第6話 大貴族、そして養女

 フリードリヒ家の屋敷は圧巻としか言い表せない程豪華で煌びやかなものだった。

 正門から入ってまず目に飛び込んだのは下手な豪邸一つ分のスペースに敷き詰められたバラだ。

 赤、紫、黄色と様々な色で彩られた庭園は思わず息を呑むほど美しい。

 ――新しいポーションの材料に使いたいな何てオモッテナイヨ?


 さらに正門に着いてからも馬車で十数分移動してやっと屋敷が見えてくるということからもその敷地の広さは驚愕の一言だ。


 そして。


「キミが娘を助けてくれた方だね。改めて礼を言わせてくれ。本当にありがとう」


 横にも盾にもデカい(自分が幼女だから尚更大きく感じる)眼前の見るからに貴族といった出で立ちをした大男、《フリードリヒ家現当主》チャールズ・フォン・フリードリヒ公爵が頭を下げる。

 

「公爵様がこんな田舎娘に頭を下げる必要はありませんよ。自分は礼儀だとかは微塵知りませんから期待しないでください」


 私はこういった貴族というのが大嫌いだ。許可証を貰うため頭を下げなくては、というのはわかるが自分の気持ちを曲げてまでそんなことをするつもりはない。


 何よりこのチャールズという男の目はまるで……。


「まあ信用ならないと思うだろうね。けれどこれから一緒に暮らしていけば僕たちのことを理解してもらえると思う」

「……一緒に暮らす?」


 予想もしていなかった言葉に思わず間抜けな声を出してしまう。どうして私が公爵らと暮らすことになっているんだ?


「娘から話は聞いているよ。街で探したいものがあるらしいね」

「ええ」

「もう知っているだろうけど王国の治安は過去最悪だ。昼間であっても幼い娘が出歩くことは出来ないくらいにね。

 何より身内のいない孤児に許可証を発行してはいけない、と王政府から伝達されているんだ」


 何となく察しはついたが、まさか本当に。


「だからキミを僕の娘として迎え入れたい」


 私が公爵家の養女になるというのか?




「私も驚きましたよ。まさかアルマが妹になるなんて!」


 とは言いつつフィーナの顔にあるのは「驚き」ではなく「喜び」からくる無邪気な笑みだ。

 あの後チャールズから詳しく話を聞き、アルマ自分は《公爵家の養女》なることを決めた。身元不明の孤児は危険視され図書館に入ることすら許されない状況にある、となれば使えるものは何でも使った方が良い。


「(不良だったら幾らでも対処できるけど下手に目立つのは、な)……ん!?」

「こんなに可愛いのに難しい顔ばかりしているのは勿体ないですよー」

ふぁ、ふぁうお、おう


 頬を引っ張られ仏頂面から無理矢理笑顔になる。フィーナはニコニコしながら私の化粧を再開する。

 

 アルマ・フォン・フリードリヒ、事故で両親を亡くしたフリードリヒ家の遠縁で親交のあったチャールズ公に引き取られたフィーナとはほぼ同い年の義妹。

 そんな背景で騙し通すために、これから1週間フィーナが教師となって貴族としての最低限の作法と教養を叩きこまれるという。

 

 目下これが一番自分を憂鬱にさせていることなのだが、まあ明日までに何かしら新しい魔法を開発してそれで乗り切ることにしよう。


「♪」


 髪を整えているフィーナを見て自然と笑みがこぼれる。

 彼女を見ていると不思議と何とかなるだろうと思えてしまう。


「楽しみ、なのかな」

「何か言いましたか?」

「何でもないよー」

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