Step x

 夕焼け空をバックに手を繋いで、歩く2人の影。お互いが相手を気づかう繋ぎ方をした手が初々しい。

 道行く人の囁き声が耳に入る。


「見て、あの2人! かわいいね」


「ホント! 付き合いたてなのかな?」


 そうか、そうか。

 僕たちもちゃんと付き合っているように見えるんだな! ちょっと嬉しい。


 今、僕たちは学校近くの打ち上げ会場へ向かっている。徒歩15分の距離がいつもより短く感じる。

 先程の教室での出来事にニヤリと頬が緩む。


「ねぇ、上本くん……」


 か細い声に顔を向けると、川中さんは僕を見上げていた。

 僕と目が合うと、ぱっと視線を逸らして、少し伏し目がちになる。

 伏せられた長いまつ毛がまた可愛い。


「ん?」


「あのね、クラスのみんなには、私たちのこと、暫く内緒にしててほしいの」


 ガーン……

 ガッツリ友達に自慢しようと思ってたのに……。でも、川中さんが嫌なら内緒にするか。


「分かったよ」


「ありがとう……まだ、心の整理が付いてなくて……」


 そう言って、俯く川中さんの頬はまだ赤い。

 僕たちは僕たちのペースでゆっくりと親しくなればいい。急がなくても、川中さんは逃げないし、逃がさない。

 やっと手に入れられた恋なんだ。

 大切にしたい。


「あのさー……写真、撮ってもいい?」


「えっ?」


「今のさ、幸せな気持ちを形に残したいんだ……ダメかな?」


「……いいよ、記念に1枚ね」


 よっしゃ!

 実は告白が成功したら、川中さんとの2ショット写真を撮りたいと思っていた。

 その写真を勉強机に飾って、それを目にする度に、川中さんも頑張ってるから、僕も頑張ろうって思えるから。

 僕は川中さんの気が変わらないうちにと、いそいそとスマホを取り出して、カメラを内カメに切り替えた。

 夕焼け空を背景に、川中さんと僕がスマホの画面に映る。


「川中さん、もっと寄って! 見切れてるから」


「うん……」


 川中さんの肩が僕に触れた。

 とくりと心が波打つ。


「じゃあ、撮るよ……よろしくね、美月さん」


「ふぇ?」


パシャ!


「ま、ま、待って! 絶対、変な顔してるから、取り直そっ!」


「ダメだよ。だって、美月さんが『記念に1』って言ったんだから」


 頬を紅く膨らませて、抗議を表す美月さんが幼く、そしていとおしく感じる。

 これから、きっとお互いが相手の知らないことを沢山知っていくんだ。そして、相手の意外な一面とかにドキリとしたり、また一段と好きになったりするんだろう。

 

「意地悪ね……祐太ゆうたくんは」


「ゴホッ……不意打ちはズルいよ」


「先程のお返しです」


 美月さんはふわりと微笑んで、僕の手を取った。

 軽い足取りで前へと僕を引っ張る。


「早く、行こう……みんな、待ってるよ」


「そうだね、行こうか、美月さん」

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夏の香 素波 望美 @Nozomu-S

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