第5話 雷人里襲撃編3

少年達は木を楯代わりに敵の攻撃を凌ぐ


幾ら木々を薙ぎ倒せる力があっても、間に挟むことでクッション代わりになるし、目眩ましにも充分活用できる。


その隙を使って、2人は掌の中に「光る球」を作り出し、徐々に大きくさせていた


「あれは『球電現象』か!

落雷時に発生する空気のプラズマ、ホモ・ライトニクスはそんな真似もできるのか!!」


新たなデータに興奮を隠さない博士。

身を乗り出し危険地帯に足を踏み出そうとする博士を、助手である小林が慌てて止める。


「だが、そんなものでワシと小林君の対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーは止められん!

作り出す前に叩き伏せてしまえ!!」


「さっきからホモ・ライトニクスって呼ぶのうっせーんだよ、俺たちゃ人だ!

それにな、山中流やまなかりゅう奥義舐めんじゃねぇ!」


権が再度、博士に吠える

掌より一回りは大きくした球電を、真正面から対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーにぶつける。


「球電砲!」


対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーは、その威力に大きく弾け跳ぶ。

宙を浮かんで木々を薙ぎ倒していく。


だが、ゴムの皮膚が焼け焦げただけで、まだ戦闘不能に至った様子はない


「真正面から当ててもゴムの皮膚の装甲は跳ね返す!

無駄な努力ご苦労さまじゃ!!」


博士は嘲笑う


「それはどうかな?

球電砲!!」


対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーが吹き飛ばされた先に待ち受けていたのは、正一。

最初から彼の方角に吹き飛ばす事を狙って、権は角度を調整して一撃目を放っていた。


正一の球電砲が、ゴムの皮膚の薄い弱点部である顔面を捉える。

対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーは、今度こそ動かなくなった。


「ふむ、一体破壊されてしまったか、まだまだ改良の余地はあるのう

とは言え想定の範囲内じゃ、在庫はまだまだあるぞ?」


博士の後ろから10体の対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーの予備兵力がやって来た。



たった一体破壊するのに手こずった相手が、残り11体。

他の場所では、まだまだ「在庫」が暴れているかもしれない。


少年達の心は折れていなかったが、明らかに戦力差に開きがあった。

何より身体が限界を迎えていた。


笑う膝を叩き、立ち上がろうとする2人を、何者かの手が抑える。

2人には、覚えのある掌の感触だった。


「「深明先生!」」


「2人でよく抑えてくれた、後は私に任せなさい」


2人は頷くと、素直に後ろに下がる。


「ホモ・ライトロニクスが一体増えたか

まあ、この物量差であれば押し切れよう。

いけ」


博士が指示を出すと、一斉に対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーが襲い掛かってくる。

深明先生と呼ばれた壮年の男は、ゆっくりと動いてその全ての攻撃を躱していく。


「どうした、儂らの目にも移る速度しか出ておらんぞ!

何故一人も攻撃を当てられん!!」


深明は、博士の疑問に当然のように解答する。


「人間の視野は、スピードが上がれば上がるほど狭くなる

つまりは死角が増え、私を見失いやすくなる」


「高速道路で起こる現象と同じか!

じゃが、避けてばかりでは勝てんぞ!!」


博士が自信たっぷりに言うや否や、深明は対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーの腹部に拳をそっと置く

深明が少し動くと、まるで糸が切れた人形のように、一体の対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーが倒れた。


「正しく打てば、衝撃は内部まで通るもの

これを、君達は浸透勁と呼ぶのだったかな?」


「『ニュートンのゆりかご』だと?

貴様!まさかただの格闘技術だけで、対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーを倒すつもりでいるのか!」


「そのとおりだ

私達雷人を倒すのにこんな大仰なものは必要ない

かつて唯一私を倒した人間も、雷人では無い武道家だった」


深明は、向かってくる対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーの拳を僅かに動かすと、一回転させて別の個体にぶつける。

それだけで2体が動かなくなった。


ゆっくりした動き、力を感じさせない動作、彼の技の冴えは、雷人のそれとは違う、完成された武道家の動きだった。









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