第2話 興味

彼女の佳奈が帰ってしばらくだった頃だった。

イヤホン越しに、救急車のサイレンが聞こえる。煩いなと思い、スマホの音量を上げる。愛する人を思う気持ちを、綺麗な景色や音で表現した邦楽に浸りながら考える。

(バイト探さないと)

最近バイトをクビになった。貧乏大学生にとっては一大事だった。だが、時には休憩も大切だと思い込み、液晶画面に目を落とす。

ブー

電話の通知だ。

裕也からだった。めんどくせえと思いながら、数コールした後、電話に出た。

「もしもーし。どしたー?」

「良かった!繋がった!」

「どーしたよそんな慌てて」

「佳奈ちゃんが車に轢かれたんだ!今救急車で病院に向かってる!」

思考が停止する。佳奈が轢かれた…?さっきまで俺の家に居たんだぞ?

はっとする。さっきの救急車のサイレンは佳奈の…

「聞いてんのかよ!病院の電話番号と場所教えるから早く来い!」

「あっ、ああ。悪い。頼む。」

裕也に聞いた病院に駆け込む。病院は思いのほか空いていた。

「あのっ、佳奈は今?!」

受付に居る看護師に詰め寄った。

「藤沢さんのお知り合いの方ですか?」

「そうですっ!佳奈はどこに?!」

落ち着いた態度の受付に少しイラつく。意味の無い怒りだと分かっていながらも、苛立ちが止まらない。

「現在手術室での治療中です。手術室の前に椅子が並んでいます。そこでご友人がお待ちです。」

「ありがとうございます」

早口で対して感じてない感謝を述べ、足早に裕也の元へ向かった。



佳奈は死んだ。トラックに轢かれた時点で、首の骨だかなんだかがもうダメだったらしい。

「手は尽くしましたが、残念です。」

という言葉に言いようのない怒りが湧くのと同時に、ダムが決壊したように涙が溢れた。

佳奈との最後の会話は覚えていない。当たり前だった日常は、唐突に終わりを迎えた。目の前が真っ白だった。何も見え無くなって、床に倒れた感覚を抱え、俺は気絶した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編集 @yatagarasu1031

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ