第18話 検査、そして圧倒的な実力差

 扉をくぐるとそこは私以外に人はおらず、ただひたすらに殺風景な小さな闘技場だった。

 奥にはより簡素な木製の扉が2つある。今度は「魔法でどちらが正解か調べろ」という試練なのだろうか。


「なら、さっさと解析しましょうかねぇ」

 

 呑気に欠伸をしながら扉に近づくと、片方の扉から怒声と機械が動く音が聞こえてきた。

 何か面倒くさいことが起こりそうな予感を感じていると勢いよく扉が吹き飛び、中からゴブリン型とバトルウルフ型の魔法人形を引き連れた白衣の男が現れる。

 


「僕が君の試験を監督するドーソンだ。これには色々と事情があるのだが、君が知る必要はないだろう。さあ、構えたまえ」


 随分と失礼な奴だが……、なるほど。気づいていない・・・・・・・ようだな。


「準備はとっくに出来ていますよ? お好きなタイミングで仕掛けて構いませんよ」


「気持ち悪い喋り方をするな。僕はお前の化けの皮を剥ぎにきたんだ」


 化けの皮、ねぇ……。まあ幼女の皮を被ってるというのは事実なんだが。


「なら手加減はしなくてもいいってことだな? さあ、掛かって来いよ」


「ッ、……ぬかせ!」


 男は魔力パスを繋げるとゴブリンとバトルウルフを私に向けて走らせる。

 しかし《マリオネット》か。コレへの対処法はわりと簡単なんだけど。


「少しは余興に付き合ってやるか」


 木剣を振り下ろすゴブリンの腕を掴み、叩き伏せる。


「……あの速さを捉えたのか?」


「なんてことはない。《マリオネット》で使役されている魔法人形は進路方向にマナを投射する特性がある。優れた人形師ならばそれを相手に悟らせないようにしなくては」


 とはいえ素の腕力ならば間違いなく大怪我を負っていただろうけど。


「だったら何だというんだ!」


 その声に応じてゴブリンの背後からバトルウルフが飛び出してくる。

 全くこれだから。


「聞こえなかったのか? 魔法人形の特性を隠せていないというのを」


 ゴブリンを盾にすることでバトルウルフの牙から身を護る。

 魔法が無ければこんな離れ業は出来なかっただろうなと考えながら、それらを纏めて壁に叩きつけてしまう。

 さてと。


「今更だけど貴方の肩に悪い蟲・・・がついているよ」


「蟲? 一体何の話だ!?」


 男が困惑しているその隙をついて《クリーン》を放ち元凶を払いのける。

 落ちた物を拾ってみるとやはり魔蟲の改造個体だったようだ。

 擬態と洗脳の魔術がかけられた結晶体を埋め込まれているが、そのせいで気づけなかったのだろうか。もしくは。


 まあその辺りの真相解明は一応研究者らしい当人に任せることにしよう。


「ほら、こんなのが付いていたよ」


 項垂れている男に近づいて拾った物を渡す。


「これが僕に憑りついていたと言うのか?」


 信じられない物を見たような目で男は蟲を凝視している。


「こんなものにこの僕が操られていたというのか?」


「多分、納得できないのならコレをとことん調べたらいい。それじゃあ自分は先に行くよ」


 もうこれ以上この闘技場に留まる理由はない。早いとここの班分けを終わらせて昼寝でもしよう。




「—―よかった。貴女と同じ班で」


「やあ、さっきぶりだね。知っている人がいるだけでだいぶ安心感は変わるからね」


 闘技場の扉(男が現れたのは違う方)を越えるとそこは学園の広大な庭園、その壱区画だった。

 扉をくぐることがトリガーになっている転移魔術が予め設置されていたのか。

 この学園に来てようやく研究のしがいのある魔法に出会えたことに感激しているとラウラが自分が出たのと同じ扉から出てきたので軽く挨拶する。


「ほかの人は?」


「まだ自分だけ。多分まだ検査が終わってないんだと思う」


 2人だけの班だったらだいぶ気楽なのだが、まあそんなことにはならないだろう。

 しかし眠たい。このまま寝てしまおうか。


「あ、髪が乱れてるよ。直してあげるからこっちおいで」


「えー」


「文句言わない。ほら」


 言われるがままラウラの膝に座る。やっぱりこの体は13歳にしては小さすぎるな……。

 

「んん、ちょっとくすぐったい」


「髪をとかしてるからね。これくらい自分で出来るようになりなさいよ」


 屋敷では朝一で押しかけてきたフィーナに全部やってもらっていたからなぁ。

 そもそもアストラだった頃の感性が抜けていないから化粧どころかスカートを履くのも抵抗感を感じているし。

 とはいえこの幼女の姿が今の自分なのだからいずれは慣れる必要があるだろう。


「ほら、笑って笑って」


「なんで皆して頬をつつくんだよ。……だけど」


「!」


 お返しとばかりに視界にちらちら映る尻尾をくすぐる。ラウラは必死に笑いをこらえながら化粧直しを止めてじゃれつきだす。


「やったわね? ならこれはどうかしら」


「だったらこっちだ!」


 そんな風に馬鹿なことをやっていると突然扉が開かれる音が聞こえる。


「ハハハハハ! どうやら私の仲間は既に友情を育めているようだな!」


 そこに立っていたのはよく鍛えられた筋肉を持った見たまんま暑苦しそうな大男と、それべったりくっつく貴族令嬢の2人組だった。

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