第10話 入学式は心配ですね

『……色々と言いたい事はあるが、とりあえずは自身の席に着きたまえ』


 館内は静まり返っており、ほぼすべての視点がイザベラへと向けられる。


「す、すみません……失礼しましたァァァァァ!!!」


 イザベラは脱兎のごとくコソコソと走り出し、指定された番号の席へと向かった。


   ■【はぁ……先が思いやられる。ってか、時間が既に遅れてるって事前にわかっていたら、『影纏い』なりで侵入した方がよかったな。何で受付の人は教えてくれなかったんだ……】

   ●【まぁ、過ぎてしまったことは仕方ないですし、前向きに行きましょうよ】

   ■【いや、お前はちゃんと反省しとけよ!】

   ●【は、反省してますよ! あっ、この席ですね】


「し、失礼します」


 周りの人に軽く挨拶をし、席に座る。


「お、お姉様!? 先ほど後ろで何やら騒ぎがあったようですが、まさかお姉様だったのですか!?」


 隣に座っている犬耳黒髪少女、アンナ・サーベラスは目を丸くさせながら質問を投げかけてくる。

 

「す、少し遅れてしまっていて、急ぎはしたんですが……努力も空しくあんな事に」

「なるほど、そんな事があったのですか。でもそんなお茶目なお姉様も可愛いですよ!」

「ありがとうございます!」


 イザベラはやや得意気に答える。


   ■【そういうところやぞ】



 ♂♀♂♀♂♀



 【『魔悪魔悪学園体育館』】


「えー、少々ハプニングが起きはしましたが、このまま式の方を続行させて頂こうかと思います。続きましては、魔悪魔悪学園学園長ガリアス・オードウェン挨拶」


 司会の女性が言葉を締めるや否や、黒髪の男性がゆっくりと歩きながら壇上へと上がった。

 無精ひげを生やしたその男は、ぱっと見くたびれた刑事の様な風貌をしていた。

 男は気だるそうにマイクを持つと、コホンと咳払いをしてから話を始めた。


   ■【くそっ、学園長と言ったら巨乳のお姉さんが相場だろうが。何でイケおじなんだよ】

   ●【聞こえてますよ大助さん。それにガリアス様は20年前に魔人界で問題になっていた『教育の格差問題』を撲滅した凄い御方じゃないですか】

   ■【知ってるよ。100年かかると言われていた問題をたった20年で解決したっていう天才だろ。魔王から直に『魔導士』の称号を授けられた、魔人界でただ一人の男ガリアス・オードウェン。魔人界の識字率を30%から97%まで引き上げたマジモンの化け物だな】

   ●【そうです! ガリアス様以上に素晴らしい御方を私は知らないですよ!】

   ■【……そうだな。それで、そのガリアス様の話をちゃんと聞かなくていいのか?】

   ●【そうでした!】



『あー、ご紹介にあずかりました。ガリアス・オードウェンです。あー、皆さん、よく食べて、よく勉強し、よく寝ましょう。私からは以上です』


 圧倒的な完結性に体育館内の生徒たちがざわつきはじめる。

 まぁ、魔人にとっての英雄的な存在であるガリアスが、わずか10秒ほどの挨拶をして立ち去ろうとしているのだから無理もない。

 ただ、教職員連中が冷静なのを見るとこれが平常運転なのだろう。


   ●【大助さん! 聞いてた話と全然印象が違うんですけど! もしかして、研究室に籠っていた影響でコミュニケーション能力を失ってしまったんでしょうか!】

   ■【時々凄い失礼になるよなお前。まぁ、ガリアスは普段からあんな感じだったぞ。なんて言うか、the天才って感じのやつなんだよな。大方、"時間がもったいない"とかそんな理由なんだと思うぞ】

   ●【意外ですね……確かにあまり表には出られない方ではありましたけど……】

   ■【雑と有能を混ぜたような男だと思えばいいよ】


「えー、続きましては本日、お忙しい中、皆さまの為にご列席くださいました、アルモデウス・ユークリア様、ベルゼ・サーベラス様、マモン・フォルクス様から一言づつお祝いの言葉を頂戴いたします。では、アルモデウス様お願いします」


 先ほどイザベラに話をかけてきた銀髪のイケメン、アルモデウス・ユークリアが壇上へと上がった。


『新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。私からは短く二点だけお話させて頂こうかと思います。まず一点目、魔悪魔悪学園は今年から始ったという都合上、上級生がいません。ですので必然的に皆さんがこの学校を引っ張っていくことになるかとは思います。はじめは色々なプレッシャーがあったりするかとは思いますが、あまり気負いせずに学園生活を楽しんでいただければと思います』


『二点目は、学業についてです。学園生活を健全に送る為に必要な事項が三つ程あります。それは、一に勉強、二に勉強、そして三に勉強です。魔人界では学問への追求を怠る馬鹿者には、生きる価値がないと判断される場合があります。ですので皆さん―――学問には真剣に向かい合いましょう』


 満面な笑みを浮かべながら、アルモデウスは挨拶を閉めた。

 

   ■【うわぁ……相も変わらず気持ち悪いな。こういう奴が優生思想主義を押し付けたりするんだろうなぁ】

   ●【でも学生が学問を第一に注視するのは当たり前なのではないですか?】

   ■【ばーか、学校で一番に学ぶべき事は"学問以外の事"に決まってるだろ。学問の追求なんて別に学校じゃなくてもできるからな。つまりは、目に"見えない"何かに気が付つ能力と、それに対処する能力、これらを身に着ける事こそが"真の学び"だと俺は思ってるよ。実際、社会に出てから気が付いても手遅れな場合が多かったりするからな】

   ●【……ちょっと何を言っているのか理解できません】

   ■【その理解できないを、できるようにするためにこれから学校に行くんだろ?】

   ●【確かにそうでした!】

   

 イザベラに対してこうは言ったものの……俺不登校児なんだよな。

 だって学校に行くよりも、ゲームやってた方が楽しいじゃん?



 ♂♀♂♀♂♀


 そうこうして、入学式は平凡に終わった。


 因みに、アルモデウスの後に出てきた、七魔将の二人の話は正味中身がなかったと言っておく。


 マモンに関しては言うまでもなく、途中で司会のお姉さんに止められていて。

 ベルゼに関しては『筋肉、暴力、筋肉』この三つの単語の記憶しかない。

 

 ……いや、失礼。

 

 正確には『筋肉、暴力、筋肉、暴力』だったね。


「うぅ……やっと入学式の方が終わりましたわね」

  

 疲れきった顔でアンナがこちらを見る。

 

「どうして学園の人はマモン様を呼んでしまったのでしょうか」


 いつもなら全工程ボットと化すイザベラですら疲れ切った顔をしていた。

 ちなみに、俺はこっそりと二度寝をしていた。 


「おそらく勝手に付いて来たのではないでしょうか? 何かと家の兄に対して、露骨な対抗心を出している方ですし」


   ■【違うぞ、ただ実験に使えそうなモルモットを探しに来ただけだと思うぞ】

 

「……ソ、ソウカモシレマセンネ」


 二人は軽く雑談を挟みながら、次に行われる『適性試験』の会場へと向かった。


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もしも俺が超極悪難易度の鬼畜ゲーに登場する死亡エンドが確定している悪役令嬢になってしまったら 猫田猫宗 @nekotanekomune

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