魔悪魔悪学園編
第9話 とうこうび
桜の花びらがそよ風に乗り、私の頭の上にゆっくりと落ちる。
大助さんから『イザベラの主導権はお前が務めろ』と強引に言い渡されてから、早三日が経とうとしていた。
私は幅の広い桜並木の前で、満開の桜に目を奪われながら痛む胃を抑えるかの如く胸に手を当てていた。
「はぁ……凄い奇麗だけど緊張でそれどころじゃないなぁ……」
―――四月一日 今日は魔悪魔悪学園の入学式当日である。
■【なんだ? 緊張してるのか?】
●【はい、緊張してお腹が痛くなってきました……】
■【ちゃんと朝トイレには行ったのか?】
●【女の子に対してなんて質問してるんですか!!!】
普段通りの部屋着に、ボサボサの黒髪。
目の下に深いクマが出来ている大助さんが寝ぼけた顔でそこにいた。
■【まぁ、三日間で出来る事はやったし大丈夫じゃね? 今お前に単純な魔法戦で勝てる奴なんてこの学園の生徒にはいないだろうし、筆記の方も別に問題なかっただろ?】
●【そういうんじゃないですよ。魔悪魔悪学園は魔人界全土からいろんな方が来るって話じゃないですか! 四大貴族の一員として、恥ずかしい振る舞いをしないように気を付けないと……】
■【あまり気負いしすぎるなよ。お前は頭は良いけど、いざという時に限ってポンコツかます癖があるからなぁ】
●【わかってますよ! だからこうして校舎に入る前に、心の準備をしてるんじゃないですか!】
イザベラは魔悪魔悪学園本校舎前にある桜に囲まれた一本『魔王桜道』の前で、心の準備を行っていた。
■【それならいいんだけどな。一応今日のスケジュールを確認しておくけど、まずは入学式に出席して、その後に色々な適性検査をした後にクラス発表って流れでいいんだよな?】
●【はい、確かそうだったと思います。基礎魔力を中心とした全体的な機能テストを行うみたいですね】
■【ぶっちゃけ、今の知能値ならほとんどSクラスは確定したも同然じゃないか?】
魔悪魔悪学園には大きく分けて5つのクラス分けが存在する。
Sクラス …… ぶっちゃけ最強。最早言う事なし。
Aクラス …… 最強とまでは言えないけど、普通に優秀。
Bクラス …… まぁ、うん。普通だね。
Cクラス …… 頑張りましょう。
Dクラス …… もう帰っていいですよ。
といった様に個人の成績によってクラスが区分けされているのだ。
元々、魔悪魔悪学園は魔人界で初めて出来た超大型の学校という事もあって、人間界側へ魔人界の発展具合をアピールするために建てられたと言われている。
まぁネタバレをしてしまうと、『四大貴族の子供達が一つの世代に重なった! よし、お祝いにお父さん達で協力して皆が集まれる学校作っちゃおうよ!』というアホみたいな理由で出来てしまったのがこの魔悪魔悪学園の正体だ。
【四大貴族のパパさんたちが本気を出し過ぎてしまった件について】と言ったところだろうか。
●【油断は禁物ですよ! 私に限らず、皆さん本気でSクラスを取りに来ていると思うんです、だからそう簡単にはいかないと思ってます】
■【まぁ、Sクラス卒業=魔人生勝ち組なんて言われてたりしたら、そりゃ皆ガチで取りに来るのは当たり前だよな。何なら爵位ももらえるって話らしいしな。ってか時間の方は大丈夫なのか?】l
現在時刻 7時45分
入学式前点呼開始時刻 8時00分
●【まだ15分もあるので大丈夫ですよ】
■【……あれ? 確か点呼開始は8時からじゃなかったか?】
●【そうですよ? だからまだ15分あるんじゃないですか】
■【……ちなみに聞くけど、集合場所までどれくらいの時間がかかるのか知ってたりするのか?】
●【……それはわからないですけど、エレベーターを使えば一瞬じゃないですか】
■【いや、お前……
●【……あれ? ありませんでしたっけ? 『ぱりきゅあ』の学校にはあったような気が……】
■【馬鹿野郎! アニメの世界とこっちの世界とでは科学のレベルが違うだろうが! ってかそもそも体育館に行くのにエレベーターなんて使わねーだろ!】
●【それ急がないと駄目なやつじゃないですか!】
■【そうだよ! 納得してないではよ走れ!】
イザベラは全速力で駆け出し、桜並木の道を抜けて本校舎前まで到着した。
「わぁ、物凄い大きさですね。途中の列車から少しだけ見えてはいましたけど、実際に近まで来ると迫力と言うか、威圧感と言うか物凄い圧の様なものを感じますね」
魔悪魔悪学園本校舎、通称【バベル】は他に類を見ないほどの大きさをしており、旧魔王城を新しく改築して出来たという都合上、何かと威圧感が凄かったりする。l
イザベラは入り口で受付を済ませ、急いで集合場所である【魔悪魔悪体育館】へと向かった。
■【さっきまで寝てた俺も悪いとは思うけど、ほんと気をつけろよ!】
●【ごめんなさいごめんなさい! エレベーターとか関係なく、もっと早くに着くよう調整するべきでした!】
現在時刻 7時59分
眼前にて、体育館の扉がゆっくりと閉じようとしていた。
■【このままじゃ間に合わない! 飛べぇぇぇ!!!】
「はぁぁぁぁ!! とうっ!!!!」
イザベラはとてつもない勢いでヘッドスライディングをかまし、閉まりかけている扉の間を上手くすり抜け頭から壁に着地した。
現在時刻8時00分
■【ミッションクリア】
●【やりました!】
お互いにグッドサインを出しながら、何とか間に合った事に安堵する。
が、しかし。
「え、えー皆さん静粛に。そのまま来賓の方々を拍手でお迎えください」
周囲を見渡すと、式は既に始まっているように見え、何なら七魔将の面々がすぐ目の前に降臨していた。
『だ、大丈夫かね君。……いや、もしかしてイザベラ君かね!?』
銀髪碧眼の黒いスーツを着た紳士が、やや心配そうな面持ちでこちらを見ている。
その男の顔は非常に整っており、『エリートイケメン』という言葉が似合う風貌をしていた。
「お、おはようございますアルモデウス様!」
ひっくり返りながらもイザベラは元気に挨拶をする。
その様からは貴族の『き』の字も連想する事は出来ない。
俺はそっとテレビのリモコンを手に取り、現在の時刻を確認する
8:05分
あっ……。
ひっくり返りながら挨拶をるするイザベラ、心配そうな顔をしているアルモデウス、そして静まり返る体育館。
■【やっちまったか?】
どうやらイザベラの学園生活は、
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