第3話 邂逅、そして前哨

「街まで歩くのはキツそうだな……」


 所々に泥濘ができていて見るからに歩きにくそうな森。インドア派な自分にここを歩いて抜けろというのは中々に難易度の高い要求だ。

 というわけで。


「《サモン・シャドウチャリオット》」


 影から漆黒の馬とそれに引かれた戦闘用馬車が現れる。

 影使いの魔法で作成したチャリオット、これは日光さえあれば何処でも召喚できることから追放される前はよく使っていた。


 ……何だか思ってたより小さいな。こんな大きさだったか?

 かつての自分はそこそこの大男だったのだが、それでもこの戦車には余りあるスペースがあった。だけど召喚したこの影の戦車は少女2人分のスペースしかない。


 召喚魔法というのは術者の認識に作用されるという話を聞いたことがある。

 恐らく肉体の変化によってここまで大きな差異が発生したのだろう。

 あの老害共によって屋敷ごと燃やされてしまった観測記録が残っていれば色々と研究できたのに!


 街で素材を揃えて装置を作って、それで研究していくしかないか……。

 ああ、本当に腹が立つなあ。


「ここで苛立ってもしょうがないか」


 影の御者を出現させて人里へ向かうよう指示する。あとはこの荷台で待つだけ。

 色々とありすぎて今日は疲れた。

 しばらく寝てよう。

 心地いい風と戦車の揺れで生じた眠気で私は夢の世界へと旅立つ……。



『キィーッ!!』


 その矢先、サルと人間の声が混ざり合った鳴き声がウトウトしかけていた私を叩き起こす。

 寝惚けまなこをこすりながら声が聞こえてきた方向を見るが、太陽を隠すほど枝を広げている木々のせいで森は暗く何も見つけられない。

 と、シャドウチャリオットが木の影に飲まれ出してるな。とりあえず上の邪魔な枝を取っ払うか。


 周りに引火しないよう威力を弱めて……。


「《フレア》」


 未だに慣れない自分の高い声に呼応して火球が頭上を覆っている枝に向かって飛んでいく。

 炎弾を受けて開かれた空間に太陽の光が差し込む。これでしばらくは保つだろう。


『『『—―――――ッ!!!』』』


 突如として声にもならない声が辺りに響く。次いで木陰から毒が練り込まれた泥弾が一斉に影の戦車シャドウ・チャリオットに向かって投げ込まれる。


「《エア》」


 戦車を取り囲む様に発生した竜巻が泥を発射元へと押し返す。まさか、あの老害共にこの程度の罠でこの大賢者アストラを仕留めらると思うほどに侮られていたとはな。


 根元に近づくとそこには毒を受けて即死した無数のゴブリンの死体が見える。

 肉体改造の跡あり。マナの質からしてアカデミーで造られていた改造魔獣の交雑品か。

 保険の意味でこの森全体に最初から脱走した囚人を処刑するための術式が組み込まれているのは分かってはいたが、それでもこの程度か。

 私があいつらの側だったら家の外に出た瞬間に光線で串刺しにする術式をかけているぞ。


「多分これだけじゃないんだろうな……」


 とはいえ繁殖能力の高いゴブリンだ。それなりの改造個体がこの森に潜んでいるのだろう。

 その都度相手していったら精神的に疲労していくだけだし、ここは一か所に集めて纏めて吹き飛ばすに限る。


 馬を走らせ人里へと向かいながら、手のひらに雷を出現させてそれを森の中へ放つ。

 魔獣を惹きつけるマナを恒常的に発している電気玉を発射する《プラズマトレイン》、これで罠をまとめて一網打尽にする。

 改造されてはあるが、その痕跡を見るに知能の強化は見られない。ならこれで捕まえることは出来るはず。


 プラズマが影の中に消えて数分が経ち、再び鳴き声があちこちから木霊し森の中から静寂さが消え始める。どうやら釣れたようだな。


 後は集まってきた所で一撃をぶつけるだけ。その矢先のことだった。


「人?」


 視界の隅を赤い服を着た少女が通り過ぎたのは。

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