15 テツの若い時代
テツ、23歳。
自衛官になり数年経過。
海上自衛官では、職種の事をマークと呼ぶ。
君のマークは?
私のマークは〇〇ですと申告する。
テツのマーク、航空管制員。
世間で職業を聞かれると自衛隊と答えにくく、格好をつけてATC(air traffic controler)などと呼称していた。
また、海上自衛隊のヒエラルキーではパイロットの次に位置する、いわばなりたくてもなれない職種だ。
海上自衛官は入隊後、適性検査を受けて自分の行ける職種が選択される。
航空管制員などはなかなか適正が出ないが、テツは同期入隊約200名の中で2人の適性者だった。
準適者も存在するが、それほど多くはない。
片手で数えれるほどだろう。
テツは大学受験に失敗。
浪人などをするが、そもそも大学に興味がなかった。
学生時代の学業成績はかなり高い。
数学などはほぼ満点ばかりだ。
ただ、英語があまり良くなかった。
それが何の因果か、海上自衛官では英語を使う職種に選ばれてしまった。
また、自分に自信のなかったテツだが、この適性検査システムのおかげで自信を回復したのも事実だ。
何せ、選ばれたのだから。
ただ、中には変にエリート意識を持つものもいる。
他の職種があって初めて成り立っていることを理解できない連中だ。
ま、それはいい。
そんなテツだが、本人の希望は気象班だった。
入隊後、適性検査の結果が出た後に班長に呼ばれる。
「町田、お前凄いぞ。 航空管制の適性が出ている。 この職種へ行け」
「班長、私は気象に行きたいのですが・・」
「何言ってるんだ。 こんな適性ないぞ。 行け」
班長に押されるまま、まだ組織のシステムも理解できていないテツに選択肢はない。
入隊後の基礎訓練、4か月強の期間が過ぎ同期と共に各部隊へ配属。
テツも部隊に配属された。
無論、航空管制の配置だ。
ただ、すぐに仕事ができるわけではない。
それぞれのマークの術科学校がある。
テツは第5術科学校、航空自衛隊の小牧基地に1年半ほど入校となる。
部隊で1年間入校を待ち、術科学校へ入る。
学業成績は良く、学生褒章などをもらった。
そして、日本でも忙しい基地、厚木基地へ配属となる。
ただ、勉学と現場のギャップに悩み、航空管制員を断念。
部隊の班長の配慮で、東京地区へ転勤となった。
ここでテツの自由な生活が始まる。
東京勤務となり1年が経過。
完全に慣れてしまった。
今日も業務が終わったらシャワーを浴びて新宿へ行こう。
いつものショットバーへ行き時間を潰すつもりだ。
金はある。
給与はすべて自分の小遣いだ。
独身貴族。
その言葉がふさわしい。
新宿までJRで移動。
まだスタジオアルタがあり、この下の富士銀行だったか、その広告に有名俳優の写真が大きく飾られていた。
通称モックン前。
テツはショットバーで知り合った女の子と待ち合わせだ。
新宿駅東口、時計を見ると18時30分。
モックン前まで人込みを歩いて行く。
!
いたな。
テツは女の子を発見。
片手を上げて近寄って行く。
「ごめん、ちょっと遅くなったね」
「ううん、大丈夫。 それよりもテツさん、忙しいんじゃないの?」
「大丈夫だよ。 えっとビールの美味しいところがあるんだ。 行こう」
「うん」
テツと2回目のデートの女の子。
テツはやる気満々。
何かって?
そりゃ、アレだよアレ!
ゴムは使うけどね。
今日の予定。
食事をゆっくりとして、行きつけのショットバーへ誘う。
終電まで楽しくおしゃべりして返さない計画だ。
テツの自我把握。
決してモテるような男ではない。
だが、要旨は年齢よりも若く見える。
学生時代は嫌だったが、今ではありがたい感じだ。
そして、誰もテツを見ても危険な感じを受けないだろう。
細身の優男。
そんなテツの趣味は自己鍛錬。
身体も心もだ。
少林寺拳法は高校の時に弐段を取得。
打撃の実戦では、テツの実力ではあまり役に立たない。
だが、関節技の習得はとてもありがたく思っていた。
身体が覚えている。
とはいえ、実戦経験(喧嘩)はしたことはない。
痛いのは嫌だからだ。
それに絡まれる前に危険な雰囲気からは避けていた。
余談が過ぎた。
今日のターゲットにしている女の子は職業が看護士だという。
看護士も出会いの場が少なく、たまたま気になったショットバーに入ったところ、俺と知り合ったわけだ。
ビールの美味しい店に行ってみると満席。
「ごめん、満席みたいだ。 もし嫌じゃなかったら池袋に行かない? そこでも美味しいお店があるんだ」
「う~ん・・いいよ」
俺たちは池袋に移動。
それほど時間もかかるわけじゃない。
電車に少し揺られて到着。
池袋東口に出て、サンシャイン通りに向かう。
ここに美味しいお店があった。
店の前に到着すると、何とかは入れそうだ。
「リカさん、どうぞ」
俺がドアを開ける。
「ありがとう」
リカはニコニコしながら中へ入って行った。
時間は19時過ぎ。
俺たちはゆっくりとビールを飲みながら食事をする。
・・・
21時過ぎになっただろうか。
「リカさん、この近くにもおしゃれなショットバーがあるんだ。 行く?」
俺は池袋と新宿のお店を何軒かは把握している。
定番のルートだ。
「う~ん・・後少しだけね」
リカは微笑みながらついてくる。
ショットバーに立ち寄り、俺たちは中に入る。
俺たちが席につくと店員に注文をする。
「えっと、これをストレートで。 後、チェイサーでお水をお願いします」
いつものことだ。
「私はぁ、モスコミュール」
俺とリカは軽く乾杯をして飲む。
ゴク・・
くぅ、喉が焼け付くような感じだ。
すぐに水を飲む。
どうやら俺の身体はお酒とはあまり相性が良くないようだ。
後でわかることだが。
それにバーボンなどを飲むと、必ず次の日には頭痛を伴う。
だが、はしごをしたり女の子と飲んだりするときは、これがカッコいいと思って飲んだりしていた。
アホだな。
時間が22時30分頃。
リカが時計を見る。
「テツさ~ん、そろそろ私帰らなきゃ。 電車もなくなってしまうし、明日もあるから・・」
俺も気分よく出来上がっている。
明日は誰にもあるんじゃい・・って、何かのCMであったよな。
「いいじゃんリカさん。 電車なくなったら俺と一緒に寝ようよ」
「えぇ~、またそんなこと言ってぇ・・えへへ・・でも、明日朝が早いのよ」
「そう? だったら俺のところから行けばいいじゃん」
「ありがとう。 でもね、そんな時にはお泊りセット持って来てって言ってね」
俺の頭にNG信号が浮かぶ。
ダメだな今日は。
「そっか・・仕方ないな。 じゃ、リカさん帰ろうか」
「うん」
俺は無理強いすることはせず、いつも女の子の反応を見ながら考えていた。
誘われることはないが、撃墜率は結構高い方だと思っている。
俺はリカと別れ、池袋から地下鉄有楽町線で帰って来る。
時間は23時30分。
自衛隊の駐屯地の門を通過し、隊舎へ帰らずに職場に立ち寄ってみた。
明日の仕事を確認するためだ。
当直は仮眠しているだろう。
この駐屯地は陸上自衛隊の管轄なので、俺たちは直接警備につくことはない。
手伝うことはあるが。
事務所に行くと明かりがついている。
あれ?
こんな時間に誰がいるんだ?
今日の当直は違う班のはずだが・・。
俺はそう思いながら事務所を開けてみた。
!
「あれ? 鎌田、どうしたんだ?」
ウェーブだった。
海上自衛隊の女性隊員はウェーブと呼ばれる。
鎌田は後輩で、かなりかわいい女の子だ。
それがどうしてこんな時間にここにいるんだ?
「あ、町田さん・・」
鎌田がいろいろ話してくれる。
・・・
どうやら付き合っている彼氏が浮気をしたらしい。
それで飛び出してきたのだそうだ。
俺は驚いた。
この子、同棲していたんだ。
それが衝撃だ。
見た目からは想像できないな。
華奢で小さなかわいい女の子なのに。
それから俺は鎌田の話をいろいろと聞く羽目になった。
どれくらい時間が過ぎただろうか。
まだ外は暗い。
「鎌田、この事務所でも仮設ベッドがあるからそこで寝ればいい。 じゃぁな」
俺はそう言って、事務所を出て行こうとした。
!!
鎌田が俺の腕を掴んで泣いていた。
そのまま俺は鎌田に引き寄せられて唇を重ねる。
・・・
・・
やってしまった。
酔いもさめてしまった。
時間を見ると午前4時。
このままじゃやばい。
朝の早い奴等が後1時間もすれば来る。
俺は鎌田を起こす。
「鎌田、起きろ鎌田」
「う、う~ん・・」
「鎌田、俺は隊舎に帰る。 後で何も知らない振りをして出勤するよ」
俺はそれだけ告げると、そそくさと自分の寝泊まりしている寮のような場所(隊舎)へと帰って行く。
まさか鎌田とやるとは思ってもみなかった。
しかし・・あの女の子、俺にとっては最高に近い相性だな。
スゲー良かったよ。
それからは3か月ほどは鎌田と食事に行ったり、お楽しみの時間が増えた。
すると次第に鎌田が時間を作ってくれなくなった。
どうやら同棲している男とうまくゆきだしたようだ。
「町田さん・・いろいろありがとう」
鎌田がどうやらキリをつけたいらしい。
俺的にはかなり衝撃だ。
そりゃ彼氏持ちなのはわかっていた。
だが、身体が喜んでしまってついつい遊び過ぎたようだ。
鎌田が言うには、どうやら彼氏が浮気したから私もしてやったという。
その相手がたまたま俺だったようだ。
・・・
俺は自分のアホさ加減に自分で呆れたが、少しイラっともする。
元サヤになるなら遊ぶなよ。
でも、俺の中ではこの女は遊びの女というのもわかっている。
俺だって鎌田とだけ遊んでいたわけではない。
他にも遊んでくれる女の子はいた。
だが、身体が・・若さだな。
いいように遊び遊ばれたのがどうもしっくりこないようだ。
後でわかることだが。
結局は知らないうちに鎌田と会話すらしなくなり、普通の生活に戻っていた。
そんな独身貴族の生活をしていたが、30歳くらいの時だ。
バカな上司が来てとんでもない目に合った。
俺の体調を完全に狂わせる上司だった。
幹部は自由度が高く、無茶苦茶するだけして勝手に病気休暇を申請して休んでしまった。
そのツケがまさか20歳後半の俺に回って来るとは思ってもみなかった。
そりゃ潰れるよ。
結局、俺は自衛隊を退職することになる。
後で思えば、病気休暇でも何でも申請して休めばよかったと思う。
そうすればお金に苦労することはなかっただろう。
だが、当時の俺は若かったのと純粋だったのは間違いない。
女と酒には溺れるほどではないが、結構遊んだ。
だが半面、公務員という職種を真剣に考えていた。
職場の連中は年度末になれば予算消費などと称して備品を購入する。
余った金があれば国庫に返せばいいんだよ。
そう意見具申したことがあったが、次の年度から予算が削られるからダメだと怒られた。
それに業務のそれほど忙しくない時は、何かの時に身体を鍛えておかなきゃと思い訓練内容などを提案。
余計なことはするなと、これまた怒られる。
余計な事案を作って業務を増やすなということだ。
いやいや、俺たち税金で生きているのですよ。
そのお金を1円でも無駄にしてはいけないのでは?
本気でそう思っていた。
結局は辞めてしまったので何とも言えないが。
・・・
・・
そんなことが若い時代にあった。
だが今では世界システムそのものが変わってしまった。
レベルや魔法がある世界になった。
最高だ!
そして嫁さんももらった。
当初はこんな女じゃないと思っていたが、どうやら鬼嫁だったようだ。
なるほど・・どうやら俺には厳しい女しか集まらないようだ(笑)
ただ、今の目線で過去を振り返ると、当時の出来事は今を作るための必然だったのかもしれない。
すべては今につながっている。
俺は玄関で自嘲した。
「テツ様、どうかされたのですか?」
テュールが不審そうな顔で俺を見る。
「いえ、少し昔を思い出していました」
「ふむ、そうですか。 では、気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとう。 では行ってきます。 お昼は外で食べてきますね」
玄関でテュール、ヴェルとエイルが見送ってくれていた。
どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ~スピンオフ~ ボケ猫 @bokeneko
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