13 優目線 2/2
おっさんは学生時代に武道を習っていたらしい。
俺は何も学んでいない。
習う気すらなかった。
でも、こんな世界になって身体の動きというのは大事だと痛感している。
おっさんは俺の動きが凄いという時があるが、自分ではわからない。
どんな動きが凄いのかが知りたい。
俺から見れば、おっさんの動きがどんなレベルかもわからない。
そんなことを俺自身が知りたい。
だからこそ基本なんだ。
そんなことを考えていたら学校へ到着。
レイアと俺は学科が違うのでここで別れる。
レイアが俺に軽くキスして、また後でねという。
俺はそのまま武技学科の教室へ向かって行った。
教室へ入ると、結構人数がいる。
毎日増えているような感じだ。
年齢も様々で、老人じゃないのかという人もいる。
俺はかなり若い方だ。
8割くらいが地球人じゃないかと思うが、よくわからない。
席は自由に座っていいので、俺は最前列の席に向かって歩いていった。
歩いていると、俺の足を引っかけて来る奴がいた。
危うく俺もつまづきそうになった。
俺はチラッとそいつを見て、そのまま席に向かう。
「おチビさん、朝からうらやましいねぇ。 あんな美人さんにキスされるなんて・・」
「そうそう、俺もあやかりたいぜ」
俺に足をひっかけようとした男たちがニヤニヤしながら俺を見つめる。
どうやら3人組の男のようだ。
俺は言葉を交わすこともなく、軽くお辞儀をして席へ向かおうとした。
「おい、口がきけねぇのか?」
一人の男が立ち上がろうとすると、入り口から先生が入って来た。
「はい、授業を始めますよ。 おはようございます」
「「おはようございます」」
教室の生徒たちが挨拶を返す。
先生が教壇に立ち、教室を見渡す。
「今日は、結構多いですね。 50人くらいいるでしょうか? 今日は私が講義を受け持ちます。 よろしくお願いします」
そう言って早速授業を始めようとすると、生徒が手を挙げていた。
「おや、早速質問でしょうか? どうぞ」
「先生、昨日の先生はどうされたのでしょうか?」
生徒の言葉を聞き、先生はハッとした表情になった。
「これは失礼しました。 まず昨日の先生ですが、今日は帝都外の調査へ出かけております。 その代わりに私が派遣されてきたわけですが、自己紹介もしておりませんでしたね、申し訳ありません。 私はウベールといいます。 帝都騎士団第一隊長を任されております。 よろしくお願いします」
先生がそう自己紹介をすると、教室内が少しざわついていた。
「騎士団隊長だってよ・・」
「俺も騎士団になりたいんだよな・・」
「・・強いのか?」
・・・
ウベール先生が手をパンパンと叩きながら言う。
「はい、騒がしくしない。 武技学科のクラスは座学も大事ですが、まずは身体を動かして覚えた方がいいでしょう」
そう言うと、教練場へとみんなで移動していく。
教練場は武技学科と扉でつながっており、広さはテニスコート20面以上はあるんじゃないかという広さだ。
全員が移動すると、ウベール先生が誰でもいいので誰か相手をしてみませんかという。
すぐにみんな手を挙げていた。
俺も無論挙げる。
俺の後ろから、おっさんよりもかなり若い人が前に出てきた。
「あなた何か武技を習っておられましたか?」
ウベール先生が聞く。
「はい、私は居合という武術を習っておりました。 それに杖術も少々」
若い男の人が答える。
「そうですか。 私にはこの星の武技はよくわかりません。 ですが、人の身体の動きは同じだと思います。 遠慮なく私を倒すつもりで向かって来てください」
ウベール先生はそう言うと、若い男の前に立ち、素手で構えていた。
若い男は木の棒を持ち、ウベール先生を見据える。
ふぅ・・とゆっくりと息を吐きだしながら、踏み込むタイミングを見ているようだ。
スッと若い男がウベール先生に近づく。
俺にはその踏み込むタイミングがわからなかった。
すごい技術なんだろうと思って注視していた。
若い男はそのままウベール先生に木の棒で突きを入れる。
ウベール先生はその流れに逆らうことなく、棒の動きの横を若い男に向かって一歩踏み出す。
若い男はその棒を自分の方へすぐに引き戻し、そのままウベール先生にもう一度突き出した。
!
俺はこれは当たったと思った瞬間、ウベール先生はその棒の上に軽く足を乗せると、そのまま軽く相手を飛び越えて相手の背後に着地。
若い男も、突き出した棒をそのまま引きつけ、後ろに目線を移動しながら棒の逆先をウベール先生に突き出そうとした。
そのところをウベール先生が若い男に対して手を突き出して、軽く突き離していた。
若い男は2~3歩後ろへ下がると、そのままウベール先生に頭を下げて引き下がって行く。
ウベール先生はにっこりと微笑みながら言う。
「今のがわかりましたか? 足の運びが大事なのです。 上半身だけで避けようとしてはいけません」
その言葉を聞きながら、俺に足をかけてきていた男たちがつぶやいていた。
「な、何いってやがる。 見えるわけねぇだろ」
「あぁ、見えないよな。 いきなり相手の後ろにいたかと思ったら、相手が頭を下げていたんだものな・・」
・・・
そんな会話が俺に聞こえた。
優は驚いていた。
マジか?
見えなかったのか?
俺のレベル、20まで下げているけど見えたぞ。
この人たち、やばいんじゃないか?
俺はそんなことを思いながら、チラっと男たちを見る。
男が俺の視線気づいたのか、俺に近寄って来た。
「おいガキ、何見てんだ?」
「お前、見えたのか? あぁ」
俺はうなずいた。
男たちは一瞬驚いたような感じがした。
「う、嘘つけ。 あんなの見えるわけねぇだろ」
「強がるんじゃねーよ」
ザワザワしている。
そんなのを聞いていると、ウベール先生がまた声を出していた。
「他に、誰かいませんか?」
今度はすぐに手を挙げるものはいない。
俺はやはり体験してみたかったので、手を挙げてみた。
俺の周りにいた男たちは驚いたようだった。
「どうぞ」
ウベール先生が手招きしてくれた。
俺は先生の前まで歩いて行き、ウベール先生を見る。
「おや? 君は何か不思議な感じがします。 まぁ、いいでしょう。 いつでもどうぞ」
ウベールはそう言うと、優の前で静かに立っている。
俺はそのウベール先生を見ていると、隙だらけのように見えて攻め込めない感じがする。
ただ、注意深く見て集中すると、お腹の辺りがやや弱点のような感じがした。
「先生、失礼します」
俺はそう言うと、一気にウベール先生に突っ込んだ。
ウベール先生もそうだが、俺も木剣を持っている。
俺はその木剣をウベール先生のお腹めがけて突き入れてみた。
ウベールが少し目を細めて自分の左へ飛ぶ。
俺はそのまま木剣を右へ横薙ぎに走らせた。
ガコン!!
俺の木剣をウベールの木剣が受けていた。
会場では、その瞬間に歓声が上がった。
「「おお~!!」」
「凄いな、あの子」
「今の動き、見えたか?
「見えるわけないだろ?」
「誰だ? あの学生は・・」
・・・・
・・
いろんな言葉が飛び交う。
優に絡んでいた男たちは口を開けたまま無言で見ていた。
優はそのままバックステップをして距離を取る。
ウベール先生がついに剣を構える。
優に対して剣を向ける。
だが、踏み込んでくる気配はない。
どうやら受け専門でいるようだ。
俺はそのまま見ていたが、どうしようもない。
今度は弱点のようなところがわからない。
仕方ないので一歩踏み込んで、ウベール先生の胸の辺りを突いてみた。
ウベール先生は剣を軽く揺らすと、俺の突きの軌道がずらされた。
俺はそのまま剣を引いて次を突こうとすると、ウベール先生が俺の胴を軽くトンと当てて、俺の後ろに抜けて行った。
ほんの一瞬だった。
俺にはウベール先生の動きがよくわからなかった。
だが、実戦なら確実に胴が真っ二つになっていただろう。
「ウ、ウベール先生、ありがとうございました」
俺はそう言って一礼をする。
ウベールがにっこりとして、
「いえいえ、こちらこそ驚かされました。 まさかここまでできる方が生徒でいるとは思いませんでした」
そう言って軽く頭を下げ、次の方はいますか? と声をかけていた。
誰もいるはずもないが。
俺はそのまま元の場所へ帰ると、俺に絡んでいた男たちはいなくなっていた。
ま、どうでもいいけど。
「まぁ、今のように武技は足の動きが大切です。 今日はその練習をしてもらいます」
ウベール先生はそう話出すと、前・横・後ろと身体を移動させながら足運びを見せていた。
・・・
今日の授業はこれで終わりのようだ。
俺もきちんと足運びを学んだが、確かに教えられなければわからない。
それに、初めは動きにくいが慣れるととても軽く速く動けるはずだと、ウベール先生が言う。
毎日修練して、半年もすれば勝手にできるようになるという。
みんな、えぇ~と、飽きれる声が聞こえて来た。
確かに、そんな地味な練習を半年もできるはずがないだろう。
しかし、俺はしようと思っていた。
おっさんはきっと昔にやったはずだ。
教室を出るとどの教室も授業が終わっていたようだ。
時間は11時過ぎ。
「優~!」
レイアが手を振りながら俺を見つけてくれる。
俺も軽く手を挙げて、近づいて行った。
「優、どうだった?」
「うん、今日は騎士団の隊長が教えてくれたよ」
「そうなんだ。 あ、お昼食べに行くんでしょ?」
レイアが俺の手を取って歩いて行く。
◇
スピンオフは一応これで一区切りになります。
ありがとうございました。
また、思いついたらアップさせていただきます。
よろしくお願いします。
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