第3話 雷人里襲撃編

「"雷人らいじん"とは何なのか、科学的な観点から説明させて頂きますじゃ。

 彼らは、体内の筋肉組織で発電を行い、電解液質の体液で、蓄電する構造を持った生物ですじゃ 」


暗く広い部屋の中、プロジェクターで研究発表が行っている。

何かの学会のようにも見える。

だが研究の発表を行っているのは、一人だけ。


 聴衆をよく見ると、メディアで見掛ける顔が何人もいる。

 企業の社長であったり、政治家であったり、いずれも社会的な立場のある人間だ。 


「我々ホモサピエンスの祖先は、南アフリカの地で産まれましたが、"雷人"の祖先は南アメリカの類人猿と見るのが妥当ですのう 」


 スクリーンに移されるのは、南アメリカ・南アフリカ双方の地図。

 そして、その地図と線で繋げられた、2種の類人猿の写真


「……以上のように、類人猿と言っても、我々と雷人の祖先では、多くの異なる特徴を持ちますじゃ。

 また、現在時点で我々と雷人の遺伝子情報には、5%も違いが認められました。

 現在の我々と雷人が、容姿の上で似ているのは、偶然似ただけですじゃ 」


 バンッ、と

 参加者の一人が、机を叩いて立ち上がる。


「学問なんてどうでもいい!俺はただ、あいつを倒したいんだ!」


「落ち着きなされ、これもまた"雷人らいじん"を殺す為に必要な情報ですじゃ。

 しかしながら、長らくお待たせしてしまったのも事実。

 小林くん、例のサンプルを連れて来てくれるかのう? 」


 助手は一礼すると、どこかへと行き、帰って来た時にはがんじがらめに縛られた人物を連れてきた。


 いや、人間ではない。

 前回の事件で焼死体を築き上げた、サトシを名乗る雷人だ!


「彼は雷人の一人、サトシ。

発電能力を用いて焼死体を築き上げた、残虐なる殺人生物です。」


 博士がサトシを紹介すると、会場内は一瞬静まり返った。

 だが次の瞬間、傭兵たちが銃を構える音が、緊張を一気に引き裂いた。


「では、傭兵諸君。

 そこの雷人を撃ちたまえ。」


 博士の命令に、待機していた傭兵達が銃を構える。

 そして、サトシに向かって一斉に射撃する。


 しかし、どういう事だろうか?

 身動きが取れないサトシに、十名の一斉射撃が当たらない。


「チクショウ!寝てる相手に何故当たらない!!」


傭兵のリーダーが怒鳴る。


「んー。

 なんだよ、この状況? 」


 今まで眠っていたサトシが、射撃音で目を覚ます。


「周知の事実ですが、このように雷人には近代兵器は通用しません。

 彼らの骨が、電磁石のコイルの役割を果たし、強力な磁場を形成しているからですじゃ 」


「てめえら下等種族のオモチャで、俺らを傷つけられると思ってたなら、随分と見くびられたもんだな? 」


 サトシの体内で、急速に発電が行われ、強力な電流が手首に流れ込んでいく。

 そしてサトシを縛っていた縄が、電流に耐え切れずに急激に焼き切れた。


「ほほう、電熱器と同じ原理じゃな!

 我々より、皮膚の耐熱性も高いらしい! 」


「余裕ぶってるんじゃねぇよ、クソジジイ!

今からこの場にいる全員、焼き殺してやろうか?」


サトシの脳裏に映るのは、まず子供の頃に虫を解剖した記憶。

次に家畜、最終的に人間と、エスカレートした子供の欲望。

産まれ持った性能ゆえに、誰も止めることができなかった。


権と、遭遇するまでは。

今のサトシにとって、人間も虫も変わりは無かった。


そして、サトシの残虐な発言に聴衆がたじろぐ。


「参加者の皆様、ご安心ください

 我が発明品、対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーの性能を、今から実地でお見せしますじゃ 」


 博士が紹介した”発明品”は、ゆっくりと歩きながら登場した。

 それは、異様な人型だった。


 まず、3メートルはあろうかという巨体。

 服は着ておらず、髪の毛や生殖器官は見当たらない。


 そして、筋肉は異様に発達し、皮膚は黄色く非常に分厚い。

 まるで人間から、戦闘に不要な部品を外したような、そんな印象を受ける生物だ。


「たかがウドの大木一匹、すぐに丸焼きにしてやらぁ!」


サトシが怒りに任せて放電を放つ。

しかし、鎧を纏った巨体は微動だにしない。


「耐電性か……いや、あれはただのゴムじゃないな」と、聴衆の一人がつぶやく。


「放電を止めた位で、イイ気になってんじゃねぇ! 」


 石の床が砕け、目にも止まらぬ速さでサトシが突貫する。

 建物全体を揺らすような衝撃が、謎の人型を襲う……だが!


「なんだ、今の感触は!? 」


 なんと弾き跳ばされていたのは、殴ったサトシ自身。

 人型は、平然と立っている。


「参加者の皆様、今の高速移動の原理ですが、筋肉に強い電流を流すと…… 」


 博士は、研究発表も同時に進めていた。

 サトシの事など、まるで眼中に無いかのようだ。


「俺を無視してんじゃねぇ、下等種族ども! 」


 無視された事に苛立ち、博士に放電を行うサトシだが、それは対雷人戦闘鎧に遮られる。


対雷人戦闘鎧アンチサンダーマンアーマーについて、説明させて頂きます。

 雷人の放電攻撃に耐えるため、遺伝子改造により、皮膚にゴムと同じ性質を与える事に成功しました 」


 スクリーンが落ちる、サトシの発生している磁場の影響だ。

 博士は予期していたようで、紙の資料を元に説明を続ける。


「即ち、高い耐電性と高弾性能力です。

 後者は、直接的な衝撃に対しても、高い防御能力を実現します。

 実験では、LAHAT(対戦車砲)の直撃にも耐えました 」


「離せよオラ!

 下等種族ごときが、イキッてんじゃねぇよ!! 」


 サトシは強く蹴っているが、対雷人専用鎧アンチサンダーマンアーマーがダメージを負っている様子はない。


 サトシの骨が折れる音が、部屋中に響いた。

 自身の腕が捻じ曲げられた痛みに恐怖し、サトシは悲鳴を上げる。


「悪かった!

 もうお前らを苛めたり、殺したりしないから、コイツを止めてくれ!! 」


「許さんよ。

 お前はワシの妻子を殺した犯人だと、調べはついておる。

 二人の苦しみを、その身で味わいながら死ね 」


 サトシは絶叫を上げながら、手足を一本ずつ折られていく。


「雷人がこうも一方的に!

 この兵器の性能は素晴らしい!! 」


 聴衆達が、立ち上がって手を叩く。


 だが、その喝采に水を差すように、聴衆の中から一人の声が響いた。


「雷人を滅ぼすのが、果たして最善の選択なのか?」


 博士は目もくれず、笑みを浮かべる。


「学問的に見れば、最善かどうかは些細なことですじゃ。」


博士は、自慢の発明品の説明を続ける。


「現時点では、生産コストは高くついてしまいます。

 量産化の暁には、現時点の10分の1に抑えられる見込みです。

 それでは次の性能実験として、一つ奴等の里を滅ぼしてみせましょう! 」


 怨寺博士の目には、聴衆の姿すら写っていなかった。

 博士の目に映るのは過去、妻と子を無惨に殺された「過去」のみだ。


 博士の口角が持ち上がる。

 人の悪意が、牙を剥きはじめた。

(第二話 終)

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