「それは何ですか?」
「人様のお国を悪く言うつもりはございませんが、こちらの統一幕府は、あなたたちの本当の価値というものを知らないでいます。ですが私どもは違う。あなたたちと手を組めばそれこそ、下克上も簡単なのでーす」
意味をわかってて口にしているのか、タクヤンは軽々しく失礼を重ねている。
「我々の地域ではあなたたち髪を、精霊と呼んでいるのですが、私どもと対等で熱い友好関係を結んでいます。その上での契約、私どもからは『魔力』を捧げ、代わりにあなたたち精霊からはその力を『魔法』としてお借りする。それぞれにメリット、利益のあるウィンウィン、勝ち勝ちな関係を長年築いています。そうして発展してきたのです。ですがこちらがそれがない。それではもったいないじゃあないですか」
熱く語るタクヤン、その言葉が正しいならば、彼は神を知らないでいた。
確かに、彼ら神の力を借りたという伝承は存在する。しかしそれはよっぽどのことがなければ口にするのもはばかられる事柄、行うにもしても相応の儀式を重ねて礼を尽くし、そのうえで幾人もの生贄が必要とされる。
さもなくばそのものに天罰が下るだけでは終わらず周囲一片が災いに見舞われる。
……戦乱の世では勝利のために幾度となく神の力を手にしようと試みてきた地われているが、その全てが悲惨な結果なのはこちらの常識であった。
それを、行う。行おうとしている。
……ここでようやく鴨兵衛、彼らが襲われた理由を理解した。
「控えなさい異国のものよ」
そこへ響くは幼子の声、男か女か判別つかないがそのどちらとしてもきれいに透き通る声であった。
同時に神々が左右に分かれ、島に茂る森の中より、人が一人、現れた。
子供、それもかなり幼く、おそらくはおネギよりも年下であった。
着物は前に合わせのないみたことのないもの、限りなく白に近いそれはおそらく動物の皮をなめしたもの、そしてその首には緑に輝く宝石、雫を緩く曲げた形は話に聞く
みすぼらしいわけでも、古臭いわけでもないがしかし、その恰好は古代のものだと鴨兵衛は知っていた。
だがそれよりも目を引くのは中身の方、子供自身、黒くつややかな髪は結いもせずにまっすぐたらして、その間から見える肌は透き通る白、そして髪の間よりのぞかせるその顔は、表情乏しいにも関わらず、背筋が凍るほどに、美しかった。
「これはこれは、あなたがおちらのシャーマンですね?」
その氏子に向かって笑顔崩さずまっすぐ向かうはタクヤンであった。
「先ずは自己紹介を、私の名前は」
「タクヤン、特別親善大使とか」
「おーこれはこれは」
タクヤン、笑顔で応じる。
……どうやらお世辞は通じていても、声に秘められた非難までは聞き取れていないようであった。
「そこまで伝わっておられるのでしたら私どもの目的もご存じで?」
「関係ありません。あなた方は二つの禁忌を犯しました」
強い口調、聞こえてないならと隠すのを止めたようであった。
「一つは、この『
「おーそれは説明させてくーださい」
「二つは、この女人禁制の島に、幼子とはいえ女を入れたこと、このどちらも大罪です」
「それはもちろん、え? 女人? ってことは、男? んだよんななりして男の娘とか、どこのマニアっ」
ゾクリ。
……風もないのに冷たい感覚、言葉ではなく言葉以上の何かが、場を凍らせ、タクヤンを黙らせた。
それは普段、鴨兵衛が感じるソレよりももっとはっきりと、そして濃密で、目を凝らせば目に映るのではないかと思えるほどに、強かった。
これに、ようやく事の大きさに気が付いたらしいタクヤン、唾を飲む鴨兵衛、その一方でオセロだけが笑っていた。
「……この二つの罪、あなた方は
そんな三人に向けて冷たい一言、そして続く沈黙は暗に「さもなくば」と言っていた。
「……どうすれば、罪を雪げられるのだ」
声を絞り出したのは鴨兵衛であった。
その顔を、凍り付く瞳で一瞥すると氏子は背を向ける。
「こちらへ。ただし入れるのはあなたたちだけです」
言い残し氏子、島へと入っていく。
その後に言葉の意味も解ってないはずのオセロがすぐに続き、次いで船に手ぶりでとどまるように示してからタクヤンが、最後が鴨兵衛であった。
波から砂へ、そして森へと踏み入る。
豊かな緑、明らかに人が踏み入ったことのない手つかずの自然、立ち並ぶ木々とそびえ生える草花が視野を遮る。
にもかかわらず、氏子が進めばそれだけ木々か、草花が、滑るように横にずれて、道を開けていった。
人の理を超えた光景、これが夢だと言われたら夢なのだろうと起きていながら鴨兵衛思いながら後に続く。
平らな道より坂を上りどれほど進んだか、急に緑が開けた。
そしてたどり着いたのは小高い丘の上、青空の下、数多の神々が囲い、見つめるのは盛り上げられた土の台、鴨兵衛にはそこが土俵に見えた。
その前に立ち氏子、振り返る。
「あなたたちには『相撲』をとってもらいます。一つ勝つごとに、あなたたちの一つの罪が雪がれます」
この一言に、鴨兵衛は光を見出した。
単純明快、勝てばよい。
不器用な鴨兵衛であっても、相撲ならばとることができる。何ら数少ない得意といえる武芸であった。
これで一つ、そしてもう一つをオセロならば、勝てるだろう。
合わせて、二つが雪げる。
相手は神、どれほどまでに強力なのかは計り知れないがしかし、それでも決して不可能なことではなかった。
……だというに、オセロとタクヤン、難しい顔をしていた。
互いに歩み寄り、異国の言葉であれこれ言いあっている。
そしてオセロ、肩をすくめるとタクヤン、トボトボと鴨兵衛のもとへとやってきた。
「……あの、スミマセン、スモーとは聞こえたのですが」
タクヤン、頭をかく。
「それは何ですか?」
彼らは異国のものであった。
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