五話プライドなんてある訳ないよ
とても理不尽な目に遭った次の日
僕はノエルと一緒にギルドに行き報酬を貰ってまた観光を楽しむ事にした
「良いですかエストさん。冒険者にとって一番大事な物は何だと思います?」
プロテアでも美味しいと評判の店に入りご飯を食べながらノエルが変なことを聞いてくる
「うーん...ギルドの信条みたいやつにに書いてあった探究心だっけ?」
「私も最初はそう思ってたんですが違います。"力"なんですよね結局。どんな力でも良いので力を持っていれば依頼をクリア出来るって私は冒険者をやってまだ二年ですが、それでも多くの強い冒険者の先達を見てきたから分かるんです。シルバーより上の冒険者は皆化け物しか辿り着けないって」
何故かノエルが漫画とかで偶に居る闇堕ちしそうな奴みたいな事言ってるがそもそも冒険者は地域によって実力や数に千差万別で散らばりがある
冒険者ランクという指標だけで見ればノエルは中堅だし個人的には強いと思う
犬にやられてたのはどうかと思ったけど
それを言ったら僕は森に迷って死にかけた冒険者だからそれ以下になる
「つい最近伸び悩んでいてですね...それでエストさんを見込んで頼みがあるんです!私を鍛えてくれませんか?」
「....確かに僕はノエルより強いけどね。だからと言って鍛えられるわけではないんだ。肉体の技術とかは何も知らないよ?」
というか元の身体能力だったらノエルの方がずっと強かったりする
それでも僕がノエルより強いのはスキルと魔力のお陰だ
魔力は条件次第ではなんでも出来る
僕は無属性魔法を好んで使っているけれど他の属性魔法の方が威力があったり派手だったりもする
魔法は魔法使いだけしか使えないなんて事はない
そんな事考えている奴は馬鹿だけだと僕の魔法の師であった孤児院の女の子に言われた
僕はその時まで魔法は魔法使いなど一部のやつ使えないと思っていたのでお陰で僕はその子から馬鹿扱いされてしまった
魔力を使い正しいプロセスを踏む事によって
大抵は行使できるのだ
今は知識と魔力が備わっていた僕は基本的な属性魔法なら使える
話が脱線し過ぎたけれど要は技術面でノエルに僕が教えられる事は無い
なぜなら僕は強化した身体能力によるゴリ押しだけで戦っているのだから
そしてそれは他の人がやろうとすると大抵体を壊してしまうので真似も出来ない
孤児院の頃の友人は僕の戦闘スタイルを聞いて真似て体を壊していた
勿論危険だと注意していたのだが...分かったと言いながら僕の目の前で真似をして血反吐を吐いた時は思考停止してしまった
今でも彼女の考える事は分からない
しかしノエルはそれを分かっていたのか
「あ、体術に関しては大丈夫です。私がエストさんに教わりたいのは魔法なんです!」
「....まぁ挑戦する事は良いと思うよ」
こうして僕に弟子が出来た
$$$
「まずはノエルの才能を確認させてもらおうかな。とりあえず魔力で身体強化してみて」
「はいっ、分かりました!」
ご飯を食べ終わり宿に戻って来た僕がやったのはノエルの魔力の練度確認だった
元よりノエルはシルバーの冒険者としてソロで頑張っていた事もあり身体強化も手慣れた物だったので予想通りだったが
「うん、全く問題ないや。魔法は何か使えるの?」
「えっと...無属性の一般的な魔法と水属性と火属性の初歩です・・」
「それだけ使えれば斥候としては十分だと思うけど。何を使えるようになりたいの?」
「攻撃手段として使えるレベルの水と火の属性魔法を...」
「魔法使いの領域じゃん」
転職するつもりかな?
「斥候が魔法使いって格好良くないですか?私、"雷公"みたいに魔法を使える斥候に憧れるんですよね」
話に聞くとノエルの憧れている冒険者はプラチナランクで雷属性の魔法を使う斥候らしい
雷は上位の属性魔法なので凄い使い手なのだろうが僕からしたら斥候には必要のない物だからなんで斥候してるんだよと言いたくなる
火と水の魔法は野宿する事もある冒険者にとって初歩さえ使えれば問題がない
それ以上覚えるのは魔法使いとかだけだ
正直なところ他の属性魔法を覚えた方が火力や応用が効きやすくて便利なのだが今回はノエルの意思を尊重してそのまま教える事にした
と言っても魔法は簡単だ
必要な魔力と魔法のイメージさえ出来てしまえば余程才能が無い限りすぐに使える
人に教える事が久しぶりだったが特に問題なく教えられるそうだ
相手がノエルだし特に緊張することもない
「取り敢えず魔法には最低限の理解が必要だから暫くは座学だね。もう今日は疲れたし僕は寝るよ」
明日はまた依頼を受けにギルドに顔を出そうかなと考えながらふかふかのベッドで寝た
次の日、朝早くからノエルと一緒にギルドに向かい手頃な依頼を探す
「...ふと今思ったんだけどさ、ルーキーからブロンズって何回依頼受けたら上がるの?」
「基本的には依頼をこなしてギルドポイントを150程貯めれば簡易的な試験受けられてそれに合格すればブロンズ...って感じですね。ポイントは依頼の難易度によって増減しますよ」
ちなみにイニムからプロテアまでの護衛依頼でギルドポイント40ほど貰えるらしい
ノエルと一緒にやれば直ぐにブロンズに行けるというのは本当だったのか
てっきり僕に見栄を張ってるかと思ってた
「それにしても良い依頼がないね。どれも護衛依頼で要求ランクが高かったり日数が多かったりして受けられないや」
「プロテアはイニムと違って冒険者の仕事が護衛以外少ないですからね。主に拠点の移動する時に資金稼ぎとして受ける事が多いのでまだルーキーのエストさんに適している依頼は中々ないですよ」
護衛依頼は基本的にシルバーからしか受けられないし拘束期間が長い
前のジェイクがおかしかったから忘れていた
最後まで怪しかったが報酬もきちんと支払われていたし何も問題が無かったので彼は客観的に見たら良き依頼者だったのだろう
「別に金に困ってるのは僕だけだし今日もどこか観光しようかな?」
「エストさんまた私に奢らせるつもりですか?確かに私はお金に困ってはないですけどそんな当てにするのはやめてほしいです」
「金欠なんだ....恩人でしょ?」
「恩人にそれを言われると複雑な気持ちになりますね」
都市プロテアはイニムより広く色々な店があるから観光してて飽きる事がない
観光して2日ほど経つがノエルに殆ど奢ってもらい遊ぶというヒモのような生活をしていた
だが僕だって奢って貰いたくて奢ってもらってるわけでは断じてない
「ここの料理とか基本的に値段が高い店しか無いからね。ルーキーの僕じゃ直ぐになくなっちゃうよ」
宿の料金で察すれば良かったのだが
プロテアは物価が基本的に高い1日の食費で銀貨が4枚程無くなる
今の僕の所持金は約銀貨3枚程度だ
1日も持たない額しかないとか笑えない
「ここら辺の店は確かに高いですけど...
そう言えばスラム街近くの出店なら安い料理とか食べれますよ」
「スラム街か....」
先日護衛依頼で行ったスラム街は想像よりもそこまで貧しさを感じられなかった
あそこなら確かに此処より値段も安くなりそうだけど
問題はジェイクの時に会ったスラム街を根城にしている奴等に襲われるかもしれない
おそらく大丈夫だと思うが....飯を食べるだけで襲われるかもしれないのは割に合わない
依頼以外でもジェイクに足を引っ張られ過ぎている気がして腹が立ってきたな
「やっぱり都市部での店で食べよっか」
「少しは払って下さいよ?エストさんもこのまま私のヒモになりたくないでしょ?」
僕はノエルみたいな可愛い子のヒモになれるのなら喜んでなるんだけど
「あと二日だけだからさ。頼むよ?ノエル」
割と僕には甘いところがあるノエルにお願いをする
「い、嫌です!自分で言うのもなんですが命の恩人って事もあって少し甘やかし過ぎていた気がします。もう少ししっかりしてください!」
「そ、そんな..ノエルは僕に飯抜きで過ごせと言うのか?」
まだ育ち盛りなんだから食べなかったら死んでしまう
「一言も言ってませんよ!?私が半分以上は出してあげるのでもう少しは自分で出してくれれば大丈夫です」
どうやら半分以上も出してくれるらしい
ほぼノエルの奢りと変わらないじゃないか
それならもう全部出せよ
「....ノエルって優しいよね。しかも可愛いし」
「!?きゅ、急になんですか?そ、そんな簡単なお世辞にこの私が乗るとでも思ってるんですか??全くエストさんは...」
思ってるよ....だってちょろそうだし
今だって少し褒められて照れてるじゃん
「....僕、ノエルの事が好きかも知れないな」
「!?な、何を言って」
少し顔を近づけてそっと耳打ちする
「知ってる?とある本に書いてあったんだけどね。人って助けられた人よりも....助けた人の方が相手を好きになりやすいらしいんだってさ」
僕は正直、その人の顔の好みによるとしか思えないから信じていないが
「ほ、本当に私の事す、好きなんですか!?」
耳先まで真っ赤になりながら僕に真偽の確認を問うノエル
ノエルが僕の事を意識しているのはここ最近生活しててよく分かってた
そもそも好きでもない人にこんなに優しくする程ノエルはお人好しじゃなかった訳で
僕もまたノエルが可愛いからこれまで一緒に過ごしているのでノエルの事はある程度好きである
だけど、敢えて焦らす
「うん、でもちょっと...まだ躊躇ってるんだよね」
「?ど、どうして躊躇ってるですか!?知ってると思いますけど私、結構エストさんの事好きですよ?今告白されたら絶対付き合えますよ?振られる心配なら無用なんですよ!?あ、あと私冒険者の中でも結構可愛いんですよ!?エストさんて絶対可愛い子好きでしょ!?」
ちょっとキレながらも強かに自分を売り込んでくるノエル
「うーん...あと二日間の間奢ってくれたら。ノエルが大好きになってるかも」
ノエルの顔の赤みが一瞬で引く
どうしようもないクズを見る目だった
「..どれだけお金を出したくないんですか。少しぐらいエストさんの甲斐性ってやつを見せて欲しかったです....」
ごめんノエル
でも出したとしても半分以上ノエルに払って貰うならそれ甲斐性が無いのとほぼ変わらないんだよ
「僕、金欠なんだよね」
「....ルーキーのエストさんには金銭面でまだハードルが高過ぎましたね」
分かってたのならなんでこの場所を選んだんだ!
悪意すら感じるぞこれ
「・・・・僕、金欠なんだよね」
「はぁ...エストさんってクズだったんですか?こんな可愛い女の子に払わせて」
「実は僕、前まで妹達に養われてたんだよね。だからプライドとかは無いようなもんなんだよね」
そもそもノエルが連れて来たのに...全く酷い横暴だ
せめてもう少し時間があればある程度は稼げた筈だが....運が悪いのかな?
結局僕達は都市のレストランでご飯を食べた
勿論ノエルに奢らせて
€€€
ガラクタばかりが置かれた部屋で一人、ジェイクは椅子に座り誰かと話していた
「今回の定期報告は実に良い事が起きました。きっと私も気に入りましたし、貴女もきっと気に入ってくれる事でしょう....えぇ恐らくですか久しぶりの転生者ですよ。それも無能ではない」
ジェイク以外に人はおらずジェイクはカードのような魔道具を使って会話をしていた
「....相変わらず冗談がお好きですね。そんなに退屈だからと言って貴女が簡単に王都を離れてはまた殿下に小言を言われますよ?
おや...すみませんがまた後で連絡する事になります。どうやらお客様が来たようなのでね」
そう言いながらジェイクは魔道具を仕舞い、店の扉の方に歩いて行った
「...しかし、本当になんで転生者達はこの見た目に対しては偏見が強いんですかねぇ?」
そう言い残して部屋から出て行った
供給が少ないから書いた話 記述者 @himanayatu
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