第3話 南方にて

「ザラマンダー・リーダーより各機」


南方大陸北部の帝国植民地。フェザーンやキレナイカ、トリポリタニアなどの3地域が帝国の主要な北部植民地だ。


「愚かな植民地人共を叩き潰せ」


国防予備軍の実績作りとしてザラマンダー戦闘団は共和国の、支援の元独立運動の鎮定に派遣された。

少数の野砲に単発式の旧式ボルトアクション。

初期型の装甲猟兵も居ない戦場にとって第三世代 黒騎士シュバルツ・リッターE型は正に戦場の覇者となる。42口径の短砲身から放たれる榴弾は敵の37ミリ野砲を超える射程から微弱な抵抗を粉砕し、機動型と第三世代の重装甲モデルに比べて軽装甲という話であり第2世代以下の装甲猟兵なら相手にもならず、簡易な野砲それも37ミリのそれなど無いにも等しい。


『ザラマンダー・ドライよりリーダー。未確認アンノンの長砲身大口径砲です。直撃はしていませんが75ミリ以上の対装甲砲の可能性があります』


中隊ごとに分散し最右翼に位置する第3中隊からの報告


「ドライ、推定の距離と被害は?」


『距離約2000、損害はありません』


『ザラマンダー戦闘団!こちらへホテル1、共和国軍の攻勢だ、独立宣言を出したフェザーン自由国は共和国の支援を要望、それに応え師団規模の部隊が越境在地の第7装甲猟兵連隊が応戦中、支援に向かえるか?』


「ザラマンダー戦闘団了解、ドライ、フィーア両中隊は敵対装甲砲撃破後合流せよ残りの全隊我に続け」


駐留軍の大部分は反乱鎮定に出ていた。さらに隣接するミスライム植民地は連合王国領であり、より重点を置かれていた西方の共和国国境の方から部隊が複数引き抜かれている。


『支援感謝する、作戦司令部からの命令は機動防御敵軍の前進部隊を撃破してくれとの事だ』


「要望は理解する、だが我々の指揮系統は独立。本国軍の指揮を受ける。それ故に我らは植民地軍第4装甲兵特務群の1部隊として活動しているのだ」


本国軍の指揮を受けつつも世界大戦を起こさない世界的に御為倒し。


1.本国を介入させない植民地同士の戦争に収められるようにする事

2.本国軍、海軍の展開を行わないこと

3.植民地から本国を攻撃しない事

4.本国から植民地を攻撃しない事


帝国は主要ないくつかの拠点を抑えている

紅海の入口やボスポラス海峡、キール運河の主要拠点の他に各地のエーテリウム鉱山を抑えている。


『ですが!』


「無論、心配するな。我々は大きく迂回し敵側面を突く。可能なら暗号文にて送付せよ」


『…HQだ、若いものが失礼した。命令は1つ、帝国に勝利を』


「了解、ザラマンダー戦闘団我独断専行ス」


先程の指示通り、部隊を分割し戦場に急行する。


『ツヴァイよりリーダー、射程範囲に入ったわ。何時でもやれる』


「各位自由射撃。奴らにお帰り願おう」


42口径88ミリ突撃砲が一斉に火を噴く。側面からの吸収に敵の第1世代の機動型シャールをアウトレンジから撃破していく。

シャールは37ミリ突撃砲とそれに見合う走行のみの高速性と対人戦闘力を重視した歩兵師団配備のモデル。重装甲モデルですら50ミリが共和国製第1世代。

対して、帝国植民地軍の第1世代は機動型は短砲身75ミリ、重装甲モデルには長砲身75ミリ。正に対装甲猟兵用途の為の装甲猟兵であり、第2世代、本国軍の主力は長砲身75ミリという火力・装甲共に向上している。

帝国第三世代は短砲身75ミリ突撃砲は機動型、重装甲モデル双方共装甲で弾き、主砲は69口径88ミリ突撃砲。現在はモンキーモデルの42口径88ミリ突撃砲だが、これは第2世代への新型砲として更新される予定だ。


『ザラマンダーか!こちらR7リーダー』


「ザラマンダーだ。R7状況は?」


『こちらの戦力は大隊1個に2個増強中隊規模が残存、砲弾は射耗。火力として発揮可能なのは残り1時間弱』


想定より危機的だが、その分しっかりと撃破しているのがみてとれる。37ミリとはいえ関節部やハッチ等の弱点を狙われたらしい。


「理解した、アインツ中隊で支援しろ、ツヴァイ俺に続け鴨撃ちだ」


ターキーシュート。射程圏外からの一方的な突撃砲の咆哮は対装甲刀剣を構え吶喊するもの以外一切合切を撃破し、合流してきたドライとフィーアを前衛に旅団規模の敵を粉砕する。

数十分後、そこには共和国製の鋼鉄の骸が転がっていた。


『ザラマンダー・リーダー、感謝する。君たちのおかげだ』


生き残りの部隊から感謝を受ける。第7連隊から共有可能な機関砲やその他の設備を受け取り、更に移動することにする。


「敵の大部隊を叩いたわけだ、つまり奴らに我々の存在はバレている可能性がある第三世代の機動力を見せてやろう」


敵地を大きく越境し前線司令部を焼夷弾と榴弾で叩く。補給部隊は敵地を大きく越境して我々に装備を届けた。越境開始から5日後、我々は敵共和国領カルタゴ植民地の首都ヘラクレアに到達していた。


『装甲狙撃兵中隊、撃て』


眼下で慌ただしくトレーラーから降ろされる敵の装甲猟兵を一方的に装甲狙撃兵中隊が釣瓶撃ちにする。

高台に位置する彼らを横目に接近し、自走しながらも砲撃してきた第2世代の重装甲型のラ・ピュールの57ミリ砲を弾く長砲身の88ミリ砲に対する防御力を目標に設計されたシュバルツ・リッターの敵では無い。


『畜生!奴ら植民地戦争に第三世代を持ち出してきやがったな!』


重要拠点ということで配備されたであろう第二世代型、型落ちの第1世代相手なら余裕な戦力でも増強大隊規模の第三世代には敵わない。

88ミリ砲の徹甲弾。魔導演算機マギウスエンジンを貫通し暴走したエーテリウムは火を吹き装甲猟兵は沈黙する。


「戦闘団各位、丁重に叩き潰せ」


『少佐殿!』


混乱を始めた敵は通信に平文が混ざり始める。


『落ち着け!各位ハッチや関節、感覚器を狙え!』


「黙らせろ」


『こちら、アドラー・ワン。黙らせたわよ』


着弾音。こちらは制式は79口径88ミリ砲だが、モンキーモデルとして69口径に換装されている。


「第4中隊、近接用意切り込め。他の中隊は支援だ、味方に当てるなよ?」


飛び出していく第4中隊の隙間から適宜支援を与えつつ、前進し市街区へと近接する。


装甲狙撃兵は長距離砲撃にてヘラクレアの長距離通信局を焼夷弾で焼き払い通信を混乱の渦に叩き込む。


「帝国植民地軍指揮官より共和国植民地総督へ降伏勧告を布告する」


装甲狙撃兵の視界から混乱する総督府が見えるらしく、慌ただしく人員と物資が中に運び込まれているらしい


「回答の期限は4時間後までとする」


既に全機の敵を撃破した後。


『…こちら…民地総督府!総督命令によりカルタゴ植民地軍に対して停戦命令を発令する…り返すこちら植民地総督府…督命令によりカルタゴ植民地軍に対して停戦命令を発令する!』


投降した部隊の対装甲砲を踏みつけ、小銃や機関銃の山を踏みつけた。数分後には後続の歩兵部隊が到着し市街地を掌握していく。


「これは総督閣下、我隊の支持を受けて貰いたい」


「…ああ。既に植民地政府は停戦命令を発した。過激派等や連絡線の遮断されたものたちは抵抗するだろうが、そこは我々の預かり知らないところだ」


「勿論ですとも。私も閣下の待遇は口添えしておきます」


「…指揮官殿、名前は?」


「フリードリヒ・カール・リッター・フォン・オラニエンブルクです」


「では、共和国はカルタゴ植民地を我々に譲渡するでよろしいな?」


「仕方あるまい。大統領は同意されている」


共和国の外交官と帝国側の全権委任大使が会話している。共和国はヘラクレアの陥落時点で既にカルタゴ植民地のみの放棄で損切りに走った。


「よろしい。ならばフェレンツ条約は発効だ」


「…続いては捕虜返還交渉だ」


「そうですな、解放は構わんが…な?」


何も無しは有り得ない。


「ミスライムを非武装地帯にしよう」


ミスライム南部に共和国は勢力圏を持っている。帝国ほどでは無いものの大運河を運用経営する大運河会社の株式は帝国が65%、共和国が15%と2番手の株主である。

あまり譲歩させるのも現政権に打撃となる為に死にものぐるいとなられかねない


「子爵閣下如何かな?」


「ええ、陛下が予測されていた落とし所はそこでしょう。大使殿、ミスライム守備隊それの半減までで譲歩します。大統領閣下によろしくお伝えを」


軍事面の顧問兼、皇帝の意志の代言者としてこの場に臨席する俺はそう伝える。派遣されてきた大使は隠してはいるし優秀だが、大統領の甥。大統領に恩を売ってやると言ったのだった。

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ザラマンダー装甲猟兵戦闘団 佐々木悠 @Itsuki515

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