第14話 貴婦人の決闘

「何ですの、突然割って入ってきて」

「いやー、大事な大事な共同研究者を心配したまでのことで。ソレ、返してもらえますか?」


 そう言って豪華な装飾品に彩られたドレスを着ている令嬢に学生証を返すよう促す。


「何故ですか? この学園にこんな汚らわしい獣がのさばってること自体が間違っているのです」

「そもそもこんなボロ雑巾をご友人だなんて……、貴女が何処の誰かは知りませんけど伯爵令嬢であるリリウム様にそんな口答えが許されるとお思いで?」


 取り巻き連中が一斉に抗議の声を上げる。彼女らも一応は貴族だというのに……。

 だからといって退くつもりは毛頭ないが。


「リリウム……、ごめんなさい。全く聞き覚えがないんですけど有名人なのですか?」


 家名を言ってもらわないとリリウムだけでは何処の誰か分からないではないか。

 まぁ、それでも聞き覚えはないんだけども。


「品の無い物言いですこと。貴女、この私に歯向かっていることをご理解していますか?」

「あらら、歯向かうだなんてそんなことは。貴族の責務としてスラムの暴徒から大切な友人を助けようとしただけですよ」


 その言葉を聞いて彼女らはこめかみに青筋を立ててしまうほどに苛立った表情となる。



「もし不服があるのなら貴族らしく決闘はいかが? この学園のコロシアムはそのためにあるのですから」

「いいですわ。貴女はこのことを一生後悔することになるでしょうけどね」


 お嬢様たちは見るからに怒りに震えながらコロシアムへと歩いていく。

 ハイヒールで石畳を叩く音がよく聞こえてくること。さてと。


「大丈夫? 怪我は、してないみたいだね」

「は、はい! えっと、助けていただきありがとうございました!」


 猫耳の獣人は慌てながら頭を下げる。と、何かに気付いた様で顔をこわばらせる。


「ラプーレス男爵家のラウラ・フォン・ラプーレスです! この度はお見苦しい所をお見せしてしまい……!」

「いやいやそこまで慌てなくても。ちょっと落ち着きなさいな」


 どうしてなのかは分からないがこれは動揺し過ぎだ。


「私は見ての通り獣人ですし、それにラプーレス家自体が新設されたばかりの低い貴族家です。だというのに目上の方にこのような無礼を働いてしまうとは!」


 世襲男爵である以上この国ではそれなりの地位があるはずなのだが、彼女にとっては違うようだな。

 そもそも獣人種の貴族というのも私がアストラだった頃では考えられないものだ。

 が、今そのことについて深く掘り下げる必要はないな。


「謝るとしたらこちらの方だよ。買い言葉に売り言葉で決闘に巻き込んじゃって」

「……私は大丈夫です。それよりも貴女様は大丈夫なのですか!? 彼女は」


 余計に彼女自身が不安がるような言葉を自分で言ってしまわないよう唇に人差し指を押し付ける。


「それこそ大丈夫。負けはしない、キミは何も気兼ねなく自由にしていればいいよ。

 ただ一つ聞いておきたいことがある」

「は、はい!」

「彼女を叩きのめしてもいいかい?」


 これをまず確認する必要があった。とりあえず割って入ったはいいものの、アレがただのじゃれ合いという可能性もあるにはある。

 

「はい。よろしくお願いします」


 真剣な眼差しと懇願するような声で彼女は言う。

 なら気にするものは現状ない。


「任された」

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