14 キョウジ
皮の黒い大きな椅子にゆったりと座っている男がいる。
その座っている姿は、落ち着いているというか雰囲気があるというか、完全に様になっている。
男は目を閉じていた。
ステータスオープン。
自分のステータスを確認してみる。
キョウジ(ランクA)
レベル:39
種族 :人
HP :660/660
MP :450/450
力 :595
防御 :550
敏捷 :778
技能 :511
運 :65
職業 :
固有スキル
忍術☆
アイテムボックス☆
タイムズスクエア☆
テツに左腕を吹き飛ばされ、帝都で回復したキョウジだった。
ドアをノックする音が聞こえる。
コンコン。
「キョウジさん、入るわよ」
ドアを開け、小野が入ってきた。
小野は部屋に入ると一瞬立ち止まってしまった。
キョウジの椅子に座る姿があまりにも自然だったからだ。
まるでキョウジのためだけの椅子に座っている感じがする。
王と言われれば納得してしまいそうになる。
そんな雰囲気を持っていた。
キョウジは椅子から立ち上がり小野の方を向く。
「どうしたんだい、小野さん」
「い、いえ、泉さんがまた協議があるので来て欲しいそうよ」
キョウジは頭をポリポリとかきながら言う。
「了解。 それにしても最近は話し合いが多いねぇ。 あの・・なんて言ったっけ? 帝都からやってきたおっさん・・あれが来てから妙な感じだよな」
「キンヤさんよ」
「キンヤ、ねぇ・・」
小野はキョウジの返答を聞きながら危惧を覚えた。
「キョウジさん、まさかキンヤさんを殺害しないでしょうね?」
「は? アッハッハッハハハ・・こりゃ傑作だ。 小野さん、俺を殺人鬼か何かと勘違いしてるよね?」
小野は笑えない。
このキョウジという男。
戦闘力は抜群だ。
責任感もある。
ただ、人として信用できるのかというと疑わしい。
けれども、子供や年配者には敬意を払っているというだけあって、本当に心から接している。
わけがわからない。
だが、人を
私なんて、魚を料理するのも
小野はそんなことを思いながらキョウジを見ていた。
キョウジは気にするでもなく移動する。
泉のいる部屋に入ると、キンヤが席を立ち挨拶をしてくる。
泉が軽く手を動かし皆が席につく。
街の運営方向の話が始まった。
泉とキンヤ、キョウジに小野、後は運営などを担当する行政官などがいる。
アニム王国のギルドの人間も2人出席していた。
やはりアニム王国に属する形で運営してゆきたいと泉は言う。
キョウジは目を閉じ聞いていると、少しうたたねをしたようだ。
・・・
・・
「・・キョウ・・キョウジ」
あ、姉さん、それに母さんも。
キョウジは自分の子供時代の夢を見ているようだ。
キョウジが姉の近くで母親の顔色を見ながらキョロキョロしていた。
「ちょっとキョウジ、あんた頭いいんだねぇ。 学校の先生が褒めてくれたよ。 だがねぇ、うちじゃ進学なんてできないからね」
母親はぶっきらぼうに言い放つ。
「うん、わかってるよ。 俺、中学出たら自衛隊に入るんだ。 そうすればお金ももらえて勉強もできるしね」
「そう~かい! キョウジはいい子だねぇ。 ま、頑張りな」
母親はそう言うと奥の部屋に移動した。
キョウジの姉が近寄って来る。
「キョウジ、あなたの成績なら優秀な進学校も行けるのにね。 ごめんね」
「ね、姉さんが謝ることなんてないよ。 それに進学しても社会で成功するとは限らない。 ただ成功確率が上がるだけだよ」
「・・あなた、凄いわね。 そんなことを考えているなんて」
「まぁね」
キョウジは微笑みながら答える。
キョウジの父親は事故で亡くなった。
母親は元々無理に労働するような人じゃない。
見た目はとても美人だが、人間としてはダメ人間だとキョウジは思っている。
子供に虐待はしないが、食事を作ることはほとんどない。
出来合いものや冷凍食品ばかりだ。
たまに家を空けることがあるが、その後には少し食事が豪華になる。
キョウジは中学を卒業すると当初の希望通り、自衛隊の少年工科学校へ入った。
月々、ほんの少しだが家にも仕送りをしていた。
そして、年月を重ねて階級が上がり3曹になっていた。
久しぶりに家に帰ると相変わらずだらしない母親がいた。
今にしてわかることは、この母親は自分を売って日銭を稼いでいたのだろう。
だが、そんなことを問い詰めても意味はない。
キョウジは冷めている。
「母さん、姉さんは?」
「さぁ・・最近会ってないんだよね」
は?
毎日一緒に暮らしているのだろう?
どういうことだ?
キョウジもそれほど休暇があるわけではない。
1日待ってみたが、姉さんは帰って来ない。
母に
時間をおいてまた帰っても母親の回答は同じだった。
キョウジが入隊して7年が経過。
家に帰ってみると母親がいない。
事情を聞いてみると男と一緒に出掛けたきり戻っていないそうだ。
姉の情報はほとんどない。
キョウジは警察に届ける。
キョウジも訓練や災害派遣、そして海外での活動などで多忙な生活をしていた。
家に連絡を入れることすらできなかった。
姉の所在が3か月くらいしてわかった。
どうやら風俗で働いているようだった。
キョウジは姉を訪ねて行く。
受付で面倒は起こしたくないので、多めに金を払って姉を指名。
姉は驚いていた。
部屋の中で2人。
「・・・キョウちゃん・・ごめんね・・」
姉は一言つぶやいたまま下を向いている。
「姉さん、いったい何があったんだよ?」
キョウジは静かに聞く。
「・・・」
「姉さん、ここから出ようよ。 お金なら俺持ってるよ」
「・・キョウちゃん、ありがとう。 でも、ダメなの」
・・・・
・・
姉はどうやら母親を人質に、この店に売られたらしい。
母親が引っかかった男が、関東連合とかいう反社会組織の男だったらしい。
そんな話をしてくれて、姉が震えながら腕を見せてくれた。
サポーターをしていた腕をずらして見ると青紫色の
姉が苦笑いしながら言う。
「ね、キョウちゃん、わかったでしょ。 ここに売られた瞬間にたっぷりと薬を打たれたわ。 強い意思があれば大丈夫と思っていたけど無理ね。 私ってこんなに弱い人間だったんだわ。 それに薬が切れると自分がわからなくなるの・・」
姉が目線を下に向けていた。
「そ、そんな・・姉さん・・お、俺が何とかするからさ。 まずは病院へ行こうよ」
キョウジは震えるような声で言う。
姉は首を振る。
「無理よキョウちゃん。 それに私がいなくなったら母さんがどうなるか」
「姉さん、母さんは家にはいなかったよ。 誰かと出て行ったとか・・」
「どういうこと?」
姉がキョウジの顔を見る。
「わからない」
「もしかして母さん・・売られたんじゃ・・」
姉が両腕で自分を抱きしめて震えだした。
「あぁぁ・・」
「姉さん、しっかり姉さん!」
キョウジが姉を軽く揺すると、入り口のドアが開く。
バタン!
「お客さん、すみませんねぇ・・こいつはちょっと持病持ちでね。 いえ、移る病気じゃないんです。 失礼しますよ」
入ってきた男が姉を担いで部屋を出て行く。
キョウジにはどうすることも出来なかった。
ただ見送ってしまった。
それからどうやって隊に帰って来たのか覚えていない。
フラフラと隊の中を歩いていると、姉によく似た女の人を見つける。
追いかけて行くと女性隊員の宿舎に入っていた。
誰かが叫ぶ。
「お、男がいるわよ~!!」
キョウジは警務隊に掴まり、事情聴取を受ける。
警務官は、キョウジが特に何もしていないので軽い処罰でいいだろうと言っていたが、キョウジが拒否。
婦女暴行ということで俺をやめさせてくれという。
いろいろと上官などと話し合いをしたが、結局キョウジはやめることになる。
事件の真相を知らない人たちは、まさかあの優秀な隊員がという話で持ち切りだった。
真相を知る上官たちはなぜそれほど自分を
結局は上官たちの取り成しもあり、依願退職という形になった。
その後は関東連合に属するようになる。
自衛隊を退職後、少しして姉のところへ行ったがどうやら薬の量を間違えて最近亡くなったという話を聞いた。
キョウジは狭い事務所で座っている。
3人の男がいた。
1人は以前に姉を連れて行った奴だった。
「兄さん、あんた池袋支部の人だろ? 聞いてるぜ、最近やけに頭の切れる奴が入ったってな」
キョウジの前のリーダー風の男が言う。
「ありがとうございます。 で、その女が持っていた遺品とか何かないですかね?」
「兄さん、やけに気に入ってるんだな。 遺品なんてものはねぇな」
キョウジはその言葉を聞くとスッと立ち上がる。
「そうか・・では用はないな」
そう一言つぶやくと、目の前の男の顎を蹴り上げる。
キョウジの靴は安全靴だ。
それも鉄芯入りの。
バコ!
蹴られた男はそのまま前のめりに突っ伏して、口から血を流していた。
「な、なにしやが・・」
キョウジの右側の男が動こうとする。
相手が1歩動く前に事は終わっていた。
キョウジが右横の男の鼻頭に正拳突きを全力で放つ。
ドン!
そのまま左側の男に右回し蹴りを出す。
安全靴が丁寧に鼻下にめり込んで行く。
バキョ!
3人の男たちは生きているのか死んでいるのかわからない。
ただ動かなくなっていた。
キョウジは両手にビニール手袋をはめ、サバイバルナイフを抜く。
そのまま3人の男の心臓を突いて行った。
不思議と罪悪感はない。
むしろスッキリとする。
ナイフの血を拭き取ると収納。
部屋の中を見渡す。
!
室内を撮影していたカメラを発見。
「これ1台しかないのか?」
キョウジは確認するが、見当たらない。
カメラを破壊して、データカードを抜き取る。
データを保管していたハードウェアにスタンガンをかけてバラバラに踏みつぶす。
もう1度確認して、部屋を後にした。
そのうち母も亡くなったという話を関東連合の情報網で知る。
キョウジはその後、母に関わっていた連中を静かに始末していく。
3人がいなくなった。
関東連合でもどこかから刺客が送り込まれているんじゃないかと調査したが、わからなかった。
キョウジは何事もなかったかのように組の末端で活動をしていた。
その活動もボランティアみたいなものが多かった。
他の組の連中が振り込み詐欺などの手口などを自慢していたが、興味がない。
キョウジは決して老人からはお金を取ることはしない。
だが、金持ちの連中などからは容赦なく搾取していた。
そんな日々を過ごしていると、今のような世界になった。
・・・
・・
「・・キョ・・キョウジ・・キョウジさん」
「え? あ、あぁ小野さん・・」
キョウジは完全に眠っていたようだ。
「キョウジさん、真面目に聞いてください」
小野が注意をする。
キョウジが姿勢を正して座り直す。
キンヤや泉は気にする様子はないようだ。
他の連中が少し嫌な顔をした。
結局、アニム王国に属する国ということになっていた。
「ふわぁぁ・・しんどかったなぁ」
キョウジは部屋の外に出て伸びをする。
「キョウジさん、退屈でしたか?」
泉が聞いてきた。
「いや、あんなものでしょう。 それよりも泉さん、俺・・ちょっと帝都に行ってレベル上げてきますよ」
キョウジはそう告げると、サッサとギルドのある方へ歩いて行った。
「泉さん、あんな男、本当に置いていて大丈夫ですか?」
小野が泉に聞く。
「まぁ、大丈夫でしょう。 それにあの人は優秀ですからね」
「ゆ、優秀? あの男が?」
小野は泉の意外な言葉に驚いていた。
泉はうなずくと自分の執務室の方へ向かった歩いて行く。
小野はその背中を見送りつつ、
「わからないわ・・」
思わずつぶやいていた。
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