第12話 雷鳴の起点

「深明のやつと連絡が取れねぇ。こりゃあ不測の事態に陥ったと見るべきだな。」


 黒鉄鉄貴が、冷静に権達に告げる。


「先生を助けに行かないと!」


 慌てふためく正一、だがそれを権が止める。


「別れの日に先生が言った言葉を覚えてないのか?『私が戻らなかったら、お前達がオリュンポスを倒せ』。俺達が求める、人間との共存にはそれが必要なんだ。」


「そうは言ったって、心配なものは心配でしょ!権ちゃんだって分かってるだろ?育ててくれた先生が危険な目にあってるんだ。」


 正一がそう叫ぶ。

 権は、その言葉を受けて唇を噛んで血を流していた。


「俺だって何もできないのが悔しい。だけど、一緒に行動するなら、先生の意思を守りながら戦うしかないだろ?」


 権はそう言って、正一を納得させる。


「深明先生が負けるところなんて考えられない。それに、先生はオリュンポスを倒しに行ったんだ。オリュンポスを倒す事が、先生を救う事にも繋がるはずだ」


 それは、正一に語り聞かせてるというよりは、自分に語りきかせてるように見えた。

 正一も、その様子を見て押し黙る。


 熱くなる2人を一瞥し、鉄貴は静かに息を吸い込んだ。

 そして、重く響く声で口を開く。


「深明のやつから言伝を預かってる――『自分の口で言うつもりだったが、どうやらそれどころじゃなくなったらしいので、予め鉄貴先生に託す』」


 2人の注目が集まったのを確認して、鉄貴は続ける。


「『権は、秘密結社オリュンポスから、最重要任務として預かった子供。だが親が誰なのか、聞かされていない』」


 その言葉を受けて、権が衝撃を受ける。


「俺が、深明先生の子じゃないことくらい、とうに分かってた。でも、オリュンポスから預けられたなんて……。何だそれ?俺の存在は、全部そいつらの手の上だったってのか?」


「深明の言葉を素直に受け取るなら、そうだ。同時に、お前の存在がオリュンポスにとっての、文字通りのアキレス腱である可能性が高い。『人類との共存』を目指すなら、それを活かさない手はねぇ。」


 鉄貴は、傷だらけの古い地図を取り出した。

 紙はところどころ破れ、赤いペンで書き込まれたラインが幾重にも重なっている。


「これを見ろ。俺がこれまで何度も調査してきたルートだが、確実とは限らねぇ」


 一呼吸置いて、地図を指し示しながら説明する。


「お前達は、飛行機に乗れねぇ。身体から発する磁力が強すぎて、あらゆる機械を壊すからだ。陸路と海路で、ギリシャのオリュンポス山まで辿り着く必要がある。」


 黒鉄鉄貴は、オリュンポス山の位置と、現在地に赤丸を付け、そこを繋ぐ一本の線を引く。


「俺の見立てじゃオリュンポス山まで、徒歩と海路で50日。その間に権、お前自身の正体ってやつを探れ。人類と雷人との戦争を企てる奴らの陰謀を止めるには、お前の存在が鍵になる。」

 

「急に言われて飲み込めるかよ!正体や親がなんだろうが、俺は俺だ!」


 そう語る権の拳は、強く握られて、震えている。

 自分自身、衝撃の事実に頭も感情もついて行っていないのだ。

 鉄貴は、権の激情を聞いた上で、突きつける。


「今はそう思っとけ。ただ、誰だって自分の影からは逃げられねぇもんだ。本当に、深明を助けたいなら、『人類との共存』なんてお題目を掲げるなら、そこから目を背けるんじゃねぇ」


 その言葉にうつむき悩む権。

 その背中を撫でる正一。


 突然、静まり返った隠れ家に、不気味な音が響いた。


『コン、コン』――間を置いてから繰り返される扉を叩く音。

 鉄貴が眉をひそめたその瞬間、『ドンッ!』扉が爆音と共に吹き飛んだ。


「話の途中、失礼致しま〜す」


 破片が飛び散る中、立ち込める粉塵の向こうから、黒い影がゆっくりと姿を現す。

 吹き飛んだ扉の向こうに立つ影。

 その胸元には、見覚えのある紋章が刻まれていた――ヘルメスがつけていたのと同じ紋章、オリュンポスの印だ

(続く)










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