四話紛らわしい依頼人と可哀想な僕


「おはよう。流石は一泊銀貨5枚だね。凄い寝心地が良かったよ」


「....そうですか。私は床で寝たんですが......いえ...私が悪かったんですよね!」


「ノエルは面白い事を言うなぁ」


不満は分かるけど僕悪くないからね?

お腹空いたし取り敢えず朝食を食べに行くか



「エストさん、エストさん。今日は何をしますか?」


「時間もたっぷりあるし何か依頼を受けようかな」


人間、怒りの感情なんてそう長続きするものじゃない

ノエルは朝食のパンとシチューを食べている間に怒りが治っていつもノエルに戻っていた

相変わらずチョロいな

それにしても宿の料金が馬鹿みたいに高かったので少しでも稼がなければいつ困るか分かったものじゃない依頼を受けなくては


「基本的にプロテアに出される依頼は討伐じゃなくて対人の依頼なんだよね?」


「冒険者は言ってしまえば何でも屋みたいな者ですから。あ、でも暗殺とかの依頼ありませんよ?犯罪者とかなら討伐対象として出てる事がよくありますけど...」


「よし、暇だしこの依頼にしようかな」


とある店に行くまでの護衛依頼、報酬は銀貨5枚でルーキーから募集していた

ノエルに教えられた依頼の見分け方で一人当たりの報酬と書かれていないと受けた人数で山分けする羽目になるらしい

まだこの護衛依頼は誰も受けていない

ノエルと二人で受けても2.5枚の銀貨だ

ルーキーの一日の報酬としては破格だ


「えぇ?...これ怪しいですよ。護衛依頼なら普通は早くても前日に依頼を出して次の日に護衛して貰うものなんですよ?これ今日出たばかりなのに...護衛日が今日の昼前からじゃないですか。絶対何かありますって!」


余裕のない依頼主程良く厄介な依頼を持ってくるのがノエルの経験則らしい


「まぁ落ち着きなよ。ノエル、君は...シルバーの冒険者だろう?この依頼の受注できるランクはルーキーからだ。ルーキーが受ける依頼をシルバーのノエルが失敗する筈がないだろ?」


「余計怪しいじゃないですかこれ。ブロンズかシルバーの冒険者を求めるのが護衛依頼ですよ。ルーキーなんて護衛になるかも分からないのに...」


ノエルは完全にこの依頼を黒だと決めつけている

マジか、この依頼ハズレかぁ...


「ま、もう受けてるからここで言い合ってもあんま意味ないんだけどね」


「...エストさんって割と自己中ですよね」


ジト目で僕を見てくるノエル

すまないノエル

ルーキーの僕には破格の依頼なんだ

見つけた時には既に受付の人に話してた


「ノエルは登録してないから来なくても平気だよ」


「え、何で!?私一応今パーティー組んでるから仲間な筈ですよね!?」


「ルーキーだから登録出来なかったんだよ」


どうやら下のランクの冒険者は基本的に上の冒険者に対してあらゆる面で劣っているようだ

まさかパーティーの登録まで拒否されるとは思わなかった


「ああ、そうでした。じゃあ登録してきますね!少し待ってて下さい」


急いで受付に駆け寄って行ったノエル

僕はノエルが登録している間に依頼をもう少し読む事にした


依頼主の名前はジェイク

スラム街のとある店に急ぎの用があるらしく

その為の護衛を募集していると書いてあった

見掛け倒しでも良いので冒険者と分かる装備をしてくれれば特に何も起こる事は無いと書かれていた

これだけ見ると単純に冒険者の人手が欲しくてルーキーからでも依頼を受けられるようにしたとしか見えないけど...

まぁ何が来たとしても街の中だし、平気だろ

フェンリルの森と違って迷っても燃やし尽くす必要もないのだから

楽な依頼になりそうだ




$$$


「君たちが依頼を受けてくれた冒険者かい?私が依頼主のジェイクだ。急な護衛依頼にも関わらず受けてくれて助かるよ」


依頼主のジェイクは眼鏡をかけた優しそうな糸目の若い男性だった

前世の経験もあって何故か胡散臭く感じる

しかも敬語だった

いや、敬語を使うのは人として好感を持てるのだがどうせなら荒々しい口調とかクセが強い方が良かったと思うのは些か強欲が過ぎるのだろうか



「ご丁寧にどうも。エストとノエルです。僕はルーキーなのであまりお役に立てないかもしれませんが仲間はシルバーランクなので....何かあっても守る事は約束しますよ」


「おお!それは頼もしい限りです。では早速行きましょうか」


そう言ってジェイクの護衛依頼が始まった





「珍しいですね。この依頼もしかしたら当たりかもしれないですよ」


ジェイクに聞こえないくらいの声量でノエルが耳打ちしてきた

どうやらノエル的にはジェイクは怪しくないらしい


「.....僕、男で眼鏡かけて糸目の人を疑ってしまう病気に罹ってるんだよね」


あとCV.石◯彰みたいな声の人

全てにジェイクは当てはまっている


「??...そんなピンポイントでおかしな病気なんてあります??と言うかジェイクさんに聞こえてるし失礼ですよ!」


「君の考えで言ったら聞こえてなければ失礼に当たらない事になっちゃうけど」


というか冗談に決まってるだろ

あまりに前世の経験で引き摺ってるから何とか打ち消そうとして言っただけだ


「ははっ。良いんですよノエルさん。実際にあるとても希少な奇病なので....。尤も私も伝え聞いていただけで会ったのはエストさんが初めてですが」


「え!?そ、そうなんですか?私てっきりエストさんの嘘だと思ってるのですが...」


「いいえ!私も最初は嘘だと思っていたのですがね?王都の図書館や本などにも載っていたので本当なんですよ。何でも希少な上に特に何か深刻な害がある訳でもないので....稀にそういう人間がいる程度の認識らしいです」


「へぇ〜そうだったんですか...あ、エストさんすみません!てっきり急な思い付きの冗談かと思ってました」


「.....まぁ珍しい病気だからね。仕方ないよ。大体知ってる人なんて当事者ぐらいじゃないかな?」


嘘だ

僕は今とても困惑している

そんなピンポイントで人を信じられない病気なんて罹ってるわけないし、そもそも存在しているなんて事すら知らなかった

何だよ男で眼鏡かけて細目の人を疑ってしまう病気とか

そもそも、ただの特定の人間不信が病気にまで昇華してるんだよおかしいだろ

ノエルもノエルだ

なんでそんなすぐ受け入れられるんだ?

これは.....アレか?一体いつ口裏を合わせたか分からないがこいつら僕を騙そうとしているのか?


「本当に珍しい病気ですね...そんな病気あるなんて知りませんでした」


「他にも似たような病気がありますよ。私が知っているのだと...」


そんな僕の気も知らずに仲良く話し合う二人

ノエルは単に騙されているだけ...か

となるとジェイクが嘘をついているだけになる

よかった...やっぱり前世だろうがどんな経験も僕を裏切らない

やはり男で眼鏡をかけて糸目の敬語を使う奴は信用ならない

いつでも消せるように警戒しておこう

スキルをパッシブにしておこう



「エストさんにノエルさん、ここから先はスラム街といわれる犯罪者の温床です。大丈夫だとは思いますが一応、警戒を」


僕からしたらお前の方を警戒してるけどな


「分かりました」


僕は何も返事を返さなかったが態度で周りを警戒しているのが分かったのだろう

会話もなくなり慎重ながらもスラム街を進んでいった

変化が起きたのは暫く経ってからだった


「.....ノエル」


「何時からか分かりませんでしたが...付けられてますね。しかも複数人に」


どうやら勘違いでは無いらしい

ノエルも引っかかっているなら敵だろう


「ジェイクさん。誰か分かりませんが複数に尾行されています。目的の店まであとどれくらいの掛かりますか?」


「そうですね....このままのペースで行けば5分程かかると思います」


やっぱりというか狙われる事は想定済みなのか動揺を見せずに落ち着いて答えるジェイク

にしても5分か...

今の所追ってきている奴等は特に此方に何か仕掛けているわけではない

このままやり過ごせる可能性もあるにはあるしとりあえず待機で大丈夫かな

と楽観視していた刹那、僕の眉間目掛けて鋭く弾丸が飛んできた

他の事に意識を割いていたせいでモロに喰らってしまった

そういえばこの世界銃もあったな

希望は無いのに


「ッ!?エストさん!?大丈夫ですか!」


隣にいたノエルが驚いた様子で心配してくるが...そんな事よりするべき事がある


「ノエル!襲撃だ!!やり合わなくて良い。ジェイクさん敵襲です。急いで下さい」


「えぇ!勿論です。では少々走りますよ!」


やはりというかジェイクは動揺する事なく素早く走り出した

コイツマジで変わってるな...ノエルは僕が奇襲を受けて驚いていたのに

コイツの命令で敵襲来たんじゃないか?


「え!?あッちょっと!何でそんな二人とも平気なんですか!?」


僕とジェイクが走り出して我に返ったのかノエルも動き出した






「ふぅ..この店に入ったらもうあの連中は絶対に追ってくる事はありません。お二方ここまで護衛ありがとうございました」


何処か分からないが目的地であった骨董店みたいな所に入り何とか凌いだ


「そ、そうですかそれなら安心出来ますね。それとエストさん!

完全に銃弾喰らってましたよね!?本当に平気なんですか!?」


そう言って撃たれた僕の顔をペタペタ触って怪我を確かめるノエル


「無傷だよ。心配しすぎだって」


「.....おかしいです。あんな油断してて完全に直撃してたのに無傷だなんて...」


「ああ、それに関しては私も不思議でした。一体どんな手品を使ったのですか?」


どうやらジェイクにもバッチリ見られていたらしい


「大した事ないよ。ただ、自分の待ってるスキルに対処出来る能力があったからね。ノエルを助けた時に使ったものと同じだよ。ほら僕って運が良いからさ。それよりあの追ってきた人達に何かした?途中から確実にジェイクさんの事殺そうとしてたけど」


スキルは珍しいが持ってる人なんてざらに居る説明はこれだけで相手に伝わる

僕の事よりジェイクの追われている奴らの方が気になる


「成る程...スキルですか。おっと、次は私が答える番ですね。私を狙ってきた連中はスラム街のギャング...のようなものです。実は最近目をつけられてしまいましてね彼等どうやってか知りませんが毎回私がスラム街に入ると熱心に手厚い歓迎をしてくるんですよ」


きっと気に入られてるんですよね言って笑いながら眼鏡を整えるジェイク

ギャングに目を付けられるなんてどんな馬鹿な事をしたのだろうか

というか依頼で濁すなよ

楽な依頼だと思ったじゃないか


「えぇ...嫌われてるの間違えじゃないですか?」


「....ノエルは面白いなあ」


「な、急に何ですか!」


何でもねぇよ早く前進め




店の中は大分広かったがあまりにも物が床に置かれすぎて狭い印象を受けてしまう

殆どが僕から見たらガラクタのような物だった

まぁ無論、他者からしたら価値のあるものばかりかも知れないが


「それでこの店はなんの店なのかな?見た感じ雑に物が置かれてるだけで店の人も居なそうだし」


僕の疑問にジェイクは答えなかった


「そうですね店主が出掛けていますがもうここまで来たので平気でしょう。...そういえばノエルさん眠たくないですか?」


僕はその瞬間ジェイクの背中を身体強化込みで思い切り足で蹴飛ばした


「え?な、何やってるんですかエストさん!?」


いきなりの僕の行動に驚いているノエルに

特に何か変わった様子はないが一応スキルで精査する

異常なしか...


「何って....見てただろう?ジェイクを蹴っ飛ばしたんだよ」


「依頼人を急に蹴っ飛ばす冒険者なんてクビになっちゃいますよ!?しかもあの蹴り魔力で強化してたでしょ!早く手当しないとジェイクさん死んじゃいますよ!!」


どうやら僕の早とちりだったらしい

ノエルは何もされてないしジェイクも蹴りを入れた時防御すらしていなかった


「チッ...面倒くさいなぁ。まさかここまで怪しくて何も無いと思わないでしょ」


「舌打ちしない!早くさっきのスキルで治療してあげて下さい!」



不幸か幸いか僕が飛ばした場所は尖った物や硬いものが少なくジェイクさんも見た所骨折や打撲だけで出血はしていなかった

あまり気乗りしなかったがスキルを使い怪我は治した

いっそ死んでくれてれば僕の懸念が無くなるのだが....

何かの手違いでさっきの追手にコイツ殺されないかな

すぐに回復して目を覚ましたジェイク


「あ、ありがとうございますエストさん。何だか眠くて他の人も同じかなと思いノエルさんに聞いた瞬間急に眠気もなくなるくらいの強い衝撃が...訳も分からず吹っ飛ばされて死ぬかと思いました」


お前が眠かったのかよ

あのタイミングでいきなりあんな事言うとか

やっぱりどうかしてんな

にしてもやはり僕がやった事に気付いていない....これはラッキーだ


「申し訳ないです。まさか店の中まで襲撃してくると思わなくて....ジェイクさんの回復をしている内に仕掛けた刺客は逃してしまいました」


「え?...?...!?」



ノエルが口をぱくぱくさせながら驚いたようにこちらを見てくるが無視する

悪いけど暫く黙ってて貰おう


「そ、そうだったのですか...二人が気付かないとなると相当の手練れだったのでしょう」


「えぇ、僕とノエルで何とか相打ち出来るぐらいの猛者でしたよ...まぁ、最終的には逃げましたし、ジェイクさんが無事だったので良かったです」


ノエルがドン引きした目で僕を見ているが構わず会話を続ける


「そ、そうですね...身体は丈夫な方だったので。色々とありましたがここまでで依頼は完了で大丈夫です。報酬は既にギルドに振り込んで振り込んでおいたので」


「ありがとうございます。僕達は少しはプロテアに滞在する予定なのでまた依頼で会いましょう...さ、ノエル帰るよ」


無事依頼も終わったしあとは帰るだけ

未だにドン引きしてるノエルの手を引いて

店の扉に向かった


扉の前まで行きふと、後ろに気配を感じて振り向いた


「....お見送りしますよ?」


ジェイクが付いて来ていた

さっきの出来事が無ければ僕はジェイクをぶん殴っていただろう

何でいちいちやる事が疑わしいんだよ

無駄に足音消してた事もそうだ

これで裏がないとか詐欺とかそういうレベルじゃない

ヤラセだろこれ


「そうですか、ありがとうございます」


僕は彼について考えるのをやめた

取り越し苦労などこれ以上したくはない

そのまま謎の店を出て宿に戻ったが何も起きなかった

ノエルにひたすら今日した事を怒られたが客観的に見たら僕が悪いので素直に受け入れた

なんて理不尽な

疑わしきは罰するをモットーにしている僕からしたらこんなの理不尽だ

逆恨みかもしれないがこれは全部ジェイクのせいにした

僕の主観じゃジェイクは黒確だ

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