第11話 眠れる屋敷の美少女、そして再雇用

「使用人たちにはしばらくこの部屋に近づかないよう言っておきました」

「あんがと、これでゆっくり調べることができるよ」


 私に与えられた部屋のベッドに横たわる亜麻色の髪をした少女の姿をしたゴーレム、その体は所々崩れかけていてコアも歪み澱んでいる。

 各パーツに使われている素材は確かに私が作ったゴーレムと同じもののようだが、外見は全く異なる。


 研究室のゴーレムは全てガラス瓶を壊したりしないよう突起物を徹底的に削り、装甲を柔らかさに反して驚く程頑丈なことで知られる《スチールゴート》の羊毛で造られたその体は白い積み木を繋ぎ合わせたシンプルなものだった。


 なので普通に考えればコレは何処かから逃げ出した暴走個体なんだろうが、こうも一致しているとな……。

 あー、あの時は単純に「適当な魔力集結点で観測開始まで待機」としか命令してなかったからアレが何処に行ったのか分からないのがなぁ。



「とにかくコアを治すのが先だな」


 コアに張り巡らされてる魔術式、こいつがどこまで壊れているかでこのゴーレムの扱いが決まる。

 魔術式の要と言える魔法陣が少し削れているだけなら修復は可能だが、区画ごと消えてしまっていたら手の施しようがない。


 コアを体から切り離し、刻み込まれている魔法陣を展開させる。……と。


「姉ちゃんも今日は色々大変だったから寝てた方が良いぞ?」

「よろしければこのまま見学させてください。ゴーレムの修復なんて滅多に見れるものじゃありませんから」

「それならいいけど……、てか疑問に思わないの? こんなちんちくりんなガキがあんな事が出切るってことに」


「いいえ、世の中は広く多くの未知で溢れています。アルマはずっと森で暮らしていたのですから私たちとは違う何かがあってもおかしくありません」


 フィーナはにっこりと笑いながらソファに腰掛ける。前々から思ってはいたけど彼女はそうとう好奇心が強い子のようだ。


 もしかしたら彼女に……、っとそんな馬鹿なことに気を取られちゃいけない。


 魔法陣自体はぱっと見では特に問題ないように見える。が、これは……。


「経年劣化か」

「魔法も年月が過ぎれば壊れてしまうのですか?」

「詠唱者の魔力を焼き付けて特定の魔法を独立して発動させる術式だからね。時間が経てば剥がれて上手く作用しなくなるんだよ」


 フィーナの質問に答えながらどれだけ剥がれているか調べていく。基礎の術式は無事だけど思考制御と演算処理の方はほとんど剥がれてしまってる。

 だけど完全に削れているわけではないから元の状態に戻すことは可能だ。


 しかし。



「これをどこに置いておくか、それが目下の悩みだな」



 見た目は殆ど人間の少女をしている《ゴーレム》を物置に置いておくことは難しい。さらにゴーレム用の魔法陣は自由にオンオフを切り替えることができない。

 はてさてどうするべきか。


「でしたらメイドとして貴女の下で働かせたらどうですか? せっかく可愛らしい見た目をしているのですし」


 何気なくフィーナが口にしたその言葉はまさに天啓だった。


 確かに化粧をすれば容易に人として騙し通せる。それに危険薬物の使用も行う実験の補佐など繊細な作業を行わせるために作った機体だから家事はできるはずだ。


 起きたら聞きたいことが沢山あるから、これで周りの目を気にすることなく調査することができる。



「それ採用!」


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