプル子爵家の令嬢サラ・フォン・ランテンプルは暑苦しいとしか言えない程熱愛っぷりを私たちに見せつけている。
加えてたちが悪いことにブレーナーは至って純粋に許嫁を愛しているだけということだ。
サラには多少の裏がありそうなのだが、ブレーナーは至って純粋というのがなあ。
こんな問題児同士で班を組ませられることになるとは……。
「あとどれだけスタンプを押したらいいの?」
「1個だけだよ。さっきのギミックから見るに、スタンプまでもうすぐそこだろうから頑張ろう」
お互いヘトヘトになりながら励まし合う。おかしいな。そこまで体も頭を動かしていないはずのに、どうしてこんなにも疲れるんだろう?
「キミ達! 最後のスタンプを見つけたぞ!!」
通路の先から底抜けに明るく暑苦しい声が聞こえてくる。しかしこの用紙にそのスタンプを押せば3日はゆっくり休められるのだ。
「ほら、行こう」
「うん……」
そうしてラウラの手を取った、まさにその時だった。
壁の一面がめくり上がり、中から現れた黒い手が私たちを掴む。
咄嗟の事で声を上げることも魔術を行使することすらも出来ず漆黒の空間に引きずり込まれてしまう。
「—―! 大変だ。彼女たちが!」
最後に聞こえてきたのは残されパニックになりかけている彼らバカップルの悲鳴だった。
♢
「ラウラ! 大丈夫!?」
「私は平気……。貴女は?」
「気にするような怪我はないよ。しかし」
密閉されたダンジョンから開放的な荒野への転移。魔法の痕跡もなくこのような所業を為せるのは。
「ラウラ、絶対に自分の前に出るな」
「それって、どういう」
突如として雷が私たちを囲うように降り注ぐ。当然のことだが普通の雷がこのようにピンポイントで落ちてくるわけがない。
にも関わらずこの現象にも魔法が発動された跡はなかった。
「悪魔と契約して殺そうとする価値が自分たちにあるとは思えないな!」
可能な限り声を張り上げて煽る。
これで引きずりだされたらありがたいのだが、と思っていたが敵さんは少々短気だったようだ。
視界を雷によって生じた眩い閃光が支配し、とっさに《ヒール》を発動させて失明しないよう私とラウラの目を保護する。
さらに《
「やっぱりアンタらが結託してたのか」
「そんな……リリウム、どうして
わざとらしく頭を振るのはフィアナ・フォン・フリードリヒ直属の執事セルジュ、そして約1週間前に行方不明となっていたリリウム・フォン・ラプーレスに酷似した異形の怪物がそこにいた。
「貴女に名前を言われるとは虫唾が走る、彼女はそう言っているよ」
「やれやれ、あそこで大人しく死んでおけば苦しむことはなかっただろうに」
ずいぶんと煽られたものだ。
なら、久々に誰の目も気にせず暴れてみようじゃないか。
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