第7話 養女、そして新魔術
「おはようございます、お嬢様」
「ああー、おはよーございます」
日が昇り始めて数分後、扉が叩かれ屋敷のメイドが挨拶に来たので適当に答える。
「貴族たる者、人の見本となる暮らしをせよ」という王国初代宰相の言いつけに従い、フリードリヒ公爵家では夜明けと共に起床するというしきたりがある。
無論屋敷で働く従者は主のために色々と準備しなければならず、そのため夜明け前には起きなくてはならないというから大変だ。
「朝食は身支度を大食堂で、とフィーナお嬢様から受け賜わっております。用意が出来ましたら案内致しますので、その時はベルでお呼びください」
自分以外の誰かが近くにいるということ、そして誰かに世話をしてもらうというのは中々に慣れないな。
生まれてからずっと魔法だけが家族だった自分には。
「《物体置換》」
徹夜して作った新しい《魔術》、これが失われないよう部屋の中にあった上質な紙に書き記して魔導書へと置換する。
最後に《不可視の魔術》をかけて……。
「はあ、ようやく完成の段階に持っていけたな」
昨日一日は養子入りに必要な手続きと屋敷の面々への挨拶を行い、食事は自室で軽い物だけを取るという中々にハードなスケジュールだった。
加えて今日からは必要な作法を学ばなくてはならないというから暫く休めそうにはない。
というわけでいつでも楽が出来るよう魔術を作ったけど、今さらながら素直に寝ていた方が良かったかもしれないと今さら後悔を感じてきた。
「とりあえず何か腹に入れないとな」
壁にかけられたベルを鳴らすと先ほど挨拶に来たメイドが迎えに来る。
「お待たせしました。これより食堂にご案内いたします」
♢
公爵家といえど朝からフルコース何てことはない。メニューは紅茶と果物にサラダ、そしてコンソメスープとパンという質素なものだ。
とはいえ朝から新鮮な果実が食べられるということからやはり貴族の食事なのだろう。
食堂には私とフィーナだけ、他に従者はおらずこのだだっ広い空間に対して寂しさすら感じさせるほど静かなものだ。
「フィーナ、いつもこんなに静かなのか?」
「今日は貴女に食事のマナーも教える必要があるから給仕達は別室に待機させてるの。いつもはもっと人がいるわ」
「ふーん」
彼女は父親であるチャールズには触れていない。という事は、そういう事なのだろう。
わざわざそれを掘り下げる必要はない。
「じゃあまず紅茶の飲み方からね」
「あー、ちょっと待って」
講座の前に小声で《リーディング》と詠唱する。さて。
「改めて今日はよろしく。フィーナお姉さん」
「はい、任されました」
♢
《リーディング》、それはゴーレム生成や思考分割に
これを発動がされると詠唱者の全身が特殊な被膜に覆われ当人の肉体は休息状態に入る。
その後は被膜が詠唱者の思考を読み取って体の代わりとなって活動し、当人に代わって物事を記録保存するというのがこの魔術の全て。
今回の与えた命令はただ一つ、『フィーナの所作を全て保存せよ』というものだ。
一応変なことにはならないよう注意を払って《目覚めの魔術》はかけてあるが、まあ大変なことにはならないだろう。
さて、日向ぼっこでもするか。
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