第50話 とある魔人種の畏敬
※前書きです。
三億年ぶりの更新で申し訳ありません。メンタル面で小説執筆にどうしても良いイメージが持てなくなり、筆を置いておりました。
更新を楽しみにしてくれた方々には、本当に申し訳ない気持ちです!!!
とりあえず二、三話ぐらい下書きしたので、マイペースに更新できたらと。
とにもかくにも――
吠えるタロウ先生の素敵なコミカライズが、現在アプリやWebで連載されているのですが、その単行本1巻が4月14日に発売となります。
みんな内容を綺麗さっぱり忘れてしまっていると思いますので、ぜひ手にとって「こんな話だったな」と思いだしていただけたら!!!
以下本文ですが、わかりやすいSS寄りのお話をリハビリがてら書きました。
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「――リオネッタ殿、修行にお付き合いいただいて誠に感謝いたしまス」
アンデッドの上位種“アンデッドキング”へと進化を遂げたブラット配下の魔物――ロードは、リオネッタに頭を下げた。
スカイマウンテン深層、荘厳な神殿“サンクチュアリ”前の大きな広場。
そこではブラットにテイムされた大勢の魔物たち――数百にもおよぶ“
リオネッタが手伝ってくれるおかげで、魔物たちの訓練はとても捗っていた。
「居候させてもらっているのだから、これぐらいのことはさせてもらうわ」
ね、アリエッタ? とリオネッタはとなりの妹に柔和な笑みを向ける。
「うん、みんなと遊ぶのと楽しいもの!」
「ふふふ、そうね」
皆は魔将をかくまうと聞いて当初びくびくしていたのだが、リオネッタは当初から魔将だとは思えない優しい物腰だった。かくまってくれた感謝もあったのだろう。姉妹はほどなく、魔物たちと打ち解けていた。
姉妹のやりとりに微笑ましくなりながら、魔物たちは和やかに、しかしブラットのために全力で訓練に打ちこむことができていた。
だがそんなときだった。
「――大変でス、ロードさマ!」
見張りの魔物が慌てた様子で駆けてくる。
どうしタ? と眉をひそめるロード。
「魔王軍が! サイクロプスが倒されたことで、代わりの刺客が送られてきたようでス! 魔団長ギガンテスと名乗っていて……!」
「なんだト……!?」
驚きつつも、ブラットに迷宮をまかされた長としてすぐに冷静になるロード。
(冒険者が来たと思えば、今度は魔王軍カ。やれやれダ。このスカイマウンテンはブラットさマの所有物。何人にも侵せぬ聖域)
冒険者だろうと、魔王軍だろうと、踏みにじられるわけにはいかない。
「あら、わたしが出てもいいけれど?」
「いえ、リオネッタ殿はお客人。このロードが対処いたしまスのでご安心を」
リオネッタにそう答え、ロードはギガンテスが待つという第一層に降りた。
そして待ち受けていた魔物は――
「サイクロ……プス?」
なんと、かつてこの迷宮を支配したサイクロプスと瓜二つの魔物であった。
魔物の群れとともに第一層に乗りこんできたその光景はまさに、かつてサイクロプスが襲来したときと同じ光景であった。
「まさカ……」
トラウマともなったサイクロプス襲来をふくめ、ロードは過去を思いかえす。
――さかのぼること数十年前。
『おまえはすごいな』
『とんでもない才能があるゾ!』
『もしかしたら進化すらできるやモ』
ロードは生まれつきスカイマウンテンの他の魔物よりも能力が高く、いつも周囲からそんなふうにもてはやされていた。
実際、他の魔物と縄張り争いをすることもあったが、負けなしであった。
だから自分は特別なのだ、と思っていた。
そしてロードは縄張り争いで経験値を積みかさね、スカイマウンテンの長となったときには、アンデッドロードに進化を遂げていた。
ロードはさらに強くなった。
もはやこの世に敵はない、とすら思った。
しかしある日の魔王軍の襲来により、自分は井の中の蛙だったことを知る。
『なんだァ……この迷宮は雑魚しかいねえなァ。潰しがいもねえぜェ』
スカイマウンテンに襲来したサイクロプスは、圧倒的な力を持っていた。
先住の魔物たちは抵抗したものの、アンデッドロードに進化していたロードでさえも、サイクロプスの剛力の前では無力だった。
仲間を蹂躙され、あっという間にスカイマウンテンの長の座を奪われてしまう。
格が違ったのだ。
しかもサイクロプスは魔王軍の最高幹部でもなく、数いる魔団長の一体でしかなかったというのも、ロードの自信を折るに十分だった。
自分は何を自惚れていたのだろう、とロードは絶望した。自分は特別でもなんでもなく、凡庸な井の中の蛙でしかなかったのだ。
それからスカイマウンテンはサイクロプスの支配下に置かれ、ロードはサイクロプスの機嫌を損ねないように従順に働いた。
自身の思いあがりでサイクロプスに挑んだ結果、ロードは多くを失った。
もはやプライドも何もあったものではなかった。自分は特別でもなんでもなく、その辺の魔物と同じ凡庸な存在だったのだ。圧倒的な力の前では何もできずにひれ伏すことしかできない無力な存在だったのだ。
サイクロプスにより、ロードは大きな心の傷をつけられたのだった。
「最近まで支配されていたというのに……もはやその顔がなつかしく感じル」
走馬灯のように過去を思いかえしたロード。
しかしサイクロプスに瓜二つのその巨大な魔物をあらためて見上げると、ロードの口の端にはなぜだか笑みがこぼれていた。
「誰がサイクロプスだァ。あんな出来の悪い弟と一緒にするんしゃねえよォ。俺様は兄のギガンテスさまだっつーのォ」
「ほう、似てると思えば兄なのカ」
威圧するような怒声を浴びせられても、ロードは自然に返答をできていた。
以前ならば、萎縮して平伏することしかできなかったのに、その威圧感のある単眼をまっすぐ見つめて話すことができていた。
自身にそんな余裕があることに驚く。
「ああ、まあ実力は俺様の方が圧倒的に上だがなァ。俺様は特別だァ」
ロードは目を細めて巨人を観察する。
確かに威張っているだけのことはある。
見たかぎりだが、魔力もサイクロプスと同等以上はあるように思える。
以前のロードならば、太刀打ちできるはずもない格が違う魔物だった。
「しかし……なぜなのだろうナ。やはり以前のような恐怖を感じなイ」
サイクロプスと同等のギガンテスを前にしても、ロードの心は落ちついていた。
まるで、風ひとつ吹かない水面のように。
「何をぶつぶつと言ってやがる! おまえがこの迷宮の今の長らしいなァ? いいか、耳の穴かっぽじって聞け。このスカイマウンテンは今日から俺様の支配下だァ……逆らったらもちろん死あるのみだぜェ?」
ギガンテスは下卑た笑みを浮かべ、脅すように棍棒を振りかざしてみせた。
「この聖域がおまえの支配下……? 冗談は顔だけにして欲しいところダ」
ロードは顔を怒りにゆがめる。
この場所は偉大なブラットのもの。自分は小馬鹿にされてもなんとも思わないが、ギガンテスのその言葉は許されるものではなかった。
「な、なんだとアンデッドごときがァ……! 俺様を怒らせたらどうなるか、この棍棒でそのちんまりとした体に教えてやろ――」
ギガンテスは最後まで言葉を紡げなかった。
ロードが大鎌を目にもとまらぬ速さで一閃させ、ギガンテスの巨躯を縦に上から下までまっぷたつに切断してしまったからだ。
「けっこうダ」
ロードがそう言ったときには、ギガンテスはもうすでに絶命していた。
『信じられなイ!?』
『あのギガンテスさまが一撃で!?』
『ひ、ひいい……バケモノ!』
圧倒的な存在のはずのギガンテスが倒されたと見るや、その配下の魔物たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
まさか魔物が魔物をバケモノ呼ばわりとは、まったくやれやれである。
静寂が戻った迷宮で、ギガンテスだった巨大な肉塊を見下ろすロード。
「おまえもわたしと同じ……井の中の蛙だったようだナ。自身を特別な存在と勘違いしていたようだが、それは自惚れにすぎなイ」
ともに凡庸な存在ダ、とぼやく。
アンデッドキングに進化し、桁外れの力を身につけた今となっても、ロードは自分を特別な存在だとは思わない。思えない。
この世でただひとりの特別な存在――ブラットという偉大な主と出会ってしまったから、そんなことを思えるはずもなかった。
偉大なブラットは凡庸なアンデッドでしかない自分や仲間を、迷う素振りすらなくサイクロプスから救いだしてくれた。
そして、サイクロプスの配下として牙を向いた自分に対して“ロード”という名を授け、特別な存在として扱ってくれた。
ロードはある意味、ブラットと出会うことで初めて“特別”になれたのだ。
(なんと慈悲深い御方……なんと偉大で素晴らしい御方なのだろうカ)
ブラットの器の大きさを思うだけで、ロードは感涙しそうになってしまう。
そしてブラットがこの世界の主となるその日まで、たとえすべてを捧げてでもブラットのために尽くそう、とあらためて思った。
「ん……?」
そんなときだ。
ロードのふところの交信石が輝き、ブラットからの連絡を知らせる。
ぱっと顔を輝かせるロード。
『あっ、ロードか?』
「はい、お待たせいたしました! 貴方の忠実なる下僕のロードにございまス!」
一瞬すらも惜しんで、目にもとまらぬ早さでブラットとの交信をつなげた。
『ダストリアとエルネイドについて、大きめな仕事を頼みたいんだが……』
「なんでもお申し付けくださいまセ!」
そうして――
ブラットに初めての大仕事を命じられ、待っていたとばかりに快諾。嬉々として取り組みはじめるロードなのだった。
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