第7話 こーひー

 魔王立図書館から200メートル程離れた場所にその店はあった。


 人目の付きにくい裏路地に立地し、時代を感じさせる外装をした小さな店の名前は『エルダードラゴンズ』。

 それはかつて四大貴族が密会をする際に使用していたとされる老舗カフェ店だ。

 しかし、今はもうその風習は廃れ『普通のカフェ』として現在を生きている。



【『エルダードラゴンズ前』】



「相も変わらず辛気臭い店だな」


 レオンはややため息気味に辛らつな言葉を吐き捨てる。

 まぁ、貴族育ちのレオンからすれば、この店は良く表現しても馬小屋といった所だろうか。


 ……そして何故かレオンが背負っているアンナの尻尾が、俺の顔にペチペチとメトロノームの様に当たり続けている。


「そうですか? 私はこの店の雰囲気は結構好きですけどね。風情があっていいじゃないですか」


「はっ、風情ねぇ~。昔は四大貴族が囲っていた特別な店だったのかもしれないが、今となってはただのオンボロカフェでしかない。しかも、『龍の誇り』がどうたらで俺達からの支援金の一切を受け取らないときた。全く持って意味がわからねーよ」


 機嫌が悪いからなのか、少し言葉に棘があるように感じた。


「……もしかしてまださっきの事を引きずっているんですか? レオン様が失禁なされていたことは誰にも言わないのでご安心ください」


「いや漏らしてねーよ!!!」


 レオンの鋭いツッコミが入る。


「ふふ、いつものレオン様に戻りましたね。私は今のレオン様の方が好きですよ?」


「……馬鹿が」


 やや顔を赤く染めながら、ドアノブに助けを求めるかのように手を伸ばす。

 

 ……違う。

 俺は男だ俺は男だ俺は男だ俺は男だ俺は男だ俺は男だ

 俺にショタの趣味はない。

 あくまで『パーフェクトエンド』の為にやっているのであって、レオンの笑顔が見たくてやっているわけじゃない。

 俺は男だ俺は男だ俺は男だ俺は男だ俺は男だ俺は男だ



 すると、ドアの向こう側から何者かが声を上げながら近づいてくるのが分かった。


 ……ちょっと待てよ。


 あっ! 


『店の前で……』


「レオン様、すぐにドアから離れてください!」

「ん? どういうこ―――」


『イチャイチャするなぁぁぁ!!!!』

 唐突な破壊音がレオンを襲う。次に気が付いた時にはレオンは後方に吹き飛ばされており、アンナは空中に投げ出されフライハイをしていた。


 なっ!?

 馬鹿野郎っ!


 咄嗟に駆け出し、何とか落ちてくるアンナを受け止めることには成功した。


「ふぅ……アンナさんが軽くてよかったです。レオン様の方は大丈夫ですか―――」


 うん。どうやら大丈夫ではなさそうだった。

 建物の壁に強く激突し、完全に目を回してしまっていた。


 ……いやいや、普通の人間だったら今のでバラバラになって死んでたぞ、おっかねーな。


「ちょっとあんた達! 店の前で堂々と夫婦漫才かますとはいい度胸してるわね! 死にたいの!?」


 声のした方を見るとそこには、金髪ツインテ―ルの小さな女の子が、キリっとした目つきで仁王立ちしていた。

 ふむ、どうやらここが目的地であるのは間違いなさそうだ。

 

「ご、ごめんなさいちゃん! そんなつもりはなくて……後でこの店で一番高いコーヒーを頼むつもりだから許して?」


「え!? それ本当!?」


 青藍せいらん色の瞳を宝石の様に輝かせながら『ルシア・ドラゴニア』は満面の笑みを浮かべていた。

 おそらく、このメスガキは万札ビンタが弱点に違いない。


「……って、イザベラじゃない。こんなところで何をやっているのよ、もしかして貧乏人を笑いにでも来たのかしら?」


「違いますよ! 単純に休憩しに来ただけです! ほら丁度お昼時ですしね?」


「……なるほどね、わかったわ。客として来たのなら勿論歓迎してあげる、感謝しなさい!」


「ありがとうございます!」


 どこか上から目線な少女に先導され、サーベラス家の二人を両の手で引きづりながら店内に入っていった。



【『エルダードラゴンズ店内』】



「―――あらっ、イザベラちゃんじゃないの! いらっしゃい!」


 店内に入って早々、とある女性が俺の事を見るや否や駆け寄り、とんでもない力で抱擁をしてきた。


「うぐぅ……く゛る゛し゛い゛て゛す゛ぅぅぅ!!! マ゛リ゛ア゛さ゛ん゛!!!」


 二つの大きな"双丘"に顔が圧迫されてうまく息ができない。


 ……ふふ。 


「あっ! ごめんなさいね。久しぶりだったからつい、はしゃいじゃったわ☆ 私もまだまだ子供ね」


 長い金髪を後ろで一つに纏め、何故かアメリカンなTシャツを着ている巨乳女性の名は『マリア・ドラゴニア』。

 年齢は23歳で、好きな食べ物はサンドイッチと珈琲。

 そして結婚歴はなし。

 なんでそんな事を知っているのかって? ……五年後もそうだったからさ。


 そして、今現在この店『エルダードラゴンズ』の店主を務めている存在でもある。

 ルシアとは歳の離れた兄弟で、『マリ姉』と呼ばれ尊敬されている素晴らしい御方だ。

 しかし、兄弟と言ってもその見た目はあまり似ていない。

 まぁ、とは言わないがね。


「私も久々にマリアさんに会えてとても嬉しいです!」


「もう! 嬉しいこと言ってくれるわね! ……あれ? もしかして後ろで伸びている二人はサーベラス家の方かな?」


 マリアは俺が引きづりながら連れてきた駄犬二人に視線を移す。


「はい。アンナちゃんは図書館で起きたいざこざで気絶してしまって、レオン様は先ほどのルシアさんの攻撃で……」


「はっ、なっさけない。誇り高き四大貴族の男だっていうのに、こんな可愛い女の子の攻撃一つ躱せないなんてね。それと、はい、これ。この店で一番高い珈琲よ。私が直々に入れてあげたのだから感謝しながら飲むといいわ!」


 可愛いウェイター姿のルシアが自信満々に一つの珈琲を俺の前に置いた。

 口調はあれだが、確かに良い匂いはする。


 が、しかし


「……ルシアさん、先に言っておくと、私はかなりの珈琲マニアなんです。……お美味しくない物を提供していまった時のはできているんですよね?」


「……え? 覚悟?」


 先ほどまでの自信満々な態度のルシアは一瞬にして消え去り、若干の怯えた表情を見せ始めた。

 おそらく俺が"ガチ"で言っているのに気が付いて、怖気づいてしまったのだろう。


 ―――そう、俺は珈琲の味に関してはかなりうるさい男なのである。

 万が一にでもマズイ珈琲を飲ませられようものなら、この店は跡形もなくなくなるだろう。

 不味い珈琲は珈琲にあらず。


「ルシアさん、もう一度尋ねておきますが、この珈琲がこの店で一番美味しい物で間違いありませんよね?」


 鋭い眼光で再度ルシアの目を見る。


「え……ちょっと待って、そ、それは……」


 ついには耐えきれなくなったのか、やや涙目になりながらモジモジし始めた。

 しかし、俺は鋭い眼光を緩める事もなくルシアの目を見続ける。


「あ、あの……ご、ごめ―――」

「姉さん、僕が変わるよ」


 カウンターの奥から一人の男の子が静かにこちらへと向かってきた。

 非常に細い体躯をしており、目の下には大きなくまが出来ていた。


 ―――やっとのお出ましか。


「ルシ姉、ここは僕に任せてほしい。普段何もできない僕ではあるけれど、珈琲の味に関しては誰にも負けるつもりはないから」


「ほう、かかってきなさい小僧。私の舌を喜ばせる事が出来たのなら、特大の褒美を授ける事を約束しましょう」

 

 どう考えても喋り方がイザベラではなくなってしまってはいるが、今のこの状況化においては些事でしかない。

 こいつは俺に対して、『美味い珈琲だって? 少し待ってろ、本物の珈琲ってやつを教えてやるよ』と言ったわけだ、当然受けて立つほかあるまいて。


「褒美なんて要らない。ただ……匂いがしたから……貴方に挑みたくなっただけ。。。僕も珈琲に関してはうるさい方なんだ」


 ほう、同じ陰キャ同士ひかれあう物があったというわけか成程な。

 まぁ、実は俺も『イケわく』の中ではお前が一番好きだったりするんだぜ、『アレン・ドラゴニア』。

 あと、訂正はしておくが俺は陰キャじゃねーからな。


「かかってきなさい」

「必ず『美味い』と言わせて見せます」


「待って待って! アレンちゃんとイザベラちゃん、そんなに仲よかったっけ? あと、イザベラちゃんはうちの珈琲の味はもう知っているでしょう?」


 マリアが不思議そうな顔をしてこちらを見てくる。


 そうだったのか……でも、アレンはノリノリだったじゃねーか!!!


「……ごめんなさい。ちょっとルシアちゃんの涙目姿が凄く可愛くて、つい調子に乗ってしまいました」

「……僕もちょっと……悪ノリが過ぎたね。……ごめんルシ姉」


 ルシアはプルプルと肩を震わせながらこちらをキッと睨む。


「アレンもイザベラも馬鹿ァァァ!!! もうこうなったら全部爆発させてやるんだから」


 ルシアは右手を天に掲げながら大きな魔法陣を出現させた。


「全てを無に帰す絶対なる力を見せてあげ―――」

「ふぅ、ルシアちゃんが入れてくれた珈琲は本当に美味しいなぁ」


 俺は先程ルシアが持ってきてくれた珈琲を優雅に飲んで見せた。


「……え?」


 ルシアは掲げていた右手をゆっくり降ろして俺の方を見る。


「ん? どうかしましたかルシアちゃん?」


「え、……いや。何でもないわ。それより私が入れた珈琲が美味しいって……ほんと?」


「ええ。まだまだ入れ方に改善の余地は残されてはいますが、普通に美味しいですね。この珈琲からは、不器用ながらもコツコツと努力を積み上げてきた"努力"の味がします」


「……そ、そう? まぁ、貴方にもこの私の入れた珈琲の素晴らしさが分ってきたってことかしらね」


 そう言うと、ルシアはそそくさと厨房に戻ってしまった。


 俺の見間違いかもしれないが、去り際のルシアは少し笑顔になっていた様なそんな気がした。

 ……全く、相も変わらずといったところか。


「ん……お姉さま? あれ、ここは何処なんでしょうか……」


 どうやらアンナの目が覚めたようだった。


「おはようございますアンナちゃん、よく眠れましたか? さっきまでアンナちゃんは私のみずみずしい太ももを枕にして寝ていたんですよ」


「………………」


 アンナは何も言わずに、ゆっくりと俺の太ももに頭を置いた。


「ここが人間達の言う『桃源郷』というやつなのでしょうか……まさか、地獄の番犬が天国に行ける日が来るとは思いもしませんでした」


「……アンナちゃん、お腹は空いてませんか? 一緒に何か食べましょう?」

「アンナのお腹はもう一杯です。あぁ……ここからもう動きたくないです」


「……私と食事するのは嫌、でしょうか?」

「ウェイターさーん! アンナはお腹がすきましたわー! あと何でお兄様も寝ているんですか! 起きてください!」


 アンナはレオンの頭をバシバシと軽くたたく。


「……んっ、ふぁ~」


 レオンは目を丸くさせながら辺りを見渡している。

 どうやら、まだ頭が混乱しているようだった。


「アレンさーん! お水をいただいてもよろしいでしょうか?」


 カウンターの裏にこっそりと隠れていたアレンに声をかける。

 

「……わかった」


 小さく頷くと、よろよろとした足取りで水の入ったカップを持ってきてくれた。


「ありがとうございます! レオンさんこれでも飲んで目を覚ましてください」


「……ん? あぁ、サンキュー」


「これでとりあえずは落ち着けそうですね。そういえば、アレンさんも一緒に―――」


 一緒に食事でもどうか、と思いアレンのいた所に視線を移すがもうそこには誰もいなかった。


 ……やっぱり、兄弟はどこか似るんだよな。



 ♂♀♂♀♂♀



 その後、軽く食事を済ませてから、この後の予定についての話し合いを始めた。


「お二人はこの後どこか行ってみたい場所などはありますか?」

「んー、俺は別にどこでもいいな。ただの護衛役として付いて来ただけだしな」

「私はお姉様の家でゆっくりと過ごしたいですわ!」


「なるほど。でしたら一緒に買い物にでも行きませんか? 図書館で参考書などは揃えられたのですが、念のために服などの準備もしておきたいなと思いまして」


「いや、聞いた意味!」


「丁度私もそう思っていたところです。一流のレディたるもの、流行というのは常に自分自身で把握しておくべきです! いつまでも屋敷の世話係に服を選ばせているのは、おこちゃまがすることですわ!」

「流石アンナちゃんです! 『時は金なり』、さっそく出発しましょう!」


「……これ俺がおかしいのか?」


 いや、レオン。

 お前は悪くないぞ。



 大まかな予定が決まり、ドラゴニア三兄弟に挨拶を済ませて店を後にした。


「ではまた来週お会いしましょうねアレンさん! ルシアさん!」


 アンナと俺は手をぶんぶんと振り、レオンはクールに片手を上げた。


「そうね、次こそは完璧な珈琲を出してあげるんだから覚悟して待ってなさい!」

「ルシ姉……僕が教えてあげようか?」

「うっさい! ほらマリ姉の仕事手伝うわよ!」

「……いやでも客いないよ」

「なら来週から始まる学校の準備を進めるわよ! できれば今のうちに一年生の教科書には目を通しておきたいわね。備えあれば患いなしよ!」

「……メンド……イ」


 

 さて、とりあえずは『ツンデレ金髪娘』と『根暗珈琲』のフラグは立て終わったと。

 この二人の高感度を上げているか否かで、後々のイベントが変わったりするから慎重に進めておきたいかな。


 今日の残りの大きな作業は【沈黙の羊】の処理くらいか。



 ……はぁ、どうするかなぁ~。



 ♂♀♂♀♂♀

 

 

 その後、色々な店を三人で周り歩き、気が付いた時には日が沈み始める時間になっていた。

 


【『スカーレット家城門前』】


「今日はとても楽しかったですお姉様!」 


 アンナは力強く俺の腹部に抱き着いてきて内臓を圧迫する。

 

 ……この感じが今後エスカレートしていくんだろうなぁ。はぁ。

 まぁ、そのうち何とかするか。


「私もお二人と一緒に過ごせて楽しかったです! また一緒にどこかへ遊びに行きましょうね」


「お、お姉様ァァァァァ!!! 私帰りたくないですわァァァァァ!!!」


 顔をグチャグチャにしながら、万力の如き力で締め付けてくる。

 

 ……ヤバい、内臓吐きそう。


「ほらさっさと帰るぞアンナ、俺はもう眠くて死にそうなんだよ」

「嫌ですわァァァァァ!!! 私はここの家の子になってずっとお姉様と一緒に―――」


 俺はダダをこねるアンナの手をそっと握り……一気に魔力を吸い始める!

 そして、数秒も経たないうちにアンナは眠るように気絶した。


「……凄いな、なんの魔法だ? 魔力を吸っているようにけど闇属性系列の魔法か?」


「はい、【貪欲な天秤】という闇魔法ですね。アンナちゃんの火属性の魔力を、強制的に氷属性に変換して吸収しました。まぁ、火と氷は対極に位置する属性なので、その分の変換効率は落ちちゃうんですけどね」


 【貪欲な天秤】というのは相手から直接魔力を奪う事ができる闇属性の『条件付き魔法』だ。

  この魔法を発動させるためには二つの縛りがあって、


 一つ目が、夜間である事。

 二つ目が、相手に直接触れている事。


 これ等を満たした場合にのみ発動する魔法である。

 ちなみに『条件付き魔法』というのは、「魔法の効果内容がかなり強力である代わりに、その分発動条件が厳しいよ」という珍しい特性を持つ魔法である。


「……どうやら、日が落ちた時の『吸血鬼』に喧嘩を売るのはやめておいた方がよさそうだな」


 やや警戒気味に俺の目を見る。 


「そうした方がいいかもしれませんね。まぁ、レオン様がをお使いになられていたのであれば、通用する手ではなくなってしまいますけどね」

「……はっ、女相手にを使ってまでマウントを取りに行くほど、サーベラス家の男は堕ちぶれちゃいねーよ」


 ………………。


「……レオン様、もし私が無差別に人を殺やめるような化け物になってしまったら、その時はその魔眼で私を殺せますか?」

「殺さない」


 真っ直ぐな眼でこちらを見ながら間髪入れずに即答する。


「……レオン様は今も未来もあまり変わらないんですね」

「ん?どういう事だ?」


「いえ、こちらの話です。それより、早く帰らないと夕食の時間に遅れちゃいますよ!」

「あー、もう18時か……レイブン様とカルティエ様への挨拶はまた今度だな。飯の時間に遅れると母さんにどやされるんでな。って事でまた来週な」

「はい、お気をつけて!」


 俺は軽く手を振りレオンとアンナを見送る。


 ……その優しさが仇となってお前はいつかイザベラに殺されちまうんだよな。

 まぁ、そんな未来、ルートは俺がぶっ潰すからなんの問題もないんだけどな。


 言葉にできない感情が俺の"決心"を揺るぎのない物へと変えた。



 さてと、


   ■【イザベラ~、交代の時間だぞ!】

   ●【ん~、ぱりきゅあ~ちぇ~んじ~】

   ■【おーい、イザベラさんやーい!】

   ●【……ん~、おはよーございます大助さん……今何時ですか?】

   ■【丁度18時くらいだな。そろそろ晩御飯の時間だぞ】

   ●【了解しました~! ふぁ~。ここからは私に任せてください!】


 ……心配だ。

 イザベラは知能値が高いのにも関わらず、どこかポンコツなところがあるんだよな……


   ■【……イザベラ一つ相談事があるんだけどいいか?、深夜帯に二時間だけ俺に主導権を代わってもらえないか?】

   ●【へ? 私は構いませんけど何かやるんですか?】

   ■【まぁ色々とな。その代わりと言っちゃなんだが、『ぱりきゅあ』以外のアニメをこっちで準備しておくよ】

   ●【本当ですか! うわぁー! 楽しみです!】

   ■【期待しといてくれ、じゃあ今から主導権をそっちに渡すぞ】


 俺とイザベラは同時に目を閉じ、次に目を開けた時にはいつもの見慣れた部屋に移動していた。


   ■【おおっ! 『同時に念じれば勝手にチェンジできるぞ☆』って言ってたけど、こんな簡単にできるんだな!】

   ●【えぇ!? もしかして貴方は大助さんですか!? アレンさんに少しだけ似てますね】


 そう言えば、イザベラはイケメンで出来る男の時の俺を見るのは初めてだったか。

 

   ■【俺をアレンの様な根暗陰キャと一緒にするな。俺はこう見えてコミュ力は高い方なんだぞ】

   

 俺はゆっくりと自室に置いてある姿鏡の前に立つ。


 いつも着ていたダボダボのスウェットに、見慣れたボサボサの黒髪。

 そして、どこか死んだ魚の様な目をしていた。

 

 ―――あぁ、いつ見てもイケメンだなおい。

 まさに神が創り上げし芸術と言っても過言ではないな。


   ●【……私はもう少し髪の毛が短い方が好みですかね】

   ■【10歳のガキにとやかく言われる筋合いはない。さっさと飯に行け】

   ●【あれっ!? どこかいつもより毒舌になってませんか?】

   ■【まぁ、俺は基本ド畜生なところがあるからな。普段は、イザベラの印象が悪くならないようにと努めているだけで、男状態の俺は性格が多少はマシ程度だったりするんだよな】

   ●【な、なるほど。あれですね『切れたナイフ』ってやつですか】

   ■【どちらかと言うと、『折れたナイフ』ってところかな】

   ●【……弱そう】

   ■【やかましいわ!】


 なんやかんや言いあいながら、イザベラは屋敷の中へと入っていた。


 ♂♀♂♀♂♀


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【『魔王立図書館地下』】


 ボチャと鈍い音が聞こえた。

 次の瞬間、私は自身の肘から先の右腕が事に気が付いた。


「がぁあぁああぁああ!!! 腕がぁぁあぁああぁぁ!!!」


 激しい痛みと出血で意識が朦朧とする。

 地面に左手を付き、自身の右腕を切り飛ばした少女を睨みつける。


「……どうしてこんなことをしたんですか様!!!」


 鮮血のプールは瞬く間に広がり、自身の死を強く認識する。

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