第15話 決闘の果て、そして転機

 やはりと言うべきかコロシアムには私とラウラ、そして決闘相手のリリウムとその取り巻き以外には誰もいなかった。


「貴女が退屈な決闘者じゃないことを期待しているよ」


「ド田舎生まれで無名の3流貴族が、この王都周辺に居を構える1流貴族であるリリウム・フォン・ラプーレスに歯向かったことを一生後悔させてやりますわ」


 ラウラと同じ家名。なるほど大体の察しがついた、これなら本当に遠慮なく叩きのめしてしまってもいいだろう。

 しかしまああれだけ青筋立てていると自分まで心配になってきた。いつか堪忍袋の緒どころか血管まで物理的に千切れるんじゃないか?

 

「あらあら、マジックアイテムどころか武器すら持たずそのような恰好で決闘するつもりですか?」


「本当に下賤なものでしかありませんわね」


 リリウムとかいうお嬢様には取り巻き連中が私へ投げる煽り言葉すら聞こえていないようで、彼女は《早着替え》の効果が付与されたマジックアイテムで決闘装束に着替える。

 そして。



「御覧なさい。ラプーレス家に伝わる伝説の魔剣グリムガル、その力を!」


 一つだけならどれだけ質量が大きい物でも収納できる最高級のマジックアイテム《マジックボックス》、そこから取り出されたのは赤黒い刀身をしたレイピアだった。

 魔剣グリムガルはまるで抜き放たれたことを喜ぶかのように黒い炎を発生させる。


「このコロシアムではどれだけ致命傷を受けても精神的な苦痛を感じるだけで死ぬことはない。そのことに感謝しながら絶望と共に焼かれなさいな!!」


「残念ながらそのようなことになりません」


 リリウムは心臓を穿てるよう照準を合わせコロシアムの地面を勢いよく蹴る。

 さらに加速魔法ブーストを重ね掛けて速度を増していく。


 13歳でここまで魔法を使いこなせたのなら立派と言える。しかし。


「タネも仕掛けも丸見えですよ、と」


 取り巻きとリリウムとを繋ぐ巨大な魔力の糸、それに向けて手をかかげ、そして砕く。


「え?」


 《ブースト》が切れて急激に失速したリリウムは勢いよく地面に激突してしまう。

 そして取り巻きの少女たちも魔法をかけられなくなったことに驚き慌てていた。


「あらあら、1対1で正々堂々の決闘かと思っていたらまさか1対3の変則試合でしたか。自分はそちらでも構いませんけど」


「……ッ!」


 屈辱的な仕打ちと捉えたのか、リリウムは冷静さを欠いてレイピアを振るう。それでも素の身体能力が高いからか、この小さな体幼女では致命傷となるスピードとパワーだ。


「「万物の源よ! 下賤なるものに裁きの炎を!! 《フレア》!!!」」


 さらに慌てた取り巻き連中が長ったらしい詠唱と込みで火炎魔法を放つ。

 確かにこれは避けられない。

 

 だったら。


「《ヒートレーザー》」


 やるべきことは決まっている。まとめて薙ぎ払えばいいのだ。

 手のひらから発射された白い熱線はコロシアムの地面を溶かし、火炎魔法を消滅させ、そしてお嬢様方をも消し去る。


 これが生死をかけた本物の決闘だったら彼女らは間違いなく苦痛を感じる間もなく即死してしまっていただろう。

 だが。


「ヒィ!?」


 文字通り死んでしまうほどのショックを受けたリリウムとその取り巻きは完全に怯え切っている。


「続き、しますか?」


 その言葉に威勢のいい返事が返ってくることはなかった。




「はい、どうぞ」


「ありがとうございます……」


 決闘を終えてラウラに取り返したバッジを渡す。


「察しってはついているんですよね?」


「それなりには」


 彼女は改めてバッジをドレスに付け直す。しかしその顔は沈んだままだ。


「私は傍流、そして見ての通り獣人です。第一皇子殿下が推し進める《差別なき世界政策》の一環で世襲が認められましたが」


「後ろ盾なくいきなり戦場に放り込まれるのと同じだからねぇ。なのに政策によってリタイアすることも許されず国から貴族として必要最低限の補助金だけが送り込まれる」


「はい……、だから一人でも戦っていけるようにと魔法学園に入ったのです。だけど彼女、異母姉のリリウムにはそれが許せなかったようです」


 絶対に破綻せず、かつ同じ家名を持っている獣人の異母妹が同じ学園にいる。


 普通の貴族であったら「乗っ取られる可能性」を強く恐れるだろう。だからあのお嬢様はラウラを追い出すために入学式当日から嫌がらせを始めたというわけだ。


 ふむ。


「ところで挨拶をしてなかったね。自分の名前はアルマ、キミと同じで今日入学したんだ。こんな事に巻き込んでおいて何だけど、できれば良き友人として付き合いたい」


「私なんかでよろしいのですか?」


「キミだからこそだよ。同い年なんだから敬語も不要!」


 ラウラは僅かではあるが逡巡を見せた後、少し顔を赤らめながら言う。


「じゃ、じゃあよろしく。アルマ」


「こちらこそよろしく。それでラウラ、キミの悩みを解決できるかもしれない名案があるんだけど聞きたい?」


 その言葉にラウラは耳と尻尾をぴんと立てて反応する。


「そんなものがあるんですか!? だったらぜひ聞かせて!」


「よしわかった。それじゃあ行こうか」

 

 ラウラの白い手を取り駆け出す。


「え、どこに?」


「自分が今最も信頼している友人の所にだよ」

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