Ⅱ-7

 見覚えのある川に出た。数ブロック進むと果たして深緑色の石造りの館が現れ、辻馬車はその前で停まった。私は馭者の顔もろくに見ずに支払いを済ませ、小走りに建物に入った。前庭に枯れ木が数本、幹をくねらせて立っていた。


 入口のホールには照明も蝋燭も灯っていなかった。数歩進んでみれば、毛足の短い絨毯の感触が返ってくる。押し迫るような静寂があった。ただ一つ、防犯用の魔法装置の小さなランプが光っている。


「ナズカ」


 隣にいる相手を呼ぶくらいの声で私は言った。返答はない。足音も聞こえない。


 暗闇に慣れない目を周囲にめぐらせた。崩れた螺旋階段の影と、窓の形に切り取られた淡い光がぼんやりと浮かび上がるばかりだ。






左から回る → 10へ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054914833066/episodes/1177354054917643269


右から回る → 11へ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054914833066/episodes/1177354054917643377

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る