断章:魔女の継承
兵士に手錠を掛けられ、輸送機に押し込まれる。
貨物室に固定された椅子に座らされ、拘束衣を着せられた。
だが、周囲にいる隊員は普通の国連軍の兵士ではない。
顔を完全に隠し、通常の歩兵装備とは異なる構成の装備群を身に付けている。
そして、彼らの腕に付いている部隊章――そのワッペンを見て、全てを理解した。
タイミングを見計らったように、機内の奥から笑い声が聞こえてくる。
その声色は、嫌というほど聞き覚えがあった。
「――予定とはかなり違うようだね……ストレーガ」
「ふふ、その『予定』というのは君だけの話でしょう……?」
奥からやってきた女性将校――――銀髪で、周囲の隊員と同じ部隊章を身に付けていた。
「あなたはやり過ぎたのよ……ストレーガ」
彼女は――私だ
全く同じ存在でもある『魔女』の1人。
私達は目的を共有し、それぞれの権力や資産を駆使して協力してきた。
その中で、私は『敵役』という
「与えられた役割を超えるほどのアクションは許可されていない」
「――許可? この私に許可なんてものが必要だと思っているの?」
女性将校――もう1人の魔女が歩み寄ってくる。
そして、椅子に座らされた私の目の前で膝を着く。
「魔女達は、
『国境なき戦士達』は私が手塩に掛けて育てた組織だ。
様々な方法で人材を集め、コネクションを築き、規律と統制が取れ、全く新しい武装集団として各地で大規模戦闘を引き起こせるように訓練してきた。
前任の魔女がやっていた「お遊び」ではなく、地球最大の脅威として恐れられる武力を行使できる組織に作り替えた。
これまでの貢献を無視して、私を排除するとは――
将校の魔女は自分の腰に手を伸ばし、ホルスターから小型の拳銃を取り出した。
「――私を殺すのか!?」
拳銃の銃口は、私ではなく彼女の背後へ向けられる。
そこには、彼女の私兵――国連軍の装備を纏った兵士がいた。
乾いた銃声が貨物室に響き渡る。
空薬莢が床を跳ねると同時に、1人の兵士が崩れ落ちた。
兵士の眉間には、見事な風穴が空いている。
すると、将校は自分の拳銃を私の膝の上に置く。
「……これは、あなたが撃ったの――――わかる?」
将校の魔女は静かに立ち上がり、後退る。
気味の悪い笑みを浮かべながら、指を鳴らす。
それを合図に、兵士達は手にしている小銃を私に向けた。
「筋書きはこうよ」
将校は倒れた兵士を抱き起こし、兵士の首元からIDタグを引きちぎる。
「――BWのボス、白き魔女のストレーガは拘束されるものの、身体のどこかに隠していた拳銃を発砲。自分を見張っていた兵士を射殺する」
兵士の死体から自動小銃を取り上げ、弾倉を抜いてから私の足下に放る。
「死体から武器を奪い、輸送機を奪取しようと試みるが銃声を聞いた兵士に包囲され――射殺される」
「そんなことをすれば、私の組織が――」
――黙っていない。
軍拡のために必要な「敵」として立ち回り続けた私の
そして、私以外にその手綱を握ることはできない――
「――あなたは、私。考えていることはお見通しなのよ?」
魔女は私に向けて手を伸ばす。
同時にゆっくりと立ち上がった。
「あなたの子供達は、私と……私達が有効利用させてもらうわ」
緑色の瞳をした魔女が笑う。
人差し指と親指を立て、短く呟いた。
「――バァン」
私が最後に見たのは、数人の兵士が小銃を発射する光景。
いくつもの発射炎の明滅と銃声、銃から吐き出される合金の空薬莢。
その光景を、何故か美しいと感じていた。
適切にコントロールされ、設定され、制御された動き。
規則正しく、同じ間隔で繰り返される明滅。そこには、私が求めていたモノがあった。
命令すれば指示通りに動き、対象を破壊し、意図通りの結果をもたらす。
私が欲したのは――機械だ。
人でも、組織でもなく。
思惑通りに事態を引き起こし、収拾してくれる。
そうした、ギミックそのものだ。
全てのエンターテイメントをコントロールし、弄り回し、飽きれば捨てられる。
それが――私の、楽しみだった。
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