第17話 班分け、そして実力検査

「おはよう、ラウラ」


「おはようございます。眠たそうだね?」


「夜遅くまで調べものしていたさ。今日は何か特別なことするんだっけ?」


 軽くサンドイッチを腹に入れ、私たちは授業棟にのんびりと向かっている。

 ラウラはこちらの返答に肩をすくめるとカバンからシラバスを取り出しそれを私に渡す。


「班別分けテスト?」


「来週にダンジョンで実習授業に向けて同じレベルの生徒同士でパーティーを組むらしいわ」


「ほーん」


 となると下手に目立たないよう能力を調整しないとな。フィーナが所属している執行会に目をつけられるかもしれないし。


「ところで、本当にこのままでいいの?」


 内容は《リーディング》で暗記したのでシラバスをラウラに返す。すると彼女は周りに聞こえないくらいの小さな声で話し始める。


「何が?」


「私みたいな弱小貴族が公爵令嬢様にこんな口の利き方をしてもいいのかってこと」


 何だそんな事か。


「自由にしてもらっていいよ。ため口の方が話しやすいかなと思ったんだけど」


「そう……? ならこのままで」


 変に目をつけられる可能性もあるから無理強いはできない。貴族というのはやはり面倒くさい生き物だ。

 

「聞きました? 昨日の昼から新入生の男爵令嬢が行方不明らしいですよ」

「ここの警備は万全のはずですが……」


 そんなことを考えていると先行している男子学生の話が聞こえてきた。

 男爵令嬢が行方不明、ねぇ……。一応生きてるのは確認したはずだが。


「アルマ、もしかして」

「それは杞憂だよ。ほら行こう」


 どちらにせよ私たちには関係のないことだ。




「これより班別分けテストを始める! 新入生は割り当てられた個室に入れ!」


 執行会会長で筆頭公爵家レーグラン家嫡男ブルーム・フォン・レーグランの指示に従って私たちはそれぞれ簡素なバラック小屋の個室へ入る。

 この班別分けテストは平等で公正なものとするために七大烈士出身で長子の現役学生が監督官を務めるとのこと。


 新入生であるはずのフィーナも監督官として自分の能力を厳正にチェックする、そのはずなんだけど。


「手を振っていいものなのか……?」


 個室に入る直前にチラッと見たらフィーナはがっつりと私を見て手を振っていた。


 それはさておき個室の中には水晶とさらに奥へと通じるドアがあるだけ。


「記憶再生型魔水晶……。こいつに触れろってことか」


 加えてこの密室、これで特定の人間が有利になるようなことを防いでいるのか。

 完全にオープンな空間ならば間者を紛れ込ませる余地があるが、この個人個人が完全に隔絶した空間で最終的な班分けを決定するのは貴族とも隔絶した権力を持つ七大烈士の長子。彼らに限ってライバルになり得るかもしれない身内を優遇するわけがない。


 意外によく考えられているもんだと感心しながら水晶に手をかざす。


『これより実力検査を始めます。まず貴女の魔力量をこの水晶で計測します』


 ふむ、試験自体はありきたりなんだな。ただ私としてはラウラと一緒の班になる必要がある。


「《ピーキング》」


 貼られていた術式ははっきり言ってお粗末なものだった。

 学園で常用されている他の魔術に比べたら幾分マシだが、ここまで簡単に割れてしまっては実用には向かない。


 本当にどうしてここまで衰退してしまったのかと疑問に思いながら、水晶に込められた魔力の流れ、それを解析してラウラの結果を覗き込む。

 魔力量、属性、コントロールの技量それら全て《リーディング》で記録、後は僅かな誤差をつけて……。


『確認できました。奥の扉で二次検査を受けていただきます』


 上手く騙せていると信じて、次の部屋へと向かう。



「なるほど、キミの言っていた通りの逸材だな」


 試験場に併設された庭園のガゼボ。

 そこでレーグラン公爵家嫡男ブルームは算出された数値が表示された水晶を見て一言呟く。


「はい、ですが執行会に入れてはなりませんよ。約束を破ることになりますから」


「ありえない!」


 フィーナがそれに笑顔で応えるのとほぼ同じタイミングで絶叫が木霊する。


「水晶の僅かなパスから特定の結果を覗き見るなんて現行魔術で出来るはずがない! そもそも僕の作ったこの完璧な魔術は一度たりとも……!」


「落ち着け。フィーナ君が出した日誌は読んだのだろう? 彼女は規格外ということだ」


 レーグラン公爵家お抱えの魔術研究者であり今回水晶に貼られた術式の発明者でもあるドーソンにとってそれは受け入れることが出来ないものだった。

 事前にブルームからラウラとアルマの数値は別枠で観測し、かつアルマの部屋を一切の魔術を用いず観察できるようにと伝えられた時、彼は彼女が醜い不正を働こうとしている程度にしか思わなかった。


 何にせよ一切の不正は自分が開発したこの完璧な術式の前には無謀な試みでしかない。

 故にドーソンはあんな小娘のためにリソースを割く必要はないと断じていたのだ。

 だけど結果は彼の思考とは全くかけ離れたものだった。


「彼女の二次試験は僕が直々行います。構いませんね?」


「ええ、お好きにどうぞ」


 義姉であるフィーナの了承を得られるとドーソンは駆け足で部屋を出ていく。


「微塵も妹君が遅れを取るとは思っていないようだね」


「もちろん。彼女は最強の勇者様ですから」


 その言葉を聞きブルームは映像伝達型魔水晶をアルマの試験部屋に切り替える。


「なら私はドーソンがどこまで喰いつけるか見させてもらうことにするよ」

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