第8話 選択

【『(仮)空想神殿』】


 イザベラがママン、パパンと食事をしている間、先程までイザベラがいた『頭の中の空間』を探索することにした。


   ■【うーん。とりあえずは色々と周ってみたけど、特に違和感ある場所はなかったな】

   ■【いたって普通の俺の家の複製って感じだ。細かい物に関しては、イザベラが不自由なく過ごせるようにと無名が準備したものだろう】


 さてと、今のうちに日中に起きた出来事に関してまとめておこうか。


 今現在のエンカウント状況はこんな感じか。


 サーベラス家の『レオン』と「アンナ」

 ドラゴニア三兄弟の「マリア」「ルシア」『アレン』

 魔王軍七魔将【沈黙卿】「マモン」

 魔王軍七魔将【戦闘卿】「ベルゼ」

 イベント【寡黙なる羊】「ドルバラ」


 この中で特に慎重にフラグ管理をしなくちゃいけないのは、メインの『レオン』と、隠し攻略対象の【根暗珈琲】の『アレン』だな。


 レオンに関しては来週からの魔悪魔悪学園でしっかりと好感度を上げておく。

 アレンに関しても地道にエンカ数を稼いで、イベント【龍の戴冠】の発生条件を満たしておく。


 とりあえずはこの2点をメインで攻めつつ、他のイベントの管理をして5年後に備えるといった所か。


   ■【……………………】

   ■【はぁ………………】

   ■【……………………】


 俺はある程度の情報をまとめ終え、おもむろにプライベートカーテンを開け外の景色を観る。

 そこには家族と幸せそうに食事をするイザベラの姿があった。


   ■【……………………】

   ■【うっし、頑張りますかね】


 俺はになるまで仮眠を取った。



 ♂♀♂♀♂♀



 【『(仮)空想神殿 続』】


   ●【大助さん! 起きてください!】

   ■【んっ~…………】

   ●【だぁぁぁぁいすけさぁぁんっっっ!!!】


   ■【………………】

   ●【………………】


   ●【……お兄ちゃ―――】

   ■【どうしたんだい、我が妹よ】


   ●【ちょっと! 絶対起きてたでしょ!? どうして寝たふりなんてするんですか!】

   ■【ふぅ、イザベラ君は何もわかってない】

   ●【……どういう事ですか?】


 怪訝そうな眼差しで俺の事を見る。


   ■【"妹"が起こしに来て起きない兄なんていないないだろうが!!!】

   

   ●【……もしかして、大助さんって妹萌えってやつなんですか?】

   ■【まさか? 俺は"二次元妹"が好きなのであって"妹"が好きというわけではないよ。どちらも"妹"であることに変わりはないけど、この2つには宇宙よりも広い"差"があるという事を覚えておいてほしい】

   ●【はぁ、違いなんて私にはわからないですし、わかりたくもないです。それよりも、もう少しで深夜帯にはいりますよ? 確か、『2時間程変わってほしい』と仰ってましたよね?】

   ■【……あぁ、そうだったな。ちゃんと覚えているよ。じゃ、さっそくチェンジするか】


 俺はスイッチボタンを押して、内と外とを強制的に入れ替えた。


「ふぅ、さっきまで男の体だったせいか、なんか変な感じがするな」


   ■【イザベラ、机の上に積んであるDVDは勝手に観ていいからな】

   ●【おぉ! 凄いですね! 色々な格好をしている女の子が沢山います!】

   ■【それは魔法少女物と呼ばれてるジャンルのアニメで、俺と妹が持ってるやつをかき集めといたよ。あと、アニメを見るときはプライベートサウンドとカーテンを、閉じるのが俺の世界のマナーだったりするから気をつけてな】

   ●【わかりました! では大助さん、用事の方が終わったらまた声をかけてくださいね!】

   ■【うーい】



 ―――現在の時刻は11時27分



 0時には図書館に着いてなくちゃいけないから急がないとな。


 せっせと急ぎ足で歩き、城門付近まで来た所で運悪くカミラと出くわしてしまった。

 

 ゲっ……魔力を温存したくて【影纏い】を渋った瞬間にこれか……


「おや? お嬢様、どこかへと行かれるのですか?」


「……少し外の空気を吸いに行こうかと」


「……あまり遠くへと行かれないようにお願いしますね。では、私は仕事の方に戻らせていただきます」


 カミラはそう言い、スタスタと屋敷の階段を登って行った。


 ふぅ……あぶねぇっ!!!

 カミラってこんな時間まで仕事してんのかよ……バリバリのブラック労働やんけ。 

 とりあえずはまぁ、先を急ぐか。 

 なら図書館までなら飛んで30分ほどといった所か。


 俺は城門から外に出て、背中にある黒い羽を大きく広げる。


 実際に飛ぶのは初めてなんだけど大丈夫かな……


 意識を羽に集中させて。背中の筋肉を使いパタパタと1分程羽を羽ばたかせ、『飛ぶ』感覚に体を慣れさせる。


 よし、これならいけそうだな。

 力まずにゆっくりと集中!


 徐々に体が宙に浮いていき、そのままゆっくりと前進した。

 2、3分程フラフラと飛行し、段々と速度を上げ加速していく。


 ってか本来であれば真っ暗で何も見えない訳だが、その辺は流石は『吸血鬼』といったところだな。

 日中の時よりもに景色が見える。

 いや、見えるというよりかは、と言うべきか。


 成程、これがエコーロケーションってやつか……

 目をつっぶっていても周りの地形や音が鮮明に把握する事ができる。


 その後、全力で20分程飛行し魔王立図書館の入り口まで到着した。

 


 ♂♀♂♀♂♀



【『(夜)魔王立図書館前』】


 

 現在時刻は11時55分。


「……周囲に人影はなしと」


 静寂の帳が辺りを包み込んでおり、街灯の光がゆらゆらと怪しく光っている。

 そして、気温はやや低いのか若干の肌寒さを感じ、人間界でいうところの春前といった程だった。


「ふぅ、さてと。さっさと


 俺は図書館の門をゆっくりと開け、中へと入っていく。

 どうやらちゃんと閉めずにおいてくれたらしい。


 足音を消しながら、へと繋がる隠し扉の前まで行く。


「……どうやらゲームの時とこの辺は変わってないんだな。5年前だったりするから堕ちてはいない可能性も考慮してはいたけど、まぁ現実はどこまでも悲しく残酷って事か……」


 俺が隠し扉に対して軽く3回ノックをすると、それに応答するかのように扉が右回転に回り道を開いた。

 そして、そのまま一歩足を踏み出し隠し通路に侵入したその瞬間、が俺の鼻に悲報を告げに来た。


 ……クソが。

 隠し部屋があるだけで、まだやっていない、計画の段階でしたっていう都合のいい展開を望んではいたけれど。


 だったか。


 俺は一段一段と階段を下っていく。

 下るたびにの臭いが強くなっていく。

 

 俺は一段一段と階段を下っていく。

 その惨劇の跡、つまりは人間の血の跡が通路一帯にびっしりと刻まれていた。


 俺は最後の階段を下り、目の前にある一本道の通路を進む。

 すると、いくつかの施錠させたドアを見つけた。


 【血爪のオオバサミ】


 周囲にこべり着いた血を使い、魔法の血で出来たハサミを作りだし施錠された部分を破壊た。


―――俺はゆっくりとドアを開く。


「………………少し待っててな」


 俺はそれ以上何も言わずに再び階段を登り、そのまま隠し扉を元に戻してから中央ホールへと向かった。


 タンタンタンと足音を鳴らしながら、今朝ドルバラと会った所まで向かった。 



 ♂♀♂♀♂♀



「こんばんは、ドルバラ様」


 目の前で、優雅に椅子に座り本を読んでいる男に声をかける。

 

「おやぁ、本当にいらっしゃるとは思いもしませんでした」


 ドルバラは気持ちの悪い笑みを浮かべながらヌッと立ち上がり、俺の肩に手をそっと置く。


「それで、相談したい事とは何で―――」

 

 唐突に、ボチャと何かが床に落ちる音が聞こえた。

 その音に反応したドルバラはゆっくりと視線を下に移し、床に落ちたを視認する。


―――どうやらそれはまだピクピクと動いており、周囲に血の円を描いていた。


「あぁ、が、がぁあぁああぁああ!!! 腕がぁ、私の腕がぁあぁああぁぁ!!!」

 

 ドルバラはたまらず地面に手を付き、すぐさまこちらをキッと睨む。


「……どうしてこんなことをしたんですかイザベラ様!!!」


 鮮血のプールは瞬く間に広がり、ドルバラ自身に自分の"命の終わり"を強く認識させる。


「……ようドルバラ。突然でわるいんだけどよ、お前は【沈黙の羊】のって知ってるか?」


「はぁはぁ……一体何をおっしゃられているのですか? それにその喋り方……」


「なに、作り方は簡単だ。まずは小さな子供を準備します。その後は、助けを呼ばれないように声帯を特殊な魔法で切断し、次に同じ用法で目を完全に潰して、最後は手と足を鎖で縛れば、はい【寡黙なる羊】の完成だ。どうだ簡単だろ?」


「………………」


 ドルバラは大量の汗を流しながら沈黙している。


「おいおいおい、ドルバラ君さぁ。お前は今まで散々、自身が作った子供達、【寡黙なる羊】達で荒稼ぎしてたってのによ、今度はお前がしちまうのか? なら、?」


「なっ!? 待っ―――」


「【血爪のオオバサミ応用『盲目の羊』】」


 ドルバラの血でオオバサミを作成し目を完全に破壊する。

 同時に、叫び声をあげる危険性があったのでドルバラの喉もついでに破壊しておいた。


「ぐっふぁ……がふが……ぐっ」


 口から大量の血を垂れ流しながら、ドルバラは痛みにもだえ苦しむ。


「た゛……す゛け゛……て゛……」


「……お前が人間の貴族連中に売りさばいた子供達も、全く同じ言葉を吐いていただろうよ。お前はそんな子供達のに聞く耳を持ったのか?」


「と゛…う……して゛……」


「どうしてこんな事をしたのかって? なに簡単はお話だ、お前はここから5年後に全く同じことを達にするんだよな。何を言っているのかわからないとは思うが、もうお前がその疑問を持つ必要性はない。『全てを救う』なんて言う耳当たりのいい言葉の裏では必ず、"誰かが"その分の不利益を被っている。お前には多少なりとも悪いと思ってはいるがまぁ、"俺"の『パーフェクトエンド』の為の犠牲になってくれ、さようなら」


「待っ―――」


「【平等なる氷槍】」


 無数の氷槍が地面から突き出てきて、ドルバラの体を余す所なく貫く。


「ふぅ、これでとりあえずはGイベント【寡黙なる羊】は潰し終えたと」


「………………」


「カミラ、そこにいるんでしょう? 出てきなさい」


 俺の言葉に反応し、柱の後ろからスッとカミラが出現した。


「……お嬢様、ここで一体何をやっておられるのですか? いや、……


 ……"もしかしたら"と思って、てきとうに名前を呼んでみた訳だけど、……本当にいるんかい!

 たまにあるよね、意味もなく『誰かいるのか!?』って呼んでみたりする事って。


「何を言っているの? 私は正真正銘、本物のイザベラ・スカーレットですよ」


「……そのは確かに本物かと思われます。ですが、は違うのでしょう? 旦那様と奥様も昨日の夕食の時点で気が付いておられましたよ」


 ……いつかは『バレる』だろうとは思っていたけど。


 まさか、とはねぇ……


「……もしかして、お父様の"あの件"という話を切りだした時点で、既に気が付いていたという事ですか?」


「はい。わざわざボカしてお聞きになられたのもそれが狙いかと思われます。さらに、昨日あなたは大量の食事をされましたね?」


「確かにしましたわね。いつも通りとても美味しかったですよ?」


「実は昨日の食事には、一皿だけ男性の血液を混ぜておいた物があったんです。本来のイザベラ様はしか口にされません。しかし、昨日は何故かお飲みになられていました」


「……なるほどね、だからだったって事か。沢山皿を出して注意力を散漫化させ、その中に男の血液を忍ばせておいたと、そりゃあ気がつくわけないわな」


 これは、羅武螺部学園編にはなかった設定だな。

 うーん、イザベラは男性の血液を飲まないのか……完全に墓穴を掘っちまったな。

 少々、スカーレット家の連中をを舐めていたんだろうか?

 いや、常識的に考えて親がを見間違うわけねーってことか。


 ……対策をもう一度練り直す必要性が出てきたか


「……あぁ、正解だよカミラ。俺はイザベラじゃない。正確には中身だけイザベラじゃないというべきか」


「……単刀直入に聞きます。はなんですか?」


 カミラは隠す気ゼロの殺気を纏いながらこちらを睨んでいる。


 ……これは返答をミスったら死ぬかもな。

 だけど、俺の目的は依然変わらない。


「イザベラを含めた"全て"を救う為に俺はここにいる。無論、イザベラ本人の許可は得ているし、今日の晩飯時のイザベラは本物で間違いない。つまりは、ちゃんとイザベラの安全はこちらで保障しているって事だ」

 

 しばらくの沈黙の跡、カミラは口を開く。


「……どうやら嘘は言っていないようですね。とりあえずは貴方の言葉を信じましょう。詳しい話はこの後、旦那様の前でしてもらう事になっていますのでその時に詳細は聞きましょう。ちなみに、この尾行は旦那様の命令でしたので悪しからず」


 うわぁ……やっぱりスカーレット家のやつらは総じて知能値が高いんだな。

 昨日は俺の演技に騙されてくれて助かったと思ってはいたけれど、ハメられたのはだったか。


「おーけー、了解した。とりあえずは、の後始末と、地下に囚われている子供たちの救助が先だな。これは責任でもあるわけだからな」


 当然の話だ。

 この図書館が建っている、この土地の管理者はスカーレット家の訳なのだから、ここで起きた惨劇の後始末と、その責任を負うのは至極当然のことである


「かしこまりました。ではドルバラ様の後始末は私が務めますので、スカーレット家次期党首であるイザベラ様は地下の者たちをお願いいたします」

 

「俺の名前は大助だ。あと、ここで起きた事はまだイザベラには話すな。子供が受け止めるにはあまりに悲しすぎるからな」


「……わかりました。こういった"汚い仕事"は本来であれば我々の仕事です。それをお嬢様の目の届かない所で処理してくれたことには感謝しています。ただ、あまり調子には乗らないでくださいね?」


 カミラの顔はにこやかに笑ってる、だけど残念ながら目は笑っていなかった。



 ♂♀♂♀♂♀



【『魔王立図書館の地下(羊小屋)』】


 ドルバラの後処理はカミラに押し付け、俺は先ほどの鎖の扉の前まで戻ってきた。

 俺はドアを静かに開けて中を見渡す。


 全員が例外なく服を着せられておらず、目と首元に大きな傷跡が残っている者が多く見受けられた。

 数秒なんて声をけるべきか悩みはしたが、結局答えは見つからなかったから勢いで何とかする事にした。


「よう、お前ら。こんなところで何をしてるんだ? 一体誰の許しを得てここにいる」


 残念ながら、返ってきたのはただの沈黙だけだった。

 流石にこれはなかったか……


「……単刀直入に言う。まだと思う奴だけ俺の声がする所まで来い。その地獄から救ってやる。もう生きる気力がない、ここで死にたいですという奴は何もしなくていい、ここでそのまま死ね。諸君らがここまでに理不尽に、不条理に、無慈悲に扱われてきた事を俺は知っている。だけど、俺は死にたがっている奴を救おうと思うほど。未来を、生き方を選ぶのはいつだって諸君ら自身でなくてはならない」 


 彼らが心身ともにズタボロなのは知っている。

 俺なんかが想像をする事ができないほどの地獄を経験してきているのだろう。


 だけど、俺は彼らに問う責任がある。


 『まだ、自分の人生に、命に責任を持つことが出来るのか』と。


 しばらくしてから、じゃりじゃりと体を引きずりながら近づいてくる音が聞こえてくる。

 その音は次第に大きくなり、その部屋に囚われていた者全てが『まだ生きたい』と訴えかけてきた。


「……なるほど、了解した。あと、先に言ってはおくが、私は『諸君らの選択は正しかった』などと言うつもりは毛頭ない。つまりは、……『私のあの時の選択は正しかった』と言えるような未来を諸君ら自身の努力でつかみ取りたまえ。幸せは"ただ願うだけ"では手に入らない、これだけは努々忘れるな」


 完全に厳つい総帥みたいなしゃべり方になっちゃったけど、……まぁ彼らがちゃんと成長し、幸せを掴んでくれる事を切に願う。


 その後、ドルバラを奇麗に処理したカミラと合流し、地下に囚われていた子供達をスカーレット家に運ぶ手伝いをカミラにさせ無事に帰宅した。



 ♂♀♂♀♂♀



「おかえりなさいイザベラ。いや、大助君」


 帰宅するや否や、イザベラの父レイブンからの呼び出しを食らい書斎まで連れてこられた。

 おそらくこいつ……何らかの方法で盗聴してやがったな?。


「ごきげんよう、レイブン公爵」


「……先に言ってはおくが私は多くを語るつもりはない。私からの要求はただの一つだけだ……」


 先ほどのカミラとは比べものにならないほどの殺気が俺を襲う。

 手からは嫌な汗が止まらずに流れ、震えが止まらない。




「……娘を頼む」


「……は?」


 要求された内容が理解できなかった。


 何故レイブン公が頭を下げているんだ? 意味が解からない。


「……それはどういった趣旨の発言でしょうか?」


「なに、他意はない。結局のところ、娘が自分で決めた事なのだろう? であるのであれば父親ができる事なんて一つしかあるまい、"ただ"『よろしくお願いします』と任せる事だけだ。最初は拷問にでもかけようかと思ってはいた訳だけど、一緒に食事をしている時のイザベラの顔を見ていたら、その気も失せてしまってね。とても"幸せそう"な顔をしていたよ」


 レイブンは少し優しい顔を、父親の顔をしながら俺の方を真っ直ぐと見る。


「だから、娘を君に任せる事にした。詳しい話を聞きだすつもりはないからその点は安心してほしい。君にも何か言えない事情があるのだろう」


 ……ここまで物分かりがいいとは思わなかった。


 いや、『』たったそれだけの事なのかもね。 

 

「俺の命に代えてもイザベラさんの安全は守り抜きますよ。悪い虫が寄ってきた場合も同様です」


「……とりあえずは、その言葉を信じるとしようか。それと、君が連れてきた子供たちの処遇についてだが、彼らの傷が治った後はここで働いてもらう事にしたよ」


「……やっぱり、捨て子か売られた子達だったか」


 作中にそういった描写がなかったからこれは完全な推測でしかないが、あれだけの子供を攫っておいて今までバレなかったってなんて事は考えにくい。

 つまりは、一番高い可能性としては"誰も探していない"というのが現実的という事だ。

 誰も探していないのだから、誰もいなくなったことに疑問を持たない。

 恐ろしい話だ。


「そのようでしたね。ちなみに、売った親の処遇については私に任せてください」


 うわ、こっわ……どうやったらができるんだよ……

 さっき睨まれた時の非じゃない恐ろしさを感じ、足がガクガクと震える。


 ってか調べ上げるの速いな。

 盗聴するのと同時進行で調べてたって感じか。


「は、はい」


「さて、今日はもうお休みになってください。後はこちらで処理しますので」


「……そうさせてもらいます。おやすみなさいパパ」


「貴様殺すぞ?」


 ガチギレしそうなレイブンから逃げるように部屋に戻る



 ♂♀♂♀♂♀



「ふぅ……これでとりあえずは安定期に入ったかな。後は来週に備えて魔法の練習と、ある程度の基礎知識の勉強をするくらいか」


   ■【おーい、イザベラ! こっちの用事はもう終わったからプライベートサウンドオンにしていいぞ】

   ●【zzz】

   ■【……寝てらっしゃるな。まぁ、丁度いいか】


 テレビを垂れ流しながら、イザベラはスヤスヤと寝息を立て寝ていた。

 俺はその姿を確認した後に、例の姿鏡の前に移動した。


「HEY 無名 女神の呼び方 検索」


『ピロン 呼んだ呼んだ!?☆』


 すると、ピンク色の髪の毛を持つテンションがやたらと高い女神が姿鏡の前に現れた。

 

「少しは時間を考えろ、近所迷惑だろ。あと、女神ってのは夜行性だったりするのか?」

 

 現在の時刻は深夜1時42分。

 一般的な子供はもう寝ている時間帯だ。


『まさか☆ 私は三時間も寝れば十分なタイプってだけさ。それに、私から言わせれば"人間"の方が神よりもよっぽど寝ていないとは思うけどね。神でさえ週末は休むっていうのに、君達人間は平気で10連勤とかするでしょ?』


 ぐうの音もでない。

 

「確かにそうかもな。まぁ、休憩の大切さなんものは、人間死んでみたりしない限り本当の意味での理解なんてできないとおもうぜ?」


『君がそれを言うとは甚だ滑稽だね』

「全くだ」


『それで? 私を呼び出したのはどんな要件があっての事なのかな?』

「あぁ、そうだったな。ちょっと色々と頼みたいことがあってな」


『ふむふむ。なんなりと聞かせたまえ』

「頼み事は二つあって。一つ目がステータスの表示機能を追加して欲しくてな」


 この世界、つまりは『イケわく』においてステータスというのはほとんど飾りの様な物だった。

 ステータスをカンストしてようが何だろうが、『そもそも絶対に勝てない敵』というものがあまりにも多かったからだ。


 しかしだ、


『なるほどね。でもステータスなんて見なくても何とかなるんじゃないかい? ステ要求型の即死イベはどうやら回避できてるようだしさ』

 

「一番の問題点は『手加減が出来ない』という所だ」

『あーそういう事ね。確かに"深夜帯"だと力加減を誤って殺してしまう、なんて事とか出て来るかもしれないね』


 そう、イザベラの固有特性【宵闇の花嫁】の効果は『夕方から朝方にかけて全ステータスが上昇していき、深夜0時時点で最大二倍になる。日中時は全ステータスに×0.7倍』

 これが結構厄介なんだよな。

 現在のステータスを正確に把握してないと、深夜ゼロ時の時に友達の事を軽くドついたら、『やっば、頭が飛んじゃった☆』みたいなことが普通に発生する可能性がある。

 

「できそうか?」

『当然できるよ☆ イザベラちゃんとその情報を共有できるようにしておく?』


「……いや、しなくていい。あくまで俺にだけ見えるようにしてくれればいいよ」

『了解☆ それで二つ目の願い事はなんだい?』


「二つ目は俺とイザベラの今現在行われている昼夜交代制の変更だな。基本的にはイザベラに主導で動いてもらって、いざと言う時には俺が出て来れるように調整してほしい」

『ふーん、また何とも地味なお願いだね。てっきり、最強チート装備が欲しいとか言うのかと思ったけど』


「チート武器や能力なんてこの世界の連中はデフォで持ってんだろ。イザベラの【宵闇の花嫁】なんてのも普通にぶっ壊れだからな」

『もちろん変更する事は可能なんだけど。どうして【もう一人の僕システム】に切り替える必要があるの?』


「単純なリスクケアが目的だな。今回、スカーレット家の連中に簡単に偽物ってのがバレちまったわけだ

からな、この先の事を考慮するのであれば俺はあまり出しゃばらない方がいいのでは? と思ってな。それに、せっかくの学園生活だぞ? 本人が楽しまなくちゃ駄目だろ」

『……ふふん☆ おっけ、ちゃんとした理由があるのであればその願いを聞き届けてあげるよん。……やっぱり、君を選んでよかったよ』


「当然だ。冷静沈着イケメン最強の俺以外に務まるわけがないだろ」

『……馬鹿だなぁ』

「だにィィィィィィィィィ!!!」

『さてと、じゃあ私はもう行くね。朝起きたら今注文した通りになっていると思うから、イザベラちゃんには宜しく言っておいてね』

「助かる。お休み無名」

『おやすん☆』


 無名は振り返りざまにウィンク可愛く決めてからその姿を消した。


「……ふぅ。とりあえずは俺も寝るか」



 来週、つまりは三日後の学園生活までには準備を完全に済ませておかないとな。


 

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