断章:悪しき魔女――『BW』

『――予定通り、目標がに掛かりました』


 部下からの報告をコクピットで聞く。


 機体は既に発進準備を終えている。

 あとは、この『縦穴』から飛び出してしまえば、すぐに戦闘に移行できる。

 それは他の機体も同じだ。



『ストレーガ様、行きましょう』


「全機、出撃――」


 頭上を覆っていたダミーシートが外される。

 ストライカー6機分の縦穴を監視衛星の光学スキャンから隠すための偽装、それが取り払われ、暗い色の空が見えた。 



 私は操縦桿を握り直し、操縦桿上部のスロットルホイールを回す――


 

「――さぁ、天使OHS-X1を出迎えましょうか」


 スラスターから推力を得て、上昇。

 縦穴から飛び出し、上空へと舞い上がる。



 即座にセンサーが機影を捕捉。


 普通のストライカーよりも派手な光を背負うように飛ぶ、純白の機体。

 あれこそが、人類の英知だ。


 人の手で新たに造られた『器』。

 あの白い天使は、ただの機動兵器ではない。


 にとって、あの機体とシステムは脅威になる。

 しかし、あれをただ壊すのはもったいない。

 、もっと有効利用することができる。




『――参ります』


「ふふ……慌ててはダメよ、ちゃんと丁寧に嬲らなきゃ」


 火器管制を稼働し、右腕に装備させているミサイルランチャーの誘導装置シーカーを起動。

 光学センサーが白い機影を捕捉し、誘導の準備が整う。




「始めましょう――」


 メインモニター上の景観に誘導シーカーアイコンが表示され、天使ルクスに菱形上のマークが重なる。



「——天使狩りを……!」


 トリガーを引く。


 単砲身バズーカタイプのガンランチャーから、大型ミサイルが飛び出す。

 それを合図に、部下達が搭乗している〈フェンリル〉が加速。私の機を追い抜いていく。



 あの機体は、私が手にするべき代物だ。

 美しいだけでなく、もっと重要な価値もある。


 ——あれは、私の物……!


 フットペダルを踏み込み、スロットルホイールをさらに回す。

 Gの感触、痛み。それを感じるほどに、私の胸は高鳴る。

 あの機体を手に入れたら、私はより高みに上り詰められるのだ。


 、他とは違う――



 ——、特別なのだ。


 だから、もっと『特別』にならなければならない。




 私は魔女――悪い魔女。

 人々から忌み嫌われ、除け者にされ、命を狙われている。

 

 ―—なら、もっと嫌われるようにならないと……


 与えられた役割は『悪の親玉』。

 さらに、悪役になるには……もっと怖がられなければならない。


 あの白い機体なら、きっと――たくさんの人が恐れてくれるはずだ。



 思わず、舌なめずりしながらも、白い機影を追う――


 白き魔女に相応しい、『器』を得るために――

 



 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る