第13話 魔法学園、そして令嬢
フィーナと出会ってから2週間が過ぎ、私たちはフリードリヒ所有の専用馬車に乗っていた。
「振動はないし車内も適温で物も揃ってるから快適ではあるけど……」
「窮屈感はどうしても拭えませんからね。とはいえもう少しの辛抱ですよ」
窓の外に広がる街道には露天が立ち並び、大衆はそこで串焼き肉やエールなどを立ち食いしている。壁を隔てた先に広々とした空間や旨そうな食べ物があるのにな。
これじゃあ柵の中から餌を見ている動物だ。
「お嬢様方、こちらをどうぞ」
モヤモヤした気分で外を眺めていると亜麻色の髪のメイドが入学許可書を差し出す。
ゴーレム改め、アルマ・フォン・フリードリヒの専属メイド《マル》。
彼女は
「午前中は入学式で午後からは歓迎パーティーに夜会、か……。貴族ってのは大変なんだな」
「男爵家の方々なら時間的余裕は沢山あるのですが、公爵家ともなるとお近づきになりたい方が多くて。もちろん約束は守りますよ!」
「ならいいけど」
そう言ってふかふかの椅子に腰かける。季節は初秋、まだ気温は高く路上を歩く人々の服装は半そでだ。
だからといって大事な式典とパーティーに出席する貴族の令嬢が涼しく動きやすい服を着ることは、よっぽどの異常気象でもない限り許されない。
アクセサリーサイズに小型化した《エア・ウェーブ》を発生させる魔術結晶が買える家なら、見た目が暑苦しいことを除いて苦は少ないだろうけど他の家は。
「本当に貴族って大変なんだな」
♢
魔法学園とは、端的に言えば出世のための出会いクラブである。
創設目的は王国の発展に寄与する優れた人材の育成というものらしいが、そんな崇高な目的を掲げてここに入学する者は殆どいない。
ここには爵位に関わらず多くの貴族子女が集まる。
そのため下級貴族にとって魔法学園に入学することは、普段絶対にお目にかかれない上級貴族とお近づきになれる唯一のチャンスだ。
それこそ彼らはまるで貴族とは思えぬ程に媚びへつらい何かしら恩恵を手に入れようとする。
対して伯爵以上の上級貴族の子女は蹴落とし合いなど熾烈な政争を繰り広げているのだから、この学園に争いとは無縁でいられる場所は果たして存在するのかと疑問を抱いてしまう。
「(多分ないんだろうなぁ……)」
そんなことを考えながら私は学園のやたらだだっ広い廊下を歩く。
入学式自体は非常に簡素なもので、学園長らしい伯爵様が祝辞を述べ学生証としてバッジが渡されただけだった。
かつては半日かけて厳粛に執り行われていたそうだが、「そんなことよりもライバルを蹴落としたい(意訳)」という貴族からの抗議が相次ぎ今はレセプション等々の交流に重きが置かれているのだとか。
本当に色々とめんどくさそうな所に入ってしまったなと遅すぎる後悔を感じている。
しかもフィーナは古くから付き合いがあるという他家への挨拶ということで出かけてしまったし、マルに至っては学園のルールで他のお付き人と同様に主の部屋で待機ということになり私は一人ぼっちという状況だ。
「どうしようかなー」
最初の交流会までまだ2時間ある。手元に研究道具はなく部屋に戻れるのは夜がふけてからだ。
こうして当てもなく学園を散策し続けるわけにもいかない。けど他に暇を潰せる手段もないし……。
あー、延々と同じことを考えている。いっそ誰かに話しかけてみるか?
そう思っていた矢先のことだ。
「汚らわしいネズミがいますね」
突然ぶつけられた罵声に苛立ちながら振り返るとそこには見るからに性格が悪そうな令嬢とそれに付き従う女どもの姿が。
「お? 魔法でその生意気な言葉を二度と吐けなくしてやろうか?」と思ったが、どうやら彼女たちが見ているのは
「……返してください!」
「何故かしら? 忌々しい血を継いでいる貴女に貴族としての資格があるとでも?」
学生バッジを取られたことを抗議している猫のような獣の耳と尻尾を生やした
だけどあんなんじゃあ取り返すことは出来ないだろうな。
……仕方がない。
「そこのご令嬢方、少しお時間をいただけますか?」
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