第2話ここは……

どれくらい眠っていただろうか。


昨日酒を飲んだはずなのに、妙に体が軽い。気分もいい。

だが、こんな心地良さも長くは続かない。


さっ、早く支度しなくちゃ。あぁ、今日も働くか~。それも仕方ない。

朝早くから出勤して上司にドヤされつつも淡々と仕事をこなしてフラフラになって帰る。


いつもと変わらない日常だ。


そう、いつもと変わらない場所。いつもと変わらない景色。風に揺れる草原、どこまでも続く青空。遠くには西洋風な街並みが……ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~‼


え、なんで⁉なんでこんなとこにいんの⁉そりゃ目覚めもいいわ‼え、待って待って待っておかしいおかしいおかしい‼てか、昨日どこで寝た⁉絶対こんなとこで寝てないよね、都会にこんなとこねぇもん‼それに、西洋風な街ってなに⁉ここ日本だよ⁉





               (=^・・^=)





……ふぅ、オーケーオーケー。一旦落ち着こう。目を閉じてゆっくり深呼吸。

すぅーはぁー。


よし、だいぶ落ち着いてきた。

これは夢なのか?いやいや、夢ならこんなに視界がはっきりするはずがない。

うん、これは現実だ。次は驚かず、しっかり受け止めよう。


大丈夫だ。たかが景色が変わっただけじゃないか。そんなビックリするようなことじゃない。 さぁ、目を開けるぞ……。


 はい!開けたっ!まずは周りを確認っ!草原っ!近くに水辺っ!空は晴天っ!遠くに西洋っ!その隣には森林がっ!視線を落とすとそこには白い毛がっ……白い毛?


近くの水場へ行きのぞきこんでみる。


薄桃色の耳、青色の目、鋭い牙、細く長いひげ、そして全身を覆う白い毛。

ふーむなるほど。これは、ねこだ。うん。毛並みがいいね。


「……」


毛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~‼


え、え、どゆことどゆこと⁉ねこって何⁉無理だわこんなん‼驚かないなんて無理だわ‼聞いてないよ~サプライズが二段階って~!一回のパンチ強すぎだよ!てか、なんでよりによってねこなの⁉ねこの中身が成人男性ってちょっとぞっとするわ‼





               (=^・・^=)





ふぅ~、よし一旦落ち着こう。もうサプライズはないはずだ。

さぁ考えろ~がんばれ俺、できるぞ蒼也。


まず、状況整理だ。 

今俺は知らない場所に来ている。ここは果たして日本なのか?それさえもわからない。

場所のことに関しては、まだ情報が足りていないな。


次は姿についてだ。

ねこであることはまず間違いないだろう。(だってほら、肉球とかしっぽとかあるし……)種類はわからないが、よく見かける一般的な白ねこだ。思わずニャーと鳴きたくなるような。体型も普通っぽい。


いやー、まいったなぁ。もともとねこは好きで、よく近所のねこを愛でてたけど、その愛でていた対象になるとは思わなかった。


でも、ここでの一番の謎は、なぜ俺がねこの姿になってここにいるのかなんだよなぁ。


じゃあ次は昨日のことだ。

何か今日につながるヒントがあるかもしれない。昨日はいつも通り仕事して、酒を飲んでフラフラになって、それで終電逃して、グチグチいって……。


ん?そーいや昨日ねこについてなんか言ってたような……。


次々と昨夜の記憶がよみがえってくる。


暗い路地、謎の声、そしてその声の主が言った『なんでも願いを叶える』という言葉。


うわ、そうじゃん‼俺、転生させられたんだったー‼ってことはここ異世界⁉


なるほど、だから都会にはありえないような景色が広がってるんだ。

マジかよ、夢よりよっぽどファンタジーじゃないか。 

いや、もうちょい早く思い出してくれよ数分前の俺〜。


えっと、ここまでは、よくわからない声の主が言っていた「ゲート」とやらで来たのか。


そんで、願いを叶えてやるって言われて、俺はねこになってだらだらしたいって言ったんだよな。


うわ~、俺バッカだぁ~。ちゃんと考えて言えば良かった~!

酔ってたとはいえ、もうちょっと真剣に聞けば最強の剣が欲しいとか、全ステータスカンストさせてくれとか頼めたと思うんだけどなぁ。


「ねこ」っていう異世界転生もので最高クラスにほっこりしてるもの選んじゃったよ。似合わなすぎだろ。


だが、俺はこの推察の中である衝撃的なことに気付いてしまったのだ。

そう……自分は間違いなく主人公だということにね‼


だってそうでしょ?転生者っていう最強の主人公ステータス持ってるし?ごく普通の人が異世界で無双する話ってよくあるし?

いやー、これはキちゃったよ。こっから無双しちゃうよ~?


いやいや、待てよ。ここで調子に乗ってはいけない。

あくまで俺は一般人だ。最近運動不足だったし、武器も道具も持っていない。そしてなにより俺はねこだ。(これが一番やべぇ)


そう簡単に無双できるはずがない。即死する未来が見える。


よしここは落ち着いて、絶対に自分が死なないように動いていこう。

それから主人公らしく活躍してやるぜぃ!


さてと、ここからは敵らしきものは見えないな。さっき見えた街へ続く道にはちらほら人が見える。


なるほど、この辺は大丈夫みたいだ。よぉし、まずはお決まりの情報収集からだ!

そう心の中で意気込みながら、俺は意気揚々と街を目指して歩き出した。




 ……やっぱりねこ問題もなんとかしないとだよな。

 

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ねこねこくえすとぅ 雪菜 つむぎ @yukina_tumugi

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