第6話雷人里襲撃編 終幕

「全滅……じゃと」


目の前の光景が信じられず、博士は呆然とする。

自身が丹念に研究しつくし、対雷人として鍛え上げた兵器であったもの。

それが、一体残らず動かなくなった。


目の前の雷人による、高速移動も超筋力も、放電すらも無い、ただの格闘技術だけで。


「小林君、一帯の対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーを集めてくれ!

撤退の時間くらいは稼げよう!!」


助手の小林が、笛を鳴らす。

その間高い音に反応するものは、何も無い。


「無駄です、ご自慢の兵器は既に全滅していました。

私が相手取った、ここだけを除いてね」


深明がそう語る。


「貴様、何をした!

この短時間で全滅するなど考え難い!!」


博士は、信じられそうもない敵の言葉を否定しなかった。

無意識にだろうが、博士は山中深明やまなかしんめいの言葉を受け入れ始めていたのだ。


「貴方は偽の情報を掴まされていました。

私の里の雷人達は、里を出た後周囲に待機していました。

貴方を誘き寄せ、一網打尽にする為に」


「このクソザルめが!

類人猿如きが、人間様を知恵で嵌めようなどと!!」


博士の罵倒の語彙が少なくなっていく。

怒りに頭が沸騰し、余裕を失っているのだ。


今や自慢の遺伝子工学技術も、今の状況では何の役にも立たない。

罵倒だけが、博士の精神を繋ぎ止める唯一の方法だった。


「例えワシが倒れようと、お前たちは必ず科学技術の前に凌駕される!

時代遅れのホモ・ライトロニクスめ、今やホモ・サピエンスの天下じゃ!!」


「貴方達の科学が、私達を追い抜く日はいつか来るでしょう。

しかし、それは今ではない。

それに、ホモ・サピエンスだのホモ・ライトロニクスだのの違いがそれほど重要でしょうか?」


博士は、勝ち誇ったように叫ぶ


「当たり前じゃ!

お前達はホモ・サピエンスと遺伝子に5%もの有意な差が見られる、ただ見た目が似ているだけの類人猿!

駆逐されて然るべき害獣じゃ!!」


「貴方は学問的な事実を盾に、差別と民族浄化を正当化しているだけだ

私達が共存不可能な生物なら、どちらかが既に滅んでいるよ」


深明の言葉は、しかし博士に響いた様子はない


「黙れ!

言葉を話すだけの猿が、お前たちの存在が文明の障害だ!」


「口をつぐむべきはどちらだろうか

貴方は、行き過ぎた報復行為を止められない、理性を捨てた復讐の獣に見えるよ」


復讐というワードに、ピタリと止まる博士


「そうだ、妻と息子を残虐に殺したのはお前達雷人だ!

ワシには正当な復讐の権利がある!!」


「その復讐すべき相手は『雷人』という集合体ではなく、妻と子を殺した本人でしょう。

それに、その対象者をすでに貴方は殺し終えている、よってもはや貴方の行いは報復行為の範疇を超えている」


深明の言葉を聞いて、違和感を覚えた博士。

目に理性の光が戻って来る。


「そうか、パトロンの中に裏切り者がおったのか!

それで、襲撃日もワシの復讐相手のことも筒抜けだったという訳じゃな!!」


深明は、博士の言葉を否定しない。

無言で肯定しつつ、話を進めていく。


「日本政府は、雷人の排除を少なくとも現段階では求めていない。

数少ない、核持たぬ国の『抑止力』だから。

貴方達不穏分子を炙り出し一掃するのが、私の役目でした。」


嵌められた事に気付いた博士は、この場にいない誰かに向けて絶叫する。


「儂らは、日本の、世界の為に雷人廃滅を誓ったのに!

儂らはどうすれば良かったんじゃ!!」


それに対する深明の言葉は、端的でしかし明確な解答だった


「あなた個人の復讐を終えた時点で、止まれば良かったんですよ

あなた個人の復讐を、雷人全体に拡大するのは、過剰な報復行為に過ぎない」









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Nameless Hero~名も無き正義が悪を裁く~ 牛☆大権現 @gyustar1997

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