Ⅱ-6

 見覚えのある川に出た。数ブロック進むと果たして深緑色の石造りの館が現れ、辻馬車はその前で停まった。私は馭者の顔もろくに見ずに支払いを済ませ、小走りに建物に入った。前庭に例の枯れ木が数本、幹をくねらせて立っていた。


 入口のホールには照明も蝋燭も灯っていなかった。数歩進んでみれば、毛足の短い絨毯の感触が返ってくる。押し迫るような静寂があった。ただ一つ、防犯用の魔法装置の小さなランプが光っている。


「ナズカ」


 隣にいる相手を呼ぶくらいの声で私は言った。返答はない。足音も聞こえない。


 暗闇に慣れない目を周囲にめぐらせた。崩れた螺旋階段の影と、窓の形に切り取られた淡い光がぼんやりと浮かび上がるばかりだ。






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